ひとりぼっちのテイラーさん
聖王伝 第22話 「では、行ってきます、お母様!」「気をつけてね。あまり皆さんのご迷惑になってはダメよ」母さんの温かい声に見送られ、僕は今日もワカバと並んで家を出た。小さな手をしっかりと繋ぎ、カルカラの町をゆっくりとした足取りで歩きながら、僕は昨日の夕方にテイラーさんが少し寂しそうに語っていた言葉を思い出していた。『坊主、俺の大規模な魔法は今日で終わりだ。明日からは職人たちに混じって細々とした魔法での建築作業になる。だからお前は、明日からは訓練所で皆にみっちり鍛えてもらいな。俺は日の出前に、一人で現場へ向かうからよ』寂しげな横顔を見て、僕は思わず口を挟んでいた。『テイラーさん、なんでしたら僕も明日からご一緒させて――』言いかけると、テイラーさんは僕の頭をクシャクシャと乱暴に、だけどどこか愛おしそうに撫で回した。『坊主、ありがとな。だが、今の分を弁えろ。お前に必要なのは、現場の片付けじゃなくて、一歩でも強くなるための訓練だぜ』そう言って、彼は優しく僕の申し出を止めてくれたのだ。だから今日、待ち合わせ場所にテイラーさんの姿はない。今頃、あの巨大な防壁の内側で、一人で汗を流しているのだろう。(テイラーさんに恥ずかしい姿は見せられない。もっと、強くならなきゃ!)期待に応えたいと胸を熱くしていると、いつもの広場が見えてきた。「カレハ〜〜! ワカバちゃん〜〜っ!」真っ先に僕たちに気づいたメディさんが、ぴょんぴょんと跳びはねながら元気に手を振ってくれている。ガッハさんとハオさんも、その後ろで穏やかな笑顔を浮かべていた。僕とワカバはそれを見て自然と早足になりながら、先輩たちの元へと合流した。「皆さん、おはようございます! 今日もよろしくお願いします!」「よろしくお願いします!」ワカバと声を揃えて元気に挨拶を交わす。ガッハさんが「さあ、まずは腹ごしらえをしようか」と、用意してくれていた温かい朝ごはんを僕たちの前に並べてくれた。美味しい朝食をみんなで賑やかに頂いたあと、いよいよ特訓3日目の幕が上がる。「よし! 今日の午前の訓練は、私が担当する『狩人の技能訓練』のリベンジよ〜!」メディさんがナイフの柄をポンと叩いてウィンクする。前回の訓練では、気配の消し方も察知の仕方も全く感覚が掴めず、散々な結果に終わってしまった。けれど、今日の僕はひと味違う。少しずつ体力もついてきたし、何よりテイラーさんの期待や、チームの皆さんの厚意が背中を押してくれている。「メディさん、よろしくお願いします! 今日こそは、絶対にコツを掴んでみせます!」大好きな妹が見守る中、僕は今日最初の深く長い呼吸を整え、メディさんとのマンツーマンの特訓へと足を踏み出した。




