多すぎる報酬
聖王伝 第20話 ハオさんおすすめの隠れた名店で、お腹いっぱい美味しいお昼ご飯を満喫したあと、僕たちは再びギルドの訓練所へと戻ってきた。午前中はテイラーさんの魔法を見学していただけなので、体力はあり余っている。というわけで、午後のメニューはガッハさんによる無手の格闘術だ。とはいえ、やることは前回と全く同じ。ひたすらコロコロ、コロコロと床の上を転がり続けるだけの時間が始まった。「カレハ君、僕たちの特訓方針が決まったよ。君にはこれから、格闘術と狩人の技術を重点的に鍛えていくからね」受け流されながらガッハさんの言葉を聞く。どうやら、基礎体力をつけつつ、危険を察知して自分の身を守る技術を最優先で叩き込んでくれるらしい。「お兄ちゃん、がんばってーー!」訓練所の隅から響くワカバの可愛い声援を背に受けながら、僕はなんとか一矢報いようと、あの手この手でガッハさんに攻めかかる。背後を取ろうとしたり、死角から掌底を狙ったりしてみたけれど、結果はやっぱりひたすら転がされるだけだった。十二歳の僕の攻撃なんて、プロのモンクの前では赤ん坊の甘えと変わらないみたいだ。たっぷり汗を流し、終わりの体操も終えて、今日の解散となる。その時、テイラーさんが僕とワカバの前に歩み寄ってきた。「坊主に嬢ちゃん、悪いな。基地の大規模な魔法は今日で終わりだ。領主様の土木作業員達と、後はすこしづつ仕上げていく、あとはなんとかなるレベルまで形にしたからな。だから明日からは、またここで全員にみっちり鍛えてもらいな」「そうなんですか……残念だけど、分かりました!」テイラーさんの凄まじい大魔法がもう見られないのは寂しいけれど、それだけ基地の準備が進んだということだ。納得して頷く僕に、テイラーさんは「おう、じゃあこれは今日の分の給金だ」と言って、一つの革袋を差し出してきた。受け取った瞬間、ずしりと重い手応えに僕は思わず目を見張った。中を覗くと、とても僕のような子供が一日補助をしただけとは思えない、とんでもない額の硬貨が詰まっている。「えっ!? て、テイラーさん、これ、いくらなんでも多すぎます! 僕、ただ隣で見ていただけなのに、こんなに貰えません!」慌てて突き返そうとする僕の手を、テイラーさんはニカッと笑って押し戻した。「バカ言え、最初の契約通りだ。俺の魔法を間近で見るっていう『価値』も含めて、ルダール子爵からふんだくった報酬から、お前の取り分をきっちり割ったんだよ。それにお嬢ちゃんの護衛代も込みだ、受け取っとけ」僕がまだ恐縮してオドオドしていると、ガッハさんやメディさん、ハオさんまでもが後ろから「受け取りなさい」「そうよ〜、遠慮はいらないわよ〜」と笑顔で頷いてくれた。「……ありがとうございます。大切に使わせていただきます!」もの凄く申し訳ない気持ちになりながらも、先輩たちの温かい厚意をありがたく頂き、僕とワカバは帰路についた。ポケットの中でずっしりと存在感を放つ報酬袋の重みを感じながら、僕は「明日からの特訓も、この恩を返すために絶対にへこたれずに頑張ろう」と、大好きな妹と手を繋いで夕暮れの道を急ぐのだった。




