豪華な馬車に揺られて
聖王伝 第18話 「行ってきます、お母様!」元気に挨拶をして、僕はワカバと手を繋いで家を出た。今日はいつもと違う。あの一流の精霊人魔法使い、テイラーさんの本格的な魔法をこの目で、しかも特等席で見ることができるのだ。胸の中に期待と興奮をパンパンに膨らませながら、ワカバとワイワイとお喋りをしていつもの集合場所へと向かった。けれど、町の正門の手前まで来たとき、僕は思わず足を止めた。「あれ……?」門の前には「黒鷹の翼」のメンバーだけでなく、見たこともない見事な装備に身を包んだ、物々しい一団がズラリと控えていたのだ。こちらに気づいたガッハさんたちが、大きく手を振って合流を促してくる。「皆さん、おはようございます、今日もよろしくお願いします」「おはようございます!」僕とワカバが駆け寄ると、ガッハさんが微笑みながら状況を説明してくれた。彼らはルダール子爵閣下に仕える兵士や職人の一団で、今回の探索基地の拡充を現場で統括する責任者の方々なのだという。これだけの大人数と大量の建築資材だ。町に入るだけでも、所属や登録の確認、厳重な荷物検査などで膨大な時間と手間が取られてしまう。そのため、あえて町の中には入らず、門の外で「黒鷹の翼」と合流してそのまま西の森へ向かう手筈になったらしい。国家規模の事業になりつつある現場のスピード感に、僕はなるほどと深く納得した。「では、カレハ君、ワカバちゃん。僕たちはあちらの馬車に乗せてもらおうか」案内されたのは、これまでに見たこともないほど巨大で豪華な馬車だった。車体を引っ張るのは、毛並みの揃った立派な軍馬が二頭。荷台の木造りもしっかりとしていて、これなら苦手な激しい振動も少なそうだ。「では、黒鷹の翼の皆様。本日の拡充工事、何卒よろしくお願いいたします」子爵配下の責任者の方が恭しく一礼し、それぞれの指揮へと戻っていく。僕たちはチームの先輩たちと一緒に豪華な馬車へと乗り込んだ。ただ、メディさんだけは車内に入らず、不満げに頬を膨らませて御者台(運転席)の隣へとよじ登っていく。「も〜〜! カレハちゃんやワカバちゃんとお喋りしたいのに、この馬車、壁が立派すぎて外の景色が見えないじゃない! 残念〜〜!」メディさんの贅沢な愚痴に、車内ではテイラーさんやハオさんが苦笑いを浮かべていた。そうこうするうちに「出発!」という力強い号令が響き渡り、大勢の兵士や馬車がゾロゾロと列をなして森へと進み出した。「人数が多いと、移動するだけでも大ごとだね」車内のふかふかのシートに揺られながら、ワカバとそんなお喋りを楽しむ。さすがにこれだけの軍勢だ。動き出してしまえば、あっという間に西の森の入り口へと到着した。馬車を降りて周囲を見渡すと、すでに兵士たちが素早い動きで隊列を組み、森の警戒にあたっていた。さらに、何十人もの職人たちが、森の入り口に簡易的な休憩所や陣地をもの凄いスピードで設営し始めている。昨日まで静かだった森が、まるで一つの生き物のように騒がしく変化していく。「じゃあ、行くか。坊主に、嬢ちゃん」テイラーさんがニカッと不敵な笑みを浮かべ、僕たちの頭をぽんぽんと叩いた。ガッハさんやハオさん、そして御者台から飛び降りてきたメディさんも武器を手に引き締まった表情になる。僕たちは頼もしい「黒鷹の翼」の背中を追いかけ、いよいよテイラーさんの魔法が発動する、西の森の奥の探索基地へと足を踏み入れた。




