テイラーさんとお家ご飯
聖王伝 第17話 ルダール子爵閣下との緊急の打ち合わせが終わり、応接室を出る頃にはすっかりいい時間になっていたため、今日の訓練はこれで解散となった。「よし、坊主。明日からの仕事にワカバちゃんを連れていくとなると、一度ちゃんとお前の母親に説明して許可を貰っておかないとな」テイラーさんの提案で、今日は彼が直々に僕の家を訪問することになった。町で適当な手土産の焼き菓子を買い、三人並んで家へと向かう。道中、ワカバはテイラーさんの服の裾をぎゅっと掴み、べったりと寄り添って歩いていた。(確かにテイラーさんは精霊人だから、おとぎ話から飛び出してきたみたいに容姿が整っているもんなぁ……。気持ちは分かるけど、ワカバ、お前なかなかの面食いだな。お兄ちゃんちょっと寂しいぞ……)そんなくだらない嫉妬を心の中で呟いているうちに、住み慣れた我が家へ到着した。「ただいま戻りました、お母様」扉を開けて僕が声をかけると、その後ろからテイラーさんが静かに頭を下げて室内に足を踏み入れた。「夜分に突然失礼する、御母堂殿。『黒鷹の翼』のテイラーだ。いつもカレハには世話になっている」突然の美しい精霊人の来訪に、母さんは一瞬驚いて目を丸くしたけれど、すぐに上品に頭を下げて迎え入れてくれた。居間の椅子に腰掛けると、テイラーさんは冗談を一切交えず、真摯な口調で本題を切り出した。「実は明日から、領主様からの依頼で西の森の探索基地を大規模に拡充する工事を請け負うことになりましてね。カレハには俺の補助として、仕事を手伝ってもらうことになりました。そこで……もしよろしければ、後学のために、大規模な魔法を行使する現場をワカバちゃんにも見せてあげたいと考えているんです」母さんが心配そうに眉をひそめる前に、テイラーさんは言葉を続ける。「現場は子爵の兵士たちが厳重に警備しており安全です。さらに、俺たちのチーム全員が付き添います。決して危険な目には遭わせないと約束しますので、どうか明日、ワカバちゃんを俺たちに預けてはいただけないでしょうか」その誠実な言葉と、隣で「お母さん、お願い!」と手を合わせるワカバの熱意に、母さんはふっと表情を和らげた。「……そこまでチームの皆様が守ってくださるのなら、安心ですね。お仕事のお邪魔にさえならなければ、ぜひよろしくお願いいたします」「やったぁー!」とワカバが大喜びし、僕もホッと胸を撫で下ろす。せっかくの機会だからと、母さんが「お粗末なものですけれど、よろしければ夕食を召し上がっていかれませんか?」と誘うと、テイラーさんは「いいんですか? ありがたくいただきます」と嬉しそうに席に残ってくれた。その日の晩御飯は、いつも以上に賑やかで温かい時間になった。テイラーさんは精霊人の故郷の話や、旅の道中での面白い失敗談などを気さくに話してくれて、母さんもワカバも終始笑顔が絶えなかった。食後の楽しげな雑談に花を咲かせた後、「それじゃあ、明日遅れないようにな」と僕の頭をぽんっと叩き、テイラーさんは夜の町へと戻っていった。頼もしい先輩たちと、大好きな家族。明日から始まる新しい仕事が、いまから楽しみで仕方がなかった。




