5日のはずが2日に
聖王伝 第16話 ギルド2階の応接室。重苦しい沈黙の中、ルダール子爵エスカリフは僕たちを見据えて、王都から届いたばかりの決定を理路整然と説明し始めた。「国軍の派遣、発見された施設を調査するための国家規模での探索者募集、そして周辺の安全確保のための傭兵組合への大規模な依頼。これら全てが王命として正式に決定した。また、あの地は最近まで領有権を争っていた係争地だ。国の方からムサーダ男爵へ説明の使者を送ったという。そして私には、そのすべてを迎え入れるための、現地の受け入れ態勢を整えよとの指示が下った」子爵はそこで一度言葉を切り、真剣な眼差しをテイラーさんへと向けた。「そこで相談なのだが、高名なる『黒鷹の翼』が誇る【エレメンタルマスター】――テイラー殿。貴方の卓越した魔法の力を、どうかお借りできないだろうか? 休暇中を邪魔してしまい本当に申し訳ないが、貴方の土の魔法があれば、探索基地の大規模な拡充工事を劇的に早めることができる。……これが私から提示出来る金額と、君への待遇だ」提示された羊皮紙には、一般の探索者なら目が飛び出るような高額な報酬が記されているようだった。それを見たメディさんが、ニヤニヤと意地悪そうにテイラーの肩を突く。「あら〜テイラー! チームじゃなくて個人依頼だなんて、一人で受ければ大儲けじゃない! 良かったわね〜!」「うむ。まさに魔法使いの特権だな」ハオさんも静かに頷く、カレハちゃんとワカバちゃんは任せてね〜と、当のテイラーさんは「むーーー」と苦虫を噛み潰したような顔で唸っていたが、突然「はっ!」と閃いた顔をして僕の方を振り向いた。「おい、坊主! 俺は明日からの午前中、その拡充工事の仕事を引き受けることにした。どうだ、お前、仕事として俺の『補助者』にならねぇか? 目の前で俺の魔法が見放題だぜ!」「えっ……! 喜んで、よろしくお願いします!」プロのエレメンタルマスターの魔法を特等席で見られるなんて、これ以上の訓練はない。僕は二つ返事で頭を下げた。すると、僕の隣で話を聞いていたワカバが、テイラーさんの服の裾を引っ張る。「テイラーお兄ちゃん、ワカバもお兄ちゃんの応援と、魔法観たい!」「よし、決まりだ! 坊主、お前にお嬢ちゃんの護衛と世話の任務も追加だ。補助としての報酬はきっちり弾んでやるからな!」テイラーさんがニカッと笑って即決すると、それまで黙って聞いていたガッハさんが、呆れたように、けれど本当に嬉しそうな笑顔を浮かべて溜息を吐いた。「やれやれ……テイラー、僕たちはチームだろう? そんな水臭いことを言うなよ。カレハ君にだけ良い格好をさせるつもりかい? 探索基地の拡充なら、僕たち全員で取り掛かるさ。なぁ、ハオ、メディ」ガッハさんの言葉に、ハオさんは短く「勿論だ。重労働は任せろ」と頷き、メディさんも「当然よ〜! カレハちゃんやワカバちゃんだけに寂しい思いはさせないわよ〜!」と拳を突き上げた。「お前ら」テイラーさんは憮然と呟く。こうして、僕たちの5日間の完全な休息日は、わずか2日で終了することになった。明日からは、新米の僕だけでなく「黒鷹の翼」の全員で受ける、探索基地の緊急拡充任務が始まる。チームの絆の温かさに胸を熱くしながら、僕は明日からの新しい仕事に向けて、深く気合いを入れ直すのだった。




