凄い、凄い、ガッハおじちゃん
聖王伝 第15話 テイラーさんお勧めの絶品肉串屋台を心ゆくまで満喫した後、午後の特訓が始まった。午後は体を動かすのではなく、ふたたび座学。今回はモンクであるガッハさんによる「神学講義」だ。講義の場所は、探索者組合の待合室ではなく、カルカラの町にある歴史ある教会へと移動することになった。ガッハさんがこの町へ流れてきて以来、礼拝のたびに欠かさず多額の喜捨(寄付)を行っていたお陰だろう。教会の神父様は快く一室を貸し出してくれただけでなく、講義の補助として若い教会職員の男性を一人付けてくれた。部屋に入ると、その職員さんの様子がどこかおかしい。ガッハさんに対して、まるで雲の上の存在を見るかのように、恐ろしく恭しい態度で接しているのだ。「――では、始めようか」ガッハさんが穏やかな声で教壇に立つ。「世界に偉大なる神々が顕現し、僕たち生命を正しき道へと導き出したのは、先ほども話した、魔竜が世界を滅ぼそうとした千六百年前の大戦の折だ。生きとし生ける者すべてが絶望的な力に抗い、そして散っていった。そんな理不尽な状況の中、人々の強い祈りに応えるようにして現れた希望の光……それこそが、今僕たちが授かっている【加護】やスキルの萌芽なんだよ」カレハとワカバが真剣に頷いていると、後ろに控えていた教会職員の男性が、感極まったように一歩前に出て言葉を補足した。「カレハ様、ワカバ様。ガッハ師がお使いになる『神聖魔法』もまた、神々への深く純粋な祈りが認められた者にのみ形として現れる、奇跡の力なのです。そして……ここにいらっしゃるガッハ師の神聖魔法は、なんと、高位の聖職者でなければ到底辿り着けない【第4階位】であられます!」職員さんは、尊敬と崇拝の念がこれでもかとこもった熱い眼差しをガッハさんに向けている。ほへー……。ガッハさんって、そんなにすごい偉いお坊様だったんだ。僕がぽかんと口を開けて圧倒されていると、隣に座っていたワカバが、小さな手を叩いてきらきらと目を輝かせた。「ガッハおじちゃん、すごーい! すごーい!」「左様です、ワカバ様! 本当に、本当に凄まじいお方なのです!」「……あはは、二人とも、そこまでにしなさい。神の前では皆等しく凡夫なのだから……」職員さんとワカバが手を握り合って大盛り上がりする中、当のガッハさんは耳まで真っ赤にして、なんとも気まずそうに顔を伏せていた。普段の頼りがいのある姿とのギャップが面白くて、僕の緊張もすっかりほぐれてしまった。その後も1時間ほど、世界の神話と祈りの重要性についての講義が続き、今日の座学はすべて終了となった。ガッハさんは神父様へ丁寧にお礼を述べ、「少ないですが、主の御心のために」と、またしても革袋から喜捨を渡していた。充実した気分のまま、僕たちはワカバと手を繋いでギルドの建物へと戻ってきた。すると、ロビーに入るなり、受付の職員が血相を変えて僕たちの元へ駆け寄ってきた。「黒鷹の翼の皆様! ルダール子爵閣下がお部屋でお待ちです! すぐに2階の応接室へ!」「えっ……子爵様が、もうカルカラに?」ガッハさんが眉をひそめる。一昨日、領都ルダーで別れたばかりなのに、もうここまで自ら足を運んできたというのか。職員に案内され、重厚な応接室の扉を開けると、そこには一昨日と変わらぬ衣服を纏ったルダール子爵エスカリフが、真剣な面持ちでソファーに腰掛けていた。「やあ、黒鷹の翼の諸君。せっかくの休暇の最中に、突然押しかけてしまって本当に申し訳ないね」子爵は僕たちの姿を見るなり立ち上がり、一昨日の優雅な態度とは一転して、どこか緊迫感のある声を響かせた。「実は、王都へ飛ばした急使から、早くも国王陛下のご返答と指示書が届いたのだよ。その内容の報告と……君たちに、至急の『新たなお願い』があり、こうして自らカルカラまで来させてもらった」ルダール子爵のその言葉に、室内の空気が一瞬でピリリと張り詰める。王都の最高権力者である国王からの指示。僕の初めての特訓2日目は、国家をも揺るがす巨大な時代のうねりを告げる、領主様からの急報によって締めくくられることとなった。




