おしゃれなお店でお昼ご飯
特訓2限目の午前中は、体を動かすのではなく「座学」から始まることになった。探索者組合の1階にある待合室のテーブルを正式に借り、先輩たちを囲んで椅子に座る。「僕たち『黒鷹の翼』はこのグラナード王国の出身ではなくてね。だからこそ、一つの国に偏らない、この世界全体の歴史や情勢を教えてあげられると思うんだ」ガッハさんのそんな言葉から始まった講義は、僕にとって驚くことばかりだった。「今からおよそ千六百年前、世界を襲った大きな災厄があった。呼び方は地域によって様々だけれど、生きとし生ける者の実に7割から8割が、魔竜とそれに与せし者たちによって無残に殺され、それまでの高度な文明がことごとく破壊されてしまったんだ」千六年前の魔竜大戦。僕たちの訪れている遺跡も、その時代に滅んだ建築物だと思われる、僕はもちろん、隣に座るワカバも、おとぎ話のような壮大な歴史の講義に目をキラキラと輝かせながら聞き入っていた。充実した座学が2時間を超えた頃、買い出しを終えた母さんが訓練所にやってきた。「ワカバ、そろそろ帰るわよ。皆様、うちの子供たちのわがままを聞いてくださり、本当にありがとうございました」お辞儀をしてワカバを連れて帰ろうとする母さんの服の袖を、ワカバがぎゅっと掴む。「お母さん、ワカバ、もう少しここに居たい……。お兄ちゃんの応援したいの。ダメ?」上目遣いでおねだりするワカバに、母さんが困ってチームの皆さんへと視線を向けると、メディさんがパッと両手を広げて立ちはだかった。「大丈夫、大丈夫! お母様、心配しないで〜! 帰る時は私たちが責任を持って送り届けるから! ね〜、ワカバちゃん!」「うん!」母さんはクスッと微笑み、もう一度深く頭を下げた。「では、申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします」母さんが帰路につくと、ワカバとメディさんは「えへへ」「うふふ」と顔を見合わせて嬉しそうに笑い合っている。すっかり実の姉妹のようだ。ガッハさんがポンと手を叩いた。「よし、時間も調度お昼時だ。みんなでお昼ご飯にしよう。ワカバちゃん、何か食べたいものはあるかね?」「ワカバ、外のご飯ってあんまりわかんない……」少し恥ずかしそうに縮こまるワカバの手を、メディさんが優しく握る。「よし! だったら私がとびきり良いお店に連れて行ってあげるわ〜!」メディさんに連れられて入ったのは、カルカラの町の中でも一際オシャレで、僕たち家族だけでは絶対に足を踏み入れないような格式高いレストランだった。メニューを開いて驚いたのは、なんと子供用の小さなコースメニューまで用意されていたことだ。運ばれてくる綺麗で美味しい料理の数々に、僕もワカバも夢中になって舌鼓を打った。そして極めつけは、デザートとして運ばれてきた、冷たくて甘い『アイスクリーム』だった。「おいしーーーいっ!!」滅多に食べれないアイスクリームその贅沢な甘さに、僕もワカバも喜びを爆発させてしまい、先輩たちはその様子を本当に嬉しそうに眺めていた。大満足の食事の後、ギルドに戻って少し休憩を入れてから、午後の激しい稽古が始まった。相変わらず僕はガッハさんにコロコロ、コロコロと床に転がされ続けたけれど、お腹の底から元気が漲っているのを感じていた。2時間ほどの過酷な訓練が終わり、全員で念入りに終わりの体操を行う。隣で一生懸命に短い手足を伸ばしているワカバを見て、案の定、メディさんが「あ〜〜もう、駄目〜〜っ! 可愛すぎて悶絶しちゃう〜〜!!」と床をごろごろ転がっていた。テイラーさんが「毎回やってんなお前」と呆れ顔で突っ込んでいる。帰りは、大盾使いのハオさんが「我が家まで送る」と名乗り出てくれた。無骨で寡黙なハオさんだけれど、歩調を僕やワカバの小さな足に合わせてゆっくりと歩いてくれる。道中、今日習った歴史のことやアイスクリームの美味しさについてワイワイとお喋りしながら、楽しく帰路についた。門の前で「ありがとうございました!」とハオさんを見送る。なんて楽しくて、充実した一日だったんだろう。家に入ったら、待っているお母さんにも、今日あったたくさんの素敵な出来事をお裾分けするように、全部お話ししてあげよう。




