校外スケッチの回
7月のある金曜日。
明石高校美術科では、校外スケッチの授業が行われることになった。
行き先は、学校から少し離れた川沿いの公園。
朝から晴天で、夏らしい青空が広がっていた。
「暑そう……」
集合場所に着いた林歩美は、早くも弱音を吐いた。
「まだ始まってもいないよ」
遠野華子が苦笑する。
先生から説明を受ける。
「今日は自由に場所を選んでスケッチしてください」
生徒たちはスケッチブックを抱えて散らばっていった。
橋を描く人。
川を描く人。
木陰を描く人。
それぞれ好きな場所を探していく。
歩美は川辺のベンチに座った。
目の前には穏やかな川の流れ。
遠くには橋も見える。
「よし」
鉛筆を動かし始める。
しかし。
数分後。
「難しい……」
橋の形がうまく取れない。
遠近感がおかしくなる。
何度も消しゴムを使った。
一方、華子は黙々と描いていた。
集中すると周りが見えなくなるタイプだ。
時々立ち上がって景色を確認し、また座る。
その様子を見た歩美は感心した。
「真面目だなあ」
昼休憩。
生徒たちは木陰に集まった。
持参したお弁当を広げる。
「全然進まなかった」
歩美がぼやく。
「どれどれ」
純子がスケッチブックを覗く。
「悪くないじゃん」
「本当?」
「ちゃんと橋に見える」
「基準が低い」
華子が即座にツッコんだ。
みんなが笑う。
午後。
再び制作開始。
今度は細かい部分より全体を見ることを意識した。
先生のアドバイスもあり、少しずつ形が整っていく。
「おお」
歩美は少し嬉しくなった。
絵が完成に近づいている。
授業終了。
作品を見せ合う時間になった。
同じ公園を描いたはずなのに、それぞれ全く違う。
ある人は橋を大きく描き、
ある人は川の流れを中心に描き、
ある人は木々の緑を強調している。
「面白いなあ」
歩美は思った。
同じ景色でも、人によって見えているものが違う。
それが美術の面白さなのかもしれない。
放課後。
明高荘の談話室。
住人たちは今日描いたスケッチを広げていた。
「歩美、思ったより上手だったね」
「思ったよりって何!」
笑い声が上がる。
作品の感想を言い合いながら、夕方まで話が続いた。
校外スケッチは疲れたけれど、少しだけ成長できた気がする。
そんな一日だった。




