赤くなったトマト第1号の回
6月上旬。
朝。
弓木家の家庭菜園。
「赤い!」
ちかの大きな声が庭に響いた。
さやかが急いで外へ出る。
「どうしたの?」
「トマト!」
指差した先。
トマトの苗に、一つだけ真っ赤な実がなっていた。
「おお」
さやかも思わず声を上げる。
今年最初の完熟トマトだった。
学校へ行く前の歩美と華子も駆けつける。
「本当だ!」
「ついにだね」
二人が育つ様子を見守ってきたトマトだった。
そこへあかりと奈緒もやって来る。
「収穫!?」
「収穫ですか!?」
あかりの目が輝く。
「落ち着いて」
奈緒が言う。
「まだ朝だから」
でもみんな気になって仕方がない。
登校前なのに、家庭菜園の前に人だかりができていた。
「帰ってから収穫しよう」
さやかの一言でようやく解散。
「早く帰りたい」
「学校行く前に言うことじゃない」
華子が笑った。
そして放課後。
高校生組が帰宅すると、
すでにちかが待機していた。
「遅い!」
「学校だから!」
歩美が言う。
「トマトが待ってる!」
トマトは逃げない。
全員が家庭菜園へ集まる。
さやかがハサミを持つ。
「今年の第一号です」
少しだけ特別な空気になる。
「誰が取るの?」
あかりが聞く。
みんなが顔を見合わせる。
すると歩美が言った。
「最初に見つけたちかちゃんでいいんじゃない?」
「賛成」
「異議なし」
満場一致だった。
ちかは少し緊張した顔になる。
「いいの?」
「いいよ」
「やった!」
パチン。
小さな音とともに、
赤いトマトが収穫された。
「取れた!」
拍手。
なぜか拍手だった。
その後。
洗って切る。
みんなで一切れずつ食べることになった。
「いただきます」
ぱくっ。
「甘い!」
ちかが叫ぶ。
「おいしいね」
歩美も笑う。
「スーパーのより味が濃い気がする」
華子が言う。
「自分たちで育てたからかも」
奈緒が答えた。
そこへ仕事帰りの涼子も到着。
「間に合った?」
「最後の一切れあります」
「やった」
初美と恵子も少しずつ味見。
つむぎは、
「もう一個赤くならないかな」
食べることしか考えていなかった。
夕方。
みんなで改めて畑を見る。
赤くなり始めた実が他にもいくつかある。
ナスも順調。
キュウリも元気。
とうもろこしは背丈がぐんと伸びている。
「これから忙しくなるね」
さやかが言う。
「収穫祭も近い?」
ちかが聞く。
「まだ少し先かな」
「まだかあ」
しかし、その顔は嬉しそうだった。
今年最初のトマト。
たった一個の収穫だったけれど、
みんなにとっては特別な一個だった。
明高荘の夏は、もうすぐそこまで来ている。




