こどもの日の回
5月5日。
こどもの日。
朝。
弓木家の庭では、こいのぼりが風に泳いでいた。
「すごーい!」
あかりが見上げる。
「毎年出してるんだよ」
ちかが少し得意そうに言う。
黒いこいのぼり。
赤いこいのぼり。
小さなこいのぼり。
風を受けて元気に泳いでいる。
「いいなあ」
歩美が言った。
「高校生になっても見たら嬉しいね」
華子も頷く。
午前中。
ちかは庭を走り回っていた。
「今日はこどもの日だから!」
「だから何?」
奈緒が聞く。
「主役!」
「なるほど」
その理屈はよく分からなかった。
昼。
さやかがかしわ餅を用意していた。
「おやつだよー」
「待ってました!」
真っ先に反応したのは純子だった。
「子ども?」
優子が聞く。
「心は!」
「便利な言葉だね」
みんなでかしわ餅を食べる。
「おいしい」
奈緒が言う。
「葉っぱ食べるの?」
あかりが聞く。
「食べないよ」
危なかった。
午後。
庭の家庭菜園。
ちかはとうもろこしの前に立っていた。
「大きくなれー」
「話しかけてる」
歩美が笑う。
「こどもの日だから特別に大きくなるかもしれない」
「ならないと思う」
華子が言った。
その頃。
涼子、初美、恵子の社会人組もやって来た。
「今日は平和だね」
涼子が言う。
「たまにはね」
初美が笑う。
つむぎは縁側で寝ていた。
「つむぎさん」
「ん?」
「こどもの日ですよ」
「知ってる」
「何かしないの?」
「昼寝」
通常運転だった。
夕方。
みんなでこいのぼりを眺める。
風に泳ぐ姿はどこか気持ちよさそうだった。
ちかがぽつりと言う。
「来年は中学生かあ」
少しだけ寂しそう。
歩美が笑う。
「でもちかちゃんはちかちゃんでしょ」
「そうかな」
「そうだよ」
あかりも言う。
「中学生になっても主役やってそう」
「やる!」
即答だった。
みんなが笑う。
こうして明高荘のこどもの日は終わった。
こいのぼりが泳ぎ、
かしわ餅を食べ、
みんなで笑った一日。
そして夜。
ちかは日記にこう書いた。
『こどもの日。楽しかった。とうもろこしはまだ食べられなかった。』
最後だけはいつも通りだった。




