合格発表の日
3月上旬。
明高荘の朝は、どこか落ち着かなかった。
101号室。
歩美は朝ごはんを食べながら何度も時計を見ている。
「まだかなあ」
「歩美が受験したわけじゃないでしょ」
華子が言う。
「でも気になるじゃん」
それはみんな同じだった。
今日はいよいよ、
東ゆりと林山寛子の合格発表の日。
203号室。
ゆりは朝からそわそわしていた。
「落ち着かない」
珍しく本音が出る。
204号室。
寛子はお茶を飲んでいた。
「緊張しないの?」
ゆりが聞く。
「するよ」
「そう見えない」
「見えないだけ」
寛子は笑った。
午前10時。
発表の時間が近づく。
「見ようか」
ゆりがスマホを握る。
寛子も隣に座る。
二人とも無言だった。
画面を開く。
数秒。
沈黙。
さらに数秒。
「……あ」
ゆりが小さく声を出した。
「どうした?」
廊下で待っていた歩美たちが駆け寄る。
ゆりは画面を見つめたまま動かない。
そして。
「受かった」
一瞬静かになる。
次の瞬間。
「えええええっ!?」
廊下中に声が響いた。
「本当に!?」
「うん」
歩美が飛び上がる。
華子も笑顔になる。
純子はなぜか泣いていた。
「なんで純子が泣いてるの」
優子が言う。
「だって良かったじゃん!」
その時。
隣でスマホを見ていた寛子も顔を上げた。
「私も受かった」
再び大騒ぎ。
「おめでとうございます!」
「やったー!」
「すごい!」
みんな口々に祝福する。
夕方。
弓木家では急きょお祝い会が開かれた。
テーブルにはごちそう。
あけみがケーキを焼き、
涼子がピザを持ってきた。
「今日は豪華だなあ」
つむぎが感心する。
「主役が二人いるからね」
初美が笑う。
ゆりは思う。
受験勉強は大変だった。
不安な日もあった。
でも、
明高荘のみんながいた。
寛子も思う。
勉強に疲れた時、
この場所に帰ってくるだけで少し元気になれた。
夜。
お祝い会も終わりに近づく。
歩美が言った。
「先輩たち、卒業しちゃうんですね」
急に静かになる。
合格は嬉しい。
でも卒業は近づいている。
ゆりが笑う。
「まだ少し先だよ」
寛子もうなずく。
「卒業まで、もう少し明高荘を楽しもう」
みんなが笑顔になった。
春はもうすぐそこまで来ている。
明高荘にも、新しい季節が近づいていた。




