受験の日
2月の朝。
まだ空は薄暗い。
冬の冷たい空気が明高荘を包んでいた。
203号室。
東ゆりは静かに制服を整える。
机の上には受験票。
昨日のうちに準備は終わっていた。
「よし」
深呼吸をひとつ。
204号室。
林山寛子は温かいお茶を飲んでいた。
「いつも通り」
自分にそう言い聞かせる。
玄関へ向かうと、
ゆりと寛子が鉢合わせした。
「おはよう」
「おはよう」
少しだけ緊張した笑顔だった。
階段を下りると、
そこには明高荘の住人たちが集まっていた。
「先輩、おはようございます!」
歩美が手を振る。
「みんな早いね」
寛子が驚く。
「見送りだから」
華子が答えた。
純子は小さな紙袋を持っていた。
「これ」
「何?」
ゆりが受け取る。
「カイロ」
「寒いから」
「ありがとう」
ゆりは少し笑った。
優子が横から言う。
「純子が気を使ってる」
「私だって気を使うよ!」
「年に数回だけね」
「ひどい!」
みんなが笑う。
緊張していた空気が少しだけ和らいだ。
その時、
あけみが言う。
「帰ってきたらケーキ焼こうかな」
「合格祝い?」
歩美が聞く。
「まだ早いかな」
「早いね」
華子が即答した。
出発の時間。
ゆりと寛子は駅へ向かう。
「行ってきます」
「行ってきます」
「頑張ってください!」
歩美たちの声が背中を押した。
昼。
明高荘は妙に静かだった。
「なんか落ち着かないね」
歩美が言う。
「分かる」
華子もうなずく。
純子は珍しく騒いでいない。
「どうしたの?」
優子が聞く。
「二人とも今頃頑張ってるんだろうなって」
少しだけ真面目な顔だった。
夕方。
玄関のドアが開く。
「ただいま」
ゆりだった。
「おかえり!」
歩美が真っ先に駆け寄る。
続いて寛子も帰ってきた。
「お疲れさまです!」
みんなが迎える。
「終わったー」
ゆりが大きく息を吐く。
「とりあえず今日は何も考えない」
寛子も笑った。
夜。
弓木家で小さなお疲れさま会が開かれる。
鍋を囲みながら、
みんなで他愛のない話をする。
受験の話はほとんどしない。
今日は結果の日ではなく、
頑張った一日を終えた日だからだ。
歩美は鍋をよそいながら言った。
「先輩たち、本当にお疲れさまでした」
ゆりと寛子は顔を見合わせる。
「ありがとう」
冬の夜。
明高荘にはいつもの笑い声が響いていた。
受験という大きな一日が終わり、二人は久しぶりにゆっくりとした時間を過ごすのだった。




