大学共通入学テストの日
1月中旬。
土曜日の朝。
まだ外は暗かった。
203号室。
東ゆりは静かに目を覚ます。
目覚ましが鳴る前だった。
「……いよいよか」
机の上には受験票。
鉛筆。
消しゴム。
前日に何度も確認した。
204号室。
林山寛子も準備をしていた。
「忘れ物ないよね」
三回確認したあとで、
もう一回確認する。
受験の日は誰でも少し不安になる。
午前6時。
廊下に出ると、
ゆりと寛子が鉢合わせした。
「おはよう」
「おはよう」
いつも通りの挨拶。
でも少しだけ緊張している。
そこへ。
「頑張ってください!」
歩美だった。
「朝早いね」
「見送りたくて」
その後、
華子。
純子。
優子。
あけみ。
涼子。
初美。
恵子。
つむぎ。
みんなが集まってきた。
「受験票持った?」
純子が聞く。
「持った」
「鉛筆は?」
「持った」
「お昼ご飯は?」
「持った」
「純子、それ昨日から三回聞いてる」
優子が言った。
みんな少し笑う。
出発の時間。
「行ってきます」
ゆりが言う。
「行ってきます」
寛子も続く。
「頑張れー!」
明高荘のみんなの声が飛ぶ。
試験会場へ向かう二人の背中は、
少し緊張していたけれど、
しっかり前を向いていた。
その頃。
明高荘。
「落ち着かないね」
歩美が言う。
「分かる」
華子もうなずく。
純子は時計ばかり見ている。
「今頃国語かな」
「たぶんね」
共通テストは通常2日間にわたり実施される。
夕方。
玄関が開く。
「ただいま」
ゆりだった。
「おかえり!」
続いて寛子も帰ってくる。
「お疲れさま!」
みんなが迎える。
「どうだった?」
純子が聞く。
少し沈黙。
「まあまあかな」
ゆりが答える。
「私もそんな感じ」
寛子が笑う。
受験生らしい返事だった。
その夜。
弓木家で小さなお疲れさま会が開かれた。
「今日は勉強禁止!」
華子が言う。
「賛成」
歩美が言う。
「一日くらい休まないとね」
あけみも笑う。
受験はまだ終わっていない。
二次試験もある。
それでも、
大きな山を一つ越えたことだけは確かだった。
ゆりは温かいお茶を飲みながら思った。
「明高荘に住んでて良かったな」
窓の外には冬の星空。
明高荘の長い受験シーズンは、まだ続いていく。




