雪の日の回
1月のある朝。
林歩美がカーテンを開けると――
「うわっ!」
窓の外が白かった。
屋根。
駐車場。
明高荘の廊下の手すり。
うっすら雪が積もっている。
歩美は急いで着替えた。
玄関を開ける。
「寒っ!」
その瞬間。
102号室のドアも開いた。
「歩美!」
遠野華子だった。
「見た?」
「見た!」
二人とも少し興奮していた。
高校生になっても雪を見ると嬉しい。
明高荘の前には、すでに何人か集まっていた。
「雪だー!」
山下純子が元気に走り回っている。
「転ぶよ」
島居優子が言った直後。
ツルッ。
「わあっ!」
純子が見事に転んだ。
「ほらね」
優子はため息をつく。
「痛くない!」
「元気だなあ」
203号室の東ゆりはマフラーを巻きながら出てきた。
「受験の日じゃなくてよかった」
「確かに」
寛子もうなずく。
雪が降ると交通機関への影響が出ることもある。
「学校あるかな?」
歩美が言う。
「あるでしょ」
華子が答える。
「夢くらい見させて」
登校時間。
みんな慎重に歩く。
純子だけは慎重ではなかった。
「雪玉だー!」
「投げるな」
優子に止められる。
学校に着く頃には手が冷たくなっていた。
教室では雪の話題で持ちきりだった。
「朝、雪だるま作った」
「うちの犬が喜んでた」
「転んだ」
「純子先輩も転んでた」
なぜか情報が広まっていた。
放課後。
雪はほとんど溶けていた。
関西の雪は長く残らないことも多い。
「朝は真っ白だったのにね」
歩美が言う。
「でもちょっと楽しかった」
華子が笑う。
明高荘へ帰ると、
弓木さやかが小さな雪だるまを作っていた。
「まだ残ってた!」
玄関横にちょこんと置かれた雪だるま。
目は黒豆。
鼻はニンジンの切れ端。
「かわいい」
歩美がしゃがみ込む。
「明日には溶けるかな」
さやかが言う。
「たぶんね」
みんなでしばらく眺める。
冬の雪はあっという間に消えてしまう。
だからこそ少し特別だった。
その夜。
窓の外を見ながら歩美は思った。
「また降るといいな」
冬はまだ続く。
明高荘にも、もう少しだけ雪の思い出が残りそうだった。




