夏野菜の収穫
文化祭が終わって数日後。
明高荘の裏の小さな畑は、やけに元気だった。
「……また増えてる」
林歩美がしゃがみこんで言う。
緑の葉の間から、ナス、トマト、キュウリが次々と顔を出している。
■ナス
「これ、もう取っていいやつじゃない?」
遠野華子が指さす。
ツヤのある紫。少し重そうに下がっている。
「ナスはツヤがあるうちがいいんだって」
歩美が思い出したように言う。
「じゃあ今がピーク?」
「たぶん今」
ぷちっ、とハサミの音。
切った瞬間、夏の匂いが少し濃くなる。
■トマト
真っ赤な実が、日差しを受けて光っていた。
「これ、もう“食べろ”って顔してる」
華子が笑う。
「顔って何」
でも確かにそう見える。
ひとつ取ると、指に少しだけ甘い香りが残る。
■キュウリ
「こっちは伸びるの早いね」
弓木さやかが驚く。
前の日は小さかったのに、もう立派なサイズになっている。
「油断するとすぐ大きくなるタイプだこれ」
歩美が言う。
「人間みたいだね」
華子が返す。
■静かな時間
収穫は驚くほど静かだった。
文化祭のときみたいな騒ぎはない。
でも、その静けさが逆に心地いい。
しずくは淡々と籠に並べ、りんは数をメモしている。
「収穫効率:良好」
いつも通りの一言。
■小さな達成感
「なんかさ」
歩美が言う。
「文化祭よりこっちのほうが落ち着くね」
華子は笑う。
「でも、どっちも“作ってる感じ”は同じじゃない?」
少し風が吹いて、葉が揺れる。
ナスもトマトもキュウリも、
ただそこにあるだけなのに、ちゃんと季節を作っていた。
歩美は小さく言う。
「ちゃんと終わって、ちゃんと続いてるんだね」
収穫はまだ終わらない。
でも、急ぐ理由もない。
夏は、まだここに残っていた。




