打ち上げ、まだ帰りたくない日
文化祭が終わったその夜。
校舎はもう静かで、昼間の熱気が嘘みたいに消えていた。
でも、ひとつだけ明るい場所があった。
それが――打ち上げの教室だった。
「おつかれーー!!」
誰かの声で、ようやく“終わった感”が現実になる。
机は適当に並べ直され、紙コップとお菓子が雑に広がっている。
でもその雑さが、逆にいい雰囲気を作っていた。
林歩美はジュースを片手に、ぼーっとしていた。
「今日さ……長かったのに、短かったね」
遠野華子がすぐに返す。
「それ、文化祭の仕様」
「仕様なんだ」
山下純子は相変わらず忙しい。
「はい集合写真撮るよ!あと忘れ物チェック!あと感想一言ずつ!」
「打ち上げなのに仕事量多くない?」
誰かが言うと、
「打ち上げだからこそでしょ」
と当然のように返ってくる。
弓木さやかは机に突っ伏していた。
「もう一回カフェやれって言われたら無理」
しずくが一言だけ。
「同意」
りんはメモに書く。
「限界突破済み」
少し落ち着いたころ、話題は自然に午前の事件へ流れる。
「売り切れ早すぎたよね」
「逆に伝説だった説ある」
「途中から謎の人気店になってた」
笑いながら話せるのが、もう“終わった後”の空気だった。
歩美は窓の外を見る。
校庭は暗くて、もう何もない。
でも頭の中には、まだ昼のカフェの音が残っている。
「ねえ」
華子が横で言う。
「来年もやると思う?」
歩美は少し考えてから答える。
「たぶんやる」
「なんで?」
「たぶんまた同じことになるから」
二人で少し笑う。
山下純子が最後に手を叩く。
「はい終了!文化祭お疲れ!」
その一言で、ようやく本当に終わる。
みんなが帰り支度をする中、
歩美はもう一度教室を見た。
何もないはずなのに、
そこには確かに“今日”が残っていた。
「またね」
誰にでもなく、そう言って教室を出る。
夜の廊下は静かだった。
でもその静けさは、嫌じゃなかった。
文化祭は終わった。
でも、ちゃんと“思い出として続いていくもの”になっていた。




