片付けと、少し残る音
文化祭が終わった翌日。
校舎の空気は、いつもより少しだけ軽かった。
でも軽いのに、なぜか静かすぎる。
教室に入ると、昨日までのカフェが嘘みたいに消えていた。
段ボール、紙コップの残骸、テープの跡。
全部が“終わった証拠”みたいに残っている。
「……ほんとに昨日ここカフェだった?」
林歩美が言う。
遠野華子は黒板を見て笑う。
「“午後ブレンド”まだ書いてあるの、ちょっと怖い」
片付けは意外と早く始まった。
机を戻す音。
ガムテープを剥がす音。
椅子が床を擦る音。
どれも昨日の喧騒と違って、やけに静かに響く。
山下純子はいつも通り忙しそうだった。
「ここ分別!こっちは返却!あとこれ忘れてる!」
テンションは変わらないのに、どこか落ち着いている。
「昨日より指示が分かりやすい」
歩美が言うと、
「昨日は混乱してたからね」
と普通に返ってきた。
弓木さやかは紙コップの山を見ていた。
「これ全部、昨日のなんだよね」
しずくがうなずく。
りんは淡々と数をメモしている。
「多すぎ」
一言だけだった。
片付けの途中、少しだけ手が止まる瞬間がある。
黒板の端に残った“メニュー表”。
床のテープの線。
机の配置の名残。
「これさ」華子が言う。
「消えたのに、まだ残ってる感じするね」
歩美は少しだけ笑って答える。
「うん。でもさ、たぶんこれでいいんじゃない?」
「何が?」
「ちゃんと終わったってことだから」
午後。
片付けが終わるころ、教室はいつもの形に戻っていた。
でも、空気だけは少し違う。
誰もいなくなった教室に、歩美だけが残る。
窓から入る光が、昨日より少し優しく見えた。
「文化祭ってさ」
誰もいないのに、ぽつりと声が出る。
「終わるの早いのに、ずっと残るんだね」
外では、別のクラスの笑い声がまだ少しだけ聞こえる。
でもそれもすぐ遠くなる。
華子が教室の入り口で手を振る。
「帰るよー」
「うん」
歩美は立ち上がる。
最後に教室を振り返る。
何もないはずの空間なのに、
なぜか少しだけ“昨日の続き”が見えた気がした。
そして扉が閉まる。
カフェは終わった。
でも、全部が終わったわけじゃない。




