売り切れ事件、そして午前終了
文化祭はまだ始まって2時間。
カフェはすでに“昼前ピーク”に突入していた。
「ホットコーヒー3、紅茶2、スープ1!!」
「レジ待ち列、廊下まで伸びてる!!」
「紙コップ足りない!!」
教室の中は完全に戦場だった。
林歩美はレジでひたすら注文をさばいている。
「えっと、コーヒーと……えっと……」
「次のお客様こちらです!!」
横から遠野華子が補助に入る。
「メニュー覚える前に終わりそうなんだけど」
「それ言わないで」
そのとき、キッチン側から声が飛ぶ。
「砂糖、ない!!」
「ミルクもない!!」
「いやストローもない!!」
一瞬、全員が固まる。
山下純子が状況を確認して、ゆっくり言った。
「……売り切れです」
「何が!?」
「ほぼ全部」
開店からまだ午前中なのに。
看板メニューがほぼ消滅していた。
コーヒー:終了
スープ:終了
紙コップ:危険域
余力:なし
弓木さやかが叫ぶ。
「早すぎない!?文化祭まだ半分も終わってないよ!?」
しずくは無言で空の容器を見つめている。
りんはメモに一行書いた。
「想定外の速度」
教室の外では、列がまだ続いていた。
「え、もう終わり?」
「まだ11時だよ?」
「カフェなのに?」
混乱が広がる。
歩美は一度深呼吸して言った。
「これ……やばいやつだね」
華子が即答する。
「でもさ」
「うん?」
「逆に伝説じゃない?」
その言葉で、なぜか空気が少し変わる。
山下純子が立ち上がる。
「じゃあ第二フェーズいくよ」
「まだあるの!?」
急遽始まった“緊急メニュー変更”。
水
ぬるめ紅茶
パン(焼ける限り)
気合
もはやカフェなのか分からない。
それでも客は減らない。
むしろ増えている。
「売り切れ早い店あるって聞いて」
「逆に来た」
「ネタになるやつだよね」
完全に評判が歪んでいた。
昼前。
ついにピークが終わる。
教室は一気に静かになる。
歩美は椅子に座り込んで言った。
「文化祭ってさ……」
「うん」華子が返す。
「体力ゲーだね」
その横で純子は満足そうに言う。
「でも、成功したってことでいいよね?」
誰も否定しなかった。
窓の外では、まだ文化祭の音が続いている。
でもこの教室だけ、少しだけ“戦いの後”みたいに静かだった。




