2学期始まる
夏休みが終わり、まだ朝の空気に少しだけ暑さが残る9月のはじめ。
明高荘の廊下には、久しぶりに勢ぞろいした住人たちの足音が響いていた。
「……あれ、思ったより静かじゃない?」
林歩美が玄関前でつぶやく。セミの声はもう弱く、代わりに遠くで運動部の掛け声が聞こえる。
「夏休みって、終わるの一瞬だよね」
遠野華子は制服のリボンを結び直しながら、少し眠そうにあくびをした。
山下純子は荷物をドンと置いて、いつもの調子で言う。
「はいはい、2学期スタート。ここから文化祭まで一直線ね」
その言葉に、空気が少しだけ変わる。
文化祭、その単語だけで夏休みとは違う“何かが始まる感じ”が一気に現実になる。
朝の登校準備中、明高荘の談話室では小さな事件が起きていた。
「弓木さやかー! 私の上履きどこ置いた!?」
ちかが言う。
「知らない! ていうかそれ昨日のじゃないの!?」
騒ぎながらも、しずくが黙ってパンを焼き、りんが淡々と麦茶を注いでいる。
この“いつもの感じ”が戻ってきたことに、みんな少し安心していた。
登校途中の道では、東ゆりが立ち止まる。
「夏休み中、何もしてないと思ってたけど……何もしてなかったな」
その横で林山寛子が笑う。
「でもさ、それって逆にすごくない? ちゃんと“空白の時間”あったってことだし」
「ポジティブすぎる」
学校に着くと、教室はすでにざわざわしていた。
席に座ると、机の中にはプリントの山。
「……現実戻ってきたな」林歩美が小さく言う。
そこへ担任が入ってくる。
「はい、2学期スタート。まずは席替えと……あと文化祭の準備も少しずつ始めます」
一瞬、教室が静かになる。
そして次の瞬間、ざわっと一気に動き出す。
「文化祭!?」「え、もう?」「何やるの?」
明高荘のメンバーも、それぞれ別の方向で反応していた。
純子は目を輝かせる。
「これは忙しくなるね」
華子はため息。
「絶対トラブル増えるやつじゃん」
歩美は窓の外を見ながら小さくつぶやく。
「……でも、ちょっと楽しみかも」
その日の放課後。
帰り道の夕方は少しだけ涼しくて、夏と秋の境目みたいな風が吹いていた。
明高荘の屋根の上で、誰かが言う。
「2学期ってさ、なんか“始まり直し”って感じするよな」
誰かは答えない。
でも、みんな同じことを少しだけ思っていた。
――また、いつもの日常が動き出す。




