オマケ・犯人は誰だ!?犯人が多過ぎる事件
土曜日の午後。
談話室のテーブルの上には、りんが焼いたクッキーが山のように並んでいた。
「今日はみんなの分を焼いてきました。」
「やったー!」
歩美は一番前へ飛び出す。
「いただきま……」
その瞬間。
りんが言った。
「まだですよ。紅茶を入れてから食べましょう。」
「はーい。」
みんなは素直に返事をした。
五分後。
りんが紅茶を持って戻ってくる。
「お待たせしました。」
歩美が箱を開ける。
「あれ?」
全員がのぞき込む。
クッキーが一枚減っていた。
談話室が静まり返る。
歩美がゆっくり立ち上がる。
「……事件です。」
華子がため息をつく。
「また始まった。」
歩美はどこからともなくメガネを取り出して掛けた。
「名探偵・林歩美!」
華子が即座に言う。
「百均で買った伊達メガネね。」
「雰囲気が大事!」
歩美は全員を見回した。
「犯人はこの中にいる!」
真理子が勢いよく手を挙げる。
「はい!」
「犯人分かった?」
「私じゃありません!」
「まだ誰も疑ってない!」
有紀がおずおずと言う。
「えっと……クッキーが歩いたとか……。」
全員が有紀を見る。
有紀は真っ赤になった。
「す、すみません……。」
華子は笑う。
「かわいいけど、それはないわ。」
さやかが床を見つめる。
「証拠があります!」
「何!?」
「クッキーの粉です!」
全員で床を見る。
確かに小さなクッキーのかけらが落ちている。
歩美は真剣な顔になる。
「追うぞ!」
全員で床を見ながら進む。
廊下。
玄関。
談話室。
また談話室。
ぐるっと一周して戻ってきた。
華子が言う。
「円になってるじゃない。」
歩美が首をかしげる。
「犯人、迷った?」
そのとき、奈緒が静かに言った。
「違います。」
「え?」
「誰かが踏んで広げただけです。」
一同。
「あっ。」
歩美は咳払いをした。
「……気を取り直そう。」
りんがクッキーを数え始める。
「十九枚。」
初美が聞く。
「最初は?」
「二十枚。」
恵子が笑う。
「一枚でここまで大騒ぎ?」
「大騒ぎ!」
歩美は即答した。
その時だった。
つむぎが談話室へ入ってきた。
口をもぐもぐ動かしている。
全員の視線が集まる。
歩美がゆっくり近付く。
「つむぎさん。」
「……。」
「何食べてます?」
つむぎは飲み込んで答えた。
「せんべい。」
「見せて。」
ポケットから出した袋には。
**クッキー。**
談話室が静まり返る。
歩美が指差す。
「犯人!」
真理子も立ち上がる。
「逮捕です!」
つむぎは首をかしげる。
「もらった。」
全員。
「誰に!?」
つむぎは考え込む。
「……。」
十秒。
二十秒。
三十秒。
「忘れた。」
華子が頭を抱えた。
「一番困る証言!」
すると、りんが「あっ」と声を上げた。
「思い出しました。」
「えっ!?」
「私です。」
「え?」
「つむぎさんがお昼に通りかかったので、『先に一枚どうぞ』って渡しました。」
談話室は完全に静まり返る。
歩美が固まる。
「じゃあ……。」
華子が苦笑する。
「事件じゃなかった。」
真理子が笑い始める。
「最初から無実だった!」
ちかは床を転げ回って笑う。
「探偵負けたー!」
歩美はがっくり肩を落とした。
「またかぁ……。」
その時。
りんが箱を閉じようとして首をかしげた。
「あれ?」
「どうしました?」
「もう一枚減ってます。」
全員。
「えっ!?」
一斉に箱を見る。
十八枚。
さっきまで十九枚だった。
歩美が叫ぶ。
「今度こそ事件!」
全員が周りを見回す。
その瞬間。
**サクッ。**
静かな音がした。
音のした方を見る。
華子がクッキーを食べていた。
全員が固まる。
華子も固まる。
「……。」
歩美がゆっくり聞く。
「華子?」
華子は照れくさそうに笑った。
「……話が長かったから。」
一秒後。
談話室は爆笑に包まれた。
歩美はお腹を抱えて笑いながら言った。
「探偵より先に証拠を食べる人、初めて見た!」
華子も笑いながら肩をすくめる。
「もう待てなかったのよ。」
りんは苦笑いしながら残ったクッキーを配り始めた。
「今度は最初に食べましょう。」
「賛成!」
全員が声をそろえる。
こうして「消えたクッキー事件」は、**犯人がいない事件**から**目の前で犯人が増える事件**へと変わり、明高荘らしい大騒ぎのまま幕を閉じたのだった。




