暇な夏休み
8月の昼下がり。
明高荘の談話室は、妙に静かだった。
エアコンの音だけが一定のリズムで響いている。
林歩美はソファに寝転がり、天井を見上げていた。
「暇だなあ……」
「昨日も言ってたね」
遠野華子が本を読みながら返す。
「だって本当に暇なんだもん」
テーブルの方では、山下純子と島居優子がトランプをしていた。
「もう一回」
「さっきも言ってた」
勝敗はどうでもよくなっている。
そこへ弓木ちかが元気よく入ってきた。
「ねえねえ、遊ぼ!」
「何を?」
歩美が起き上がる。
「何か!」
雑だった。
「夏休みってもっと忙しいと思ってたのに」
歩美が言う。
「予定を入れなかったからでしょ」
華子が即答する。
「計画性って大事なんだね」
その時、ドアが開く。
「暇なの?」
斉藤涼子だった。
原付のヘルメットを片手に持っている。
「涼子さんは忙しいんじゃ?」
「バイト前まで暇」
さらに、
弓木しずくがアイスを持ってきた。
「アイスあるよー」
「神」
歩美の目が輝く。
しばらくして、
岡つむぎがゆっくりと談話室に入ってくる。
「ここ涼しいね」
「うん、ここしか勝たん」
歩美が適当な返事をする。
「何かやること決めよう」
華子が提案した。
ようやくまともな流れになる。
候補が出る。
・カラオケ
・市民プール
・スケッチ
・かき氷食べ比べ
・夏祭りの下見
「全部中途半端に面白い」
純子が言う。
結局決まらないまま、全員がアイスを食べ始めた。
「これでいいの?」
ちかが聞く。
「今日はこれでいい」
歩美が即答する。
午後三時。
外は強い日差し。
セミの声だけがやけに大きい。
談話室の中は、相変わらずゆるい空気だった。
「暇って悪くないね」
あけみがぽつりと言う。
「何もしない時間も必要だよ」
涼子が麦茶を飲みながら続ける。
華子は本を閉じた。
「まあ、たまにはこういう日もいいか」
窓の外では、夏の雲がゆっくり流れていく。
何も起きない一日。
でも、誰かと一緒にいるだけで少しだけ楽しい一日。
そんな“暇な夏休み”が、明高荘にはちゃんと存在していた。




