人生初のダンスパーティーです!
「オリビアたちは、無事にはいったかな?」
「はい。先ほど。」
よかった。
「オリビアがはいれたということはリリーお嬢様も大丈夫でしょう。」
私たちの番になって、ぱっと姿勢をただす。
門番が私の顔をチラッと見た。そして名簿を確認する。
「クリス・ロークウェンと、レイラ・クアルテーロです。」
「どうぞ、お通りください。」
やった!
表情が崩れるのを堪えて、何事もなかったように会場へ入る。
実は、髪と目の色だけじゃなくて、全体的に目立たないように工夫を凝らした。
髪の色は剣術大会に出たときと同じような濃い茶色、瞳もそれと同じような色。普通はこんなことしないけど、大きなメガネをかけて顔立ちのよさをごまかして、ドレスも至って平凡。これで私にダンスを申し込むような人はいないはず。
あまりの美貌で行くとクアルテーロ家が評判になってしまい、どうせばれることになってしまうから地味な格好をした方がいい、と聞いたのがダンスの授業が終わったあとだった、というのはもう忘れよう。
オリビアもそれに当てはまるのだが、オリビアはクララック様のパートナーだから仕方ない。公爵家の子息のパートナーが地味です、だと余計目立つからだ。
「では、私は壁の花になります。」
「え?」
壁の花とは、パーティーなどにおいて誰ともつるまず誰にもダンスを申し込まれない女性が壁際に立つ現象である。
「そうするのが一番目立たないから。」
「はあ………。分かりました。」
クリスは何の問題も無いのだから楽しんでくればいい。
顔立ちのよいクリスは案の定、さっそく令嬢たちに囲まれ始めた。
未婚のイケメンがいたら誰だってお近づきになりたいだろう。没落済みだけど。
あまり立ち入ったことは聞いていないけど、クリスの家はクリスがまだ赤ちゃんの頃に没落したらしい。子爵家で、大きな後ろ楯もなかったロークウェン家はクリスを育てることが出来なくなり、知人に預け、その知人が亡くなってそのまた知人に行き、最終的にベドフォード家が保護したんだって。
クリスが一人の令嬢と踊り出した。その令嬢の顔を見てぎょっとした。ランベル家のミア様だった。あの方は押しが強いらしいから断れなかったんだろうなぁとおもう。
と、クララック様とオリビアが会場の中心に出てきた。
今まで挨拶をしていたのか、オリビアが少々疲弊している。クララック様はそんなオリビアを気遣うように顔を覗きこんだ。
それを見ていた会場の女性たちがざわめき、悲嘆のため息が聞こえる。クララック様は公爵家の跡取りだから将来は安泰。悪い噂もない。人柄もいい。スタイルも顔もいい。加えて恋人や婚約者はなし!これ以上ない優良物件のため、狙っていたご令嬢は多かっただろう。
そのうちの一人であるランベル家令嬢がクリスと踊っていたということは、オリビアを見てあきらめたということ。
つまりそれほどオリビアが美しいということ!
そうだよねぇ、と頷いていると、私の方にグラスが差し出された。
「どうぞ、リリー。」
お父様だった。
「ありがとうございます。」
レイラとベドフォード家当主が親子だとおかしいので、お父様が私に声をかけた風を装う。
「お母様は?」
「………あっち。」
お父様がしょんぼりしながら指差した方向には、老若男女関係なく大勢の人に囲まれたお母様がいた。
談笑しているお母様は会場の注目の的だった。
「守らなくていいんですか?」
「この間始めた事業のお客様がいるから、なんでもかんでも追い払うあなたはダメだって言われた。」
お母様にしかられてこっちに来たと。
「オリビアは?」
二人を指差すと、お父様は僅かに微笑んだ。それを見ながらグラスを傾ける。中身はオレンジジュースだった。
「いいペアじゃないか。ダンスの線も揃っているし。お似合いだと思わないか?」
「………………思わないです。」
お父様が驚いたように私を見下ろしたけど、唇を尖らした私を見て、声をあげて笑った。
まわりが騒がしいからさほど注目はされていないが、ベドフォード家の当主が妻以外に笑いかけていると、だんだん人の目が集まってくるのを感じた。
お父様がそれに気づかない訳がなく、私の手をとって甲に唇を落としたあと、飲み終わった私のグラスを取り上げた。
「寂しい?」
「………はい。」
「オリビアはずっとお前を思ってくれているよ。」
「でも、クララック様と結ばれたらオリビアは公爵夫人で、滅多に会えなくなります。」
「考えすぎだよ。」
まだ笑いながら遠ざかっていくお父様は、その足でお母様の元へ行くようだ。
急遽用意したためか、サイズが大きすぎてずれてくるメガネを直しながら、お似合いすぎるクララック様とオリビアを眺めた。




