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お嬢様が魔法にお目覚めになられました


 「お父様!お母様!なんかリリーがやべぇ!!」


 それはある日の昼下がり。旦那様は連日のだらけのせいでたまった仕事を奥さまにそばにいてもらってこなしている最中、奥さまはそんな旦那様を子供を叱るような目で見つめている最中、私はたまにいちゃいちゃするお二人を死んだ目で眺めていた最中でした。

 カイお坊っちゃまがなにやら興奮したように執務室のドアをぶち壊す勢いで入ってきます。 

 リリーとは今年12になられたベドフォード家のお姫様でございます。そのリリ―お嬢様がやべぇとなってはベドフォード家の一大事。旦那様と奥さまはもちろん、私も他の使用人達も、シェフのカロンまでもが一斉にリリーお嬢様がいる訓練場へ走ります。

 ですが、訓練場へ行くと………、


 「あれ?みんな、どうしたの?」


 花が咲くように笑う天使のようなリリーお嬢様が平然と立っておられました。訓練着があんなに似合うのはリリーお嬢様ぐらいです。


 「だ、大丈夫なの?」


 奥様がメイド長のサラに支えられながらおっしゃられます。


 「へ?何がですか?あ!みんなちょうどよかった!!私の魔法、見てってください!」


 魔法?ですか………?たしかリリーお嬢様は光属性しか使えないと一時期すごく悩んでおられましたが………。

 と思ったらライお坊っちゃまが私達全員を囲む大きな結界をはり、ご自分も中に入られました。


 「見ててね!」


 魔法を使うときはいつも暗い顔をしていたことが嘘のような笑顔で手を前につきだします。

 ざわざわと使用人達が騒ぎだします。ここにいるのはお嬢様がオーブリーであることを知っている信頼できるもの達ですから、みんなお嬢様の変わりように困惑しているようです。

 かくいう私も心配で、お嬢様も見つめておりました。

 と、お嬢様の両手から小さな炎が吹き出します。


 「まあ!」


 奥様が驚きの声をあげました。

 光属性のお嬢様は火を使えないはずです。

 しかしこれで終わりではありませんでした。

 お嬢様の手の中の火は突然爆発しました。お嬢様!!という声が上がります。


 


 息を飲みました。

 お嬢様の火は、あっという間に燃え上がり、訓練場の空に巨大な火の玉が浮かんだのです。それは、かつて見たライお坊っちゃまの魔法よりもはるかに大きく燃えていました。

 皆言葉を失い、それを見つめます。あれは間違いなく火属性です。五大魔法のそれを持っていなければ、いえ、持っていたとしても使えるかどうかという大きさのものでした。

 それをお嬢様は手を振り下ろし、訓練場の芝生の上に叩きつけました。

 ドォォォォンッッというものすごい爆音と共に辺りが炎でつつまれ、煙が巻き起こりました。

 使用人達の間から悲鳴が上がります。

 私は水属性を使うことが出来ます。炎を消化しようと手のひらの上に水をだした瞬間!


 目を疑いました。お嬢様が手を高らかにあげ、頭上に大量の水を操っていたのです。お嬢様が指を動かしたとたん、それはどぷんっと訓練場を飲み込みました。

 結界に守られている私達は無事ですが、辺りは水浸し。

あれは水属性の魔法です。


 すると今度はお嬢様が両手を胸の前で掲げ、そこを見つめます。

そして、そのなかになにかがあるかのように握りしめると、訓練場をみたす水に向かって投げつけました。


………なんと言うことでしょう。あんなにあった水が、一瞬にして吹き飛ばされ、水蒸気となりました。

 まさかあれは、風属性だとでもいうのでしょうか。

 だとすれば、お嬢様はもうすでに3つの五大魔法を使えることになります。

 

 「リリー………。」


 旦那様が力のない声で呟きます。


 お嬢様が座り込み地面にぺたりと手をつきます。すると、地面が盛り上がり、まるで波のように動き始めました。

 さすがにそれは訓練場が壊れてしまいます。リリーお嬢様はある程度揺らしたら手を離しました。

 ですがあれは土属性です。


 リリーお嬢様が私達のほうを向き、手のひらを見せます。そこには、ポツンと小さな黒い球がありました。


 「闇属性も使えるのですが、被害が尋常じゃなくなってしまうのでやめますね。」


 笑顔でいっておられますが私達は硬直しています。五大魔法を使えるということですか。いつのまに………。


 とても嬉しいことではあるのですが、威力がすごすぎて呆然とするしかないのです。


 ライお坊っちゃまが結界を解きました。奥さまと旦那様がリリーお嬢様に駆け寄ります。


 「リリー!あなた………!!」


 「お母様、まだ終わっていないんです。」


 え?と奥様が立ち止まります。

 リリーお嬢様が願いを乞うように胸の前で指を組みました。

 すると、リリーお嬢様が光に包まれます。

 あれはたしか、前にリリーお嬢様が使っていた光属性です。ですがこうやって見ていると、なんだか色が白いような気がします。


 「これは光属性じゃなかったんです。オーブリーにだけ、私だけにつかえる、特別な魔法でした。」


 そう言って、さらに光を強くさせます。ですが眩しくありません。暖かな光でした。その光はだんだん広がり、炎やら水やらで荒れ果てた芝生を照らし始めます。



 目を疑いました。

 炎で焼け焦げた芝生が、なんと元の青々とした芝生に戻ったのです。その光は私達をも包み込みました。


 「あ、私、包丁で指を切っていたのに………!」


 「こ、転んでくじいた足が痛くない!」


 使用人達の怪我が治って行きます。

私も旦那様に押し付けられた仕事を鬼のようにこなしたときの腱鞘炎の痛みが消えていきます。  


 その光はやがておさまり、リリーお嬢様は精霊たちに囲まれながら微笑んでいました。



 間違いありません、今の力は………


  オーブリーにだけ使うことのできる、


          聖なる癒しの力です。

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