お告げを受けたら精霊王が話しかけてきました
彼女の瞳がその証拠だ。たしか伝説にあるオーブリーは、ピンク色の瞳を持つとか………。目の前のこの少女があの………………。
「リ、リリアン・ベドフォード………。」
精霊に愛されし、オーブリーよ。
そう言わなければならない。なのに、彼女の目を見ていると、どうしてもその一言が言えなかった。
その年になるまで知られていないと言うことは、隠したい事情があるのだ。意図的にオーブリーであるという事実を隠している。
陛下はこの事を知っているのか?大神官様は………。
知らないのなら今言ってしまった方がいいのではないか。陛下や大神官に事実の隠蔽など赦されることではない。
だが、この目………。
まだ12歳であるというのに、この真剣さ。この鋭さ。
そこで気づいた。
自分を見つめるその目が、不安げに揺れていることに。
彼女だってまだ少女だ。いくら王国の影の支配者とも呼ばれるベドフォード家の娘だと言っても、伝説のオーブリーだと言っても、まだ少女なのだ。
その小さいからだに今までどれだけの重荷を背負い、自分がオーブリーであるという事実を隠しとおしてきたのだろう。
私には想像できなかった。
お告げを伝えない私を不審に思ったまわりの人々が、だんだんざわつき始める。
さあ、どうする。
言うか、言わないか………………………………。
彼女が目をつむった。それを見て、深く息を吐く。目の前に立つ少女の緊張が伝わってしまったようだ。
意を決して口を開いた。
「リリアン・ベドフォード。
………………………その道は、険しく厳しいものとなるだろう。」
「………………………。」
少女が信じられない、という風に目を開け私を見た。
「ただし、己の心に正直に自分の試練をまっとうするべし。さすればそなたは真実の愛を手に入れるだろう。」
言い終わると、ぎこちなくだが、彼女は慣例通りに頭をさげ、震えた小さな声でのべた。
「我、精霊王を崇め称えるもの。お告げに従い、………自分の試練をまっとうすべく、日々精進してまいります。
………………………ありがとうございます。神官様。」
「………いきなさい。」
彼女は頷いて振り返り、家族のもとへかけていった。例の美しすぎるベドフォード家の方々は、娘を大きく腕を開いて出迎え、きつく抱き締めてから、私に一礼した。
………………私は何も聞いていない。
その礼に返すことはなく、紅水晶を持ち直した。
この判断は正しい。この判断をしてよかったと素直に思えて、心が軽かった。
"言い忘れていたが、"
突如あの声が聞こえ、びくっとして体が硬直する。
こ、れは………。
"魔法が使えないことを悩んでいたらしいが、あの子は生まれつき五大魔法が使える状態でな、常に出力状態であったがために、改めて使おうとしてスイッチの入れ方が分からないのだろう。兄から教えてもらえと伝えておいてくれ。
毎年ご苦労。ジェームズ・マグノリアよ。"
せ、精霊王………………………!!!
「か、かしこまりました。身に余る光栄にございます。」
-:--:--:--:--:--:--:--:--:--:--:--:--:--:--:--:-
「よかったわ。本当に。」
「マグノリア神官様は誠実なことで有名だからな。素晴らしいかただ。」
帰りの馬車に乗りながらあの神官様の話をしていた。
まさか言わないでいてくれるとは思わなかった。最初顔をみたとき、怖そうな人だと思ったけれど、私が必死な思いで見つめていたらその意をくんでくれた。
後でお礼を言いたいところだけど、お父様の礼に返さなかったところをみると、何もなかった、ということにしてくれるのだろう。そんな人にあえてお礼を言うのは失礼だ。
ガタンッッ
「!?」
突然馬車が止まった。まだ家にはついていないはずだけど………。
「何かあったのか。」
お父様が剣をつかんで 臨戦体制に入りながら護衛をしていた家の騎士に聞いた。
「それが………。………神官様が馬で追いかけてきております。」
え!?
「お、お一人でですか!」
馬車をおりながら聞くとうなずいている。
降りて振り向くと、ちょうど神官様が私たちに追い付いたところだった。
ほ、本当に………
馬を降りる神官様に駆け寄る。
「ど、どうなさったのですか!?」
「はぁ、はぁ、馬に乗るのは何年ぶりでしょうか。なれないことをするものではないですな。」
息を荒くしながら私を見てそう言った。
わ、笑ってる………?
「リリアン嬢、お礼を申し上げる。」
いきなり頭を下げられ、えっ と声にならない息を漏らす。
「………あ、頭をあげてください!お礼を申さねばならないのはこちらのほうです!」
神官様はあたまをあげてはくれたが、私の礼は受け入れないとでも言うようにくびをふった。そして真剣な顔をして言った。
「あのお告げと、もうひとつ、精霊王からお言葉がございます。」
「えっ?」
もうひとつ?お告げが2つあるだなんて事、聞いたことがない。
「貴方は魔法がうまく出来ないそうで。それは生まれたときから常に出力状態であったためだとおっしゃっておられました。」
ま、ほう………?生まれたときから………
馬車をおりてきたお父様達もそれを聞いて戸惑い、顔をみあわせる。
「お兄様に教えてもらうように、とのことです。」
お兄様!?
「そ、それを、精霊王がおっしゃられたのですか?」
「ええ。」
信じられない。それはお告げじゃない。会話、といったほうが正しい。そんな前例は今までにない。精霊王が、私の魔法のために、教えてくれたんだ。思わず口に手を当てて、伝えられた言葉を反芻する。
「その言葉の最後に、私はこのお言葉をいただきました。
毎年ご苦労。ジェームズ・マグノリアよ。と。」
それは………精霊王から、日々の功労を、認められたということなんじゃ………!
「私はこれまで、自分が正しいと思った道を進んできました。ですが、同時に他人に妬まれることが当たり前だったのです。それが、自分が使える精霊王から認められ、私は今、言葉では表せない、感涙の至りでございます。リリアン嬢のおかげです。ですから、私が礼を言いたいのです。」
私?私は、何も………。
驚きすぎて理解が追い付かない私を神官様は笑いながら見ていた。
「貴方があの時、あの瞳で私を見つめることが出来たのは、あなたがこれまでどのように生きてきたかの現れだと、私はそう思います。あなたのあの目がなければ、私は貴女がオーブリーであることを公表していたでしょう。」
オーブリーのところは騎士達を気にして声を小さくしてくれる。
あの目って………あの睨み付けるようなあの目?
「そうすれば私は、正しくない行いをしたものとして、二度とお告げを聞くことは叶わなかったかもしれない。私が精霊王からのお言葉をいただけたのは、貴女のおかげです。ありがとう。リリアン嬢。」
心の底からの礼に言葉を失う。自分は神官様に頭を下げてもらうほどすごいことをしたわけでもない。ただ私は、自分の身の安全を考えていただけ。こんな、………こんな感謝を受けていい人間じゃないのに。
「神官様。」
お母様が進み出てきて、私の肩を抱いた。
「娘に代わって感謝を述べさせてくださいませ。娘は今、神官様の心の清らかさにやられているところですの。娘を守っていただき、本当にありがとうございました。」
「このご恩は一生忘れません。」
お父様もお母様も頭を下げた。それを見ていたら泣けてきてしまって、嗚咽を押さえながら私も2人にならう。
「あ、ありっ ありがとうございましたぁ」
かなりだらしない顔をしてしまった私をみて、神官様は、「やっぱりまだ可愛らしいお嬢さんではありませんか」、と言って、それから、馬に乗って神殿に戻っていった。
「さあ、帰ろう。カイとライにもお告げを聞かせてやらねば。」
「リリーは己の心に正直に自分の試練を全うすれば、真実の愛を手にいれるんですってね!王子様が迎えに来るわよ!」
「え!?そういうことなのか!?家族愛とか、兄妹愛じゃなくて!?」
「もう………………。」
「リリーだめだ!己の心に正直になるな!!」
「あなたなんて事いうんですか!」




