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ジェームズ・マグノリア


 「あら、皆が倒してくれたわね。よかったわ。」


 お母様、言葉が怖い………。


 このままだとお母様の毒舌がさらに闇深くなりそうだったから、話を変えた。


 「お母様、私洗礼に着ていくドレスはライお兄様からもらったのでいいですか?」


 「あら。いつもらったの?」


 よし。成功。


 この間のお出掛けの時です。と言うと、お母様はもちろん!と頷いた。

 お兄様達は今年17歳。去年精霊とも契約したし、2人ともそれぞれ武術と魔術に優れているから、王国の騎士隊の団長と魔法学院の研究長を務めている。すごいよね。



 "リリアン、カイが殺しそうだぞ。" "ライももう準備してる。"


 「わかったわ。」


 私を呼びに来てくれたのは2匹の大型狼型の精霊、アスラーンとハスラーン。返事をして2匹についていく。ハスはカイお兄様の契約精霊で、アスはライお兄様の契約精霊。お兄様たちは今17だから、ちょうど一年前くらいに我が家へやってきた。2匹とも貴族精霊で、位は侯爵級。聞くところによると、ハスはアスの弟子らしい。魔法が得意なライお兄様は分かるけど、カイお兄様まで貴族精霊と契約してしまうなんて、と、お兄様達が2匹を連れて帰ってきたときは驚いた。


 「みんな、ありがとう。でもそれぐらいにしてください。」


 言いながら例の部屋に入ると大惨事だった。床にはひれ伏して命乞いをするさっきの仕立て屋さん。カイお兄様は今まさに魔法を使おうとしているところだった。じろっと仕立て屋さんを睨む。


 「もうお帰りください。お疲れさまでした。」


 真顔で仕立て屋さんに向かっていうと、変な汗をだらだら流しながらもつれる足で帰っていく。


 魔法で部屋を直してお兄様達に向き直った。


 「やりすぎですわ。お兄様。」


 「そんなことないぞ。リリー。今度あんなやつが来たらすぐ言えよ。」

 

 「まあ書庫に行っていれば安心だけど。」


 ライお兄様に頭を撫でられる。


 2人ともすっかり大きくなって、もう大人って感じ。シスコンがなおらないのは残念だけど。


 「はい………。ありがとうございます。」


 髪をぐちゃぐちゃにするのはやめてほしい。












--:--:--:--:--:--:--:--:--:--:--:--:--:--:--:--:-


 私はジェームズ・マグノリア。神殿の首席神官を務めている。今日は洗礼の日だ。気を引き締めて行かねばならんというのに、どうも最近入ってきた神官達は何事にも適当すぎる。仕舞いには精霊王の声がまだ聞こえないと抜かすものだから、精神統一のために部屋に閉じ込めてきたところだ。

 まぁあいつらがいないところで洗礼をするのは私のみだから問題はないが、気分が悪い。


 いかんいかん。こんな精神では精霊王のお告げを聞くことなど出来ない。しかも今年はベドフォード家のご令嬢まで来るのだ。失敗は許されん。

 にしてもベドフォード家か………。あそこの皆様は神々しすぎて目に悪い。きっとご令嬢もさぞかし可愛らしいのだろう。








 「リリアン・ベドフォード」


 「はい。」




 神官が名前を呼んで前に進み出てきた少女を見てあんぐりと口を開けた。


 可愛らしいなんてもんじゃない。言葉では言い表せないほどの美少女がそこにいた。

 数年前にも見たベドフォード家の双子と同じ素晴らしい金の髪に紫の瞳。頭につけた薄桃色の宝石が垂れる髪飾りとウエストで絞られた同じ色のドレスが相まって、本物の精霊のようだった。

 まわりにいるすでに洗礼を受けたものやこれから受けるもの、その家族までその美貌に驚きを隠せないでいる。

 それは私も同じだった。

 首席神官は伊達ではない。数々の美しい女性を見てきながらも現を抜かしたことはない。しかしあれはむりだ。表情が変わるのを押さえられない。

 少女が前へ進み出てきてはっと我に帰る。

 いかん!しっかりしろ!!

 何事もなかったかのような顔に戻し、口を開く。


 「リリアン・ベドフォード。精霊王の加護があらんことを。」

 

 「ありがとうございます。」


 長い睫が滑らかな頬に影を落とす。その蠱惑的な現象から逃げるように目を閉じた。


 集中せねば。


 神経を研ぎ澄ませお告げをまつ。


 しばらくして、いつも通り頭のなかに精霊王のお告げが響いた。





 "リリアン・ベドフォード。精霊に愛されしオーブリーよ。その道は険しく厳しいものとなる。ただし、己の心に正直に自分の試練をまっとうするべし。さすればそなたは真実の愛を手に入れるだろう。"


 お告げがやんでからもしばらく目を開けることは出来なかった。精霊王の媒介物である紅水晶をもつ手が震える。


 ………聞き間違いでは、なかろうか。

 いま、精霊王は、"オーブリー"、と………。


 必死に目を開けると、伏せられていたはずの彼女の瞳が、私をいぬいていた。

 その視線を受けると、ドクンと心臓が波打った。


 その紫の瞳が、次第に淡い薄桃色へと変化していく。彼女の髪間からもれる宝石が反射する光と、同じ色だった。

 それを見て確信する。

 


    間違いない。彼女は






         オーブリーだ………………!!






 

 

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