第二百五話 間引き
7450年5月10日
起床して朝食を摂り、野営道具の片付けを終え、地魔法で陣地を構築した。
陣地と言っても、ブルードラゴンを退治した直後にタンクール村の居留地内に作ったパンケーキと殆ど同じものだ。
違いは倍ほどにした高さと、周囲に階段は作らず、幅二m程のゆったりした坂を南のダート平原の方へ向けて一〇〇mくらいの長さで伸ばしている部分だけである。
馬車や馬、荷物をパンケーキの上にこの坂を使って運び上げる。
直径が一五mもあるパンケーキなので、馬車や荷物を含めても余裕を持って全員が乗れた。
目の前に全員を整列させ訓示だ。
「……現在時刻は午前六時。昨夜はよく眠れたか?」
僅かに頷く者やまだ眠そうな目をしている者が大半だが、中には微妙な顔をしている者も散見される。
微妙な顔つきの奴は昨夜、俺のテントで小さな騒ぎがあった事を知る者だろう。
人数から見て見張りの当番プラスアルファ、と言ったところじゃないかな?
……しかし、どこまでかは知らんが昨夜の出来事を知ってる奴がいるなら……誠に気は進まんが、やらねば示しがつくまい。
「予定通り、今日はこれから魔物の間引きを行う」
そう言いながら腰に提げた屠竜の柄を握って剣の能力の一つを使う。
勿論、周囲五㎞以内の敵対生物の注目を集める、というやつだ。
俺の脳内に超高精細の生体レーダーが展開し、敵対生物の位置情報がプロットされる。
かなりの数のモンスターが認められるが、流石にダート平原のど真ん中で使った時程ではない。
今回はここを中心とした直径一〇㎞のうち、南から二㎞程の弧状部分が所謂ダート平原の北に重なっているだけだからね。
……ふん、予想はしていたがやはりこの程度か。ならば……。
因みに、このパンケーキの周囲五㎞圏内に人家はないし、ダモン村からクドムナ村やバーリ村へ向かう道も二㎞程東にあるが、この道を使う可能性がある村々には今日はこの周辺に近づかないよう通達済みなので事情を知らない一般人が足を踏み入れる可能性もまずない。
仮に居たとしても、それは領主の通達を無視した愚か者だ。
モンスターに殺されようが、俺の与り知るところではない。
「が、その前に……従士ラルファ・ファイアフリード、前に出ろ」
俺に声を掛けられたラルファが進み出てきた。
くっそムカつく事に、しおらしい様子もなく、僅かに笑みすら浮かべていやがる。
「彼女を知らない者の為に簡単に紹介しておく。彼女はウィードの太守、ファイアフリード男爵の一人娘で今年から我がリーグル伯爵騎士団の所属となった……」
要するに、お貴族様の娘なのね、という目で見る者もいるようだが、それは少数派だ。
何しろラルファは騎士団に入る前、グィネと一緒に検地のために領内を巡っていたから顔や立場を知る者も多い。
「そして、私がこの地に封ぜられる前、冒険者をしていた頃からの付き合いもある。戦闘力としては今ここにいる者の中では私に次ぐ実力があるだろう」
先程とは異なり、こちらについてはあまり知られてはいないようで、王国軍の大半はほう、と感心するような顔つきになった。
対して、旧煉獄の炎の連中には少し不満気な顔つきをする者もいた。
従士の訓練過程では魔術を含めた模擬戦をしていないからだろうか。
それとも、彼らと同様にラルファには斧の使用を禁止しているからだろうか。
まぁどっちでもいい。
ラルファは褒められたと思ったからか、それとも俺からしか見えない位置の為か、笑みを深めた。
馬鹿め。
「……詳細は省くが、この従士ファイアフリードは昨夜罪を……私に不敬を働いた」
ラルファが目を丸くして驚いている。
何だその面は?
驚くことに驚くよ。
領主に対する強制猥褻だよ!
本来なら殺されても文句は言えな……くはないか。流石に。
強姦とまでは言えない上、痴漢程度なら正式な犯罪じゃあないし。
おまけに未遂みたいなもんだし。
因みに王族に対する不敬罪、というものはあってそれに対する刑罰もしっかりと国法に定められているが、領主など貴族に対するそれには罰則規定は無い。
日本の「未成年者喫煙禁止法」や「売春防止法」みたいなもんだ。
だが、俺の気分を害した罪は重いのだ。
法が不十分なら今充足させるだけだ。
法の遡及適用?
そんなもん俺の気分次第だよ。
「よって、爵位を剥奪する」
旧煉獄の炎の連中を中心に場がざわつく。
グィネまで目を丸くし、すぐに「この野郎、一体何をしやがったんだ!?」とでも言うような顔つきになった。
唯一事情を知るズールーは深刻な顔をしている。
「……と言いたい所だが、功臣であるファイアフリード男爵の娘である事、本人もこれまで私を支えてくれた事を考慮し、今回はそこまでの罪は問わない。だが、相応の罰は受けてもらう事にした」
場が静まるのを待つ。
ラルファはと言えば、やっとしおらしくなったようだが、それは罰を与えられるからと言う訳ではなさそうで、そこまで俺に嫌われていたのかとでも言うような感じなのが癪に障る。
くっそ、本当に平民にしちまうぞ、コラ。
「ついさっき、この陣地を中心とした半径五㎞の範囲にいる魔物を集めた。速いものは数分、遅いものでも三〇分もあれば全ての魔物がここにやって来るだろう。従士ファイアフリード。その全てをそなた一人で退治しろ。ああ、空を飛ぶ魔物だけは私が始末してやる」
そう言うと剣帯ごと屠竜を外し、ラルファの腰に提げさせた。
脳内に広がるレーダーを感じたのか、ラルファが「こ、これ……」と絶句している。
「特例として私の武器を預ける。使うも良し、使わぬも良し。ただし、あのスロープの半分以上後退することは許さん」
さっきまで脳内に展開していたレーダーは剣をラルファに渡してしまったために失われているが、それ迄に感知していたモンスターの数はこの前バークッドで間引きをした時とあまり差はない。
地上を歩いたり走ったりして高速に移動できるモンスターは、いいとこ三〇〇と言ったところだ。
面積に比して数が多いのはやはりダート平原という土地柄か。
因みに、ダート平原以外の場所には一〇匹前後の集団が三つほど認められただけで大したことはない。
大方、ゴブリンとかコボルド、悪くてもオークやホブゴブリンじゃないかな?
大半の連中は俺が言った言葉の意味をはかりかねているようで顔を見合わせたり、小声で何か言っているが、俺の表情を見てそれもすぐに収まった。
「行け」
ラルファはゆっくりとスロープを降りていく。
降りながら髪をポニーテールにして一つに纏めている。
騎士団に入団以来、髪染めが面倒になったのか、ラルファの髪は生え際から一〇㎝くらいが真っ黒く、先の方も染色が大分薄くなっていた。
その姿を追うように向きを変えた俺に合わせ、従士たちもスロープの手前に集まって来た。
端っこの方でズールーが難しい顔をしてラルファに視線を送っている。
周辺監視が疎かになっているが、それを命じた訳でもなし、ま、いっか。
ラルファは、八〇m程スロープを下って地上からの高さが二m程度のところで足を止めた。
そして俺に振り向くと左手で左目の下を引っ張ると同時に舌を出し、何事もなかったかのようにまた振り返った。
あ、あかんべえとか、領主にやることかよ?
今さっき不敬だと……こ、この野郎、屠竜を預けてやった恩も忘れやがって!
「バカなことしてないでちゃんと前向きな!」
俺が何か言う前にグィネが大声でラルファを怒鳴りつけた。
そのお陰で、周囲の者たちはラルファのあかんべえは俺ではなくグィネに対しての行為だと思ったようだ。
あかんべえとか完全に日本の文化だろうしなぁ……って相手をバカにしたような行為ってのは伝わるかな?
尤も、八〇mも先なのであかんべえをするラルファの顔がわからない奴も多かったとは思う。
そっと皆の様子を窺ってみたが……なんとも言えんな。
思いっきり派手な動作だったので俺とグィネにはモロバレだけどさ。
それはそうと、庇うんじゃねぇよ、と思わずグィネを睨みつけたがグィネはそんな俺の気持ちなど我関せずとラルファの背中に真剣な視線を送ったままだ。
まぁ、こいつもあの戦いを見てたんだし、これからどうなるのか分かってるだけに心配なんだろうが……。
そんな俺達についてはもう関心を払わなくなったラルファは左腰に提げていた屠竜に右手を伸ばして少しだけ引き抜きかけた。
が、すぐに剣を鞘に戻すと右腰に提げていた手斧を外して握り込んだ。
血塗れの手斧か。
こういう大量の敵を相手にする際に真価を発揮する武器。
正直言って俺の銃剣にあの斧と同じ能力があったら、とあの時は何回も思った。
南方から鳥のようなモンスターが近づいてきた。
数は合計して一〇匹程度だが、そのうちの一匹だけがやけに速い。
距離はもう五〇〇mを切っているだろう。
……相当速い!
我慢して引き付け、ストーンカノンミサイルを撃ち出す。
「「おお!」」
周囲から感心の声が上がる。
ミサイルが急上昇し、突出してきた奴に向けて上昇する。
「「おおおっ!?」」
まだ二〇〇m程も離れているが、見通しの良い草原の上空。
俺の誘導から逃れられる奴などいない。
今、正に灰色がかった黒っぽい鳥を下方から突き上げるように……なにっ!?
すらっとした鳥のようなモンスターは力学的に有り得ないような急旋回、いや、瞬間的に位置をずらしたかのように俺のミサイルを躱しやがった!
が、すぐに気を取り直して追げ……は、速い!
ミサイルを旋回させているうちにかなり距離を詰められてしまった。
く、くそ。
これじゃ追いついてもギリギリ……。
仕方がないのでミサイルの誘導は手放し、アイスコーンを放った。
鳥のモンスターは乱舞する薄刃の只中に突っ込む。
「グケェェッ!!」
鳥のモンスターは嫌な声を放ち、また位置をずらした。
が、円錐状に広がるアイスコーンを傾けて新たに出現した場所へと向ける。
今度の位置ずらしは愚かにもこちらに近づくようにずれてきた。
「ギャァァッ!!」
阿呆が、ザマァ見ろ!
このまま削り殺してやる。
何度か繰り返すと流石に力尽きたのか、長く尾を引くような叫び声を上げながら地に落ちた。
急いで鑑定すると、
【 】
【女性/2/5/7405・羅刹鳥】
【状態:切傷】
【年齢:45歳】
【レベル:16】
【HP:9(79) MP:5(10)】
【筋力:11】
【俊敏:29】
【器用:25】
【耐久:7】
【特殊技能:瞬間移動(Lv.Max)】
と出た。
碌にステータスを見終わる前に地面に墜落し、草に隠れてしまったので種族名と特殊技能の名前くらいしかわからなかった。
羅刹鳥か。
ラクシャシャ・バードとでも名付けるかね?
しかし、【瞬間移動】ってなあれだね。
大昔、ブリンクドッグを相手にして以来だが、厄介だな。
もうちょっと詳しく見たかったが、墜落した位置が位置だけに、遅れてやってくるモンスターに踏み潰されて大地の染みになっちゃうのがオチだろうなぁ。
と思ったらラルファがこっちを振り向いて何かしている。
何してんだ? と思ってよく見てみたら、どうやらOKサインか親指でも立てているらしい。
グッジョブ、ってか? こんのやろ……。
遠くの方に人型をしたモンスターが見え始めている。
俺はラルファに「前を向け」と言うように手を振って前に向き直らせた。
その後はこの前見たダネッズ・ハーピーという魔物の一団を、今度こそ串刺しにしてぶっ殺してやる。
……どうやらこれで空を飛ぶモンスターは弾切れのようだ。
後ろの方からはミサイル付きの凶悪な攻撃魔術や、射程を延長したアイスコーンを見て感心の声が聞こえてくる。
さて、あとはゆっくり観戦だ。
・・・・・・・・・
二〇分後。
ここまでラルファは傷一つ負うことなく戦っている。
おまけに途中でレベルも上がっていた。
まぁ、ゴブリンやノール、オークが相手だし、一本道の上に陣取っているからねぇ。
「凄いな……」
「流石は閣下と一緒にバルドゥックを制覇しただけあるな」
俺の傍でラルファを見守る従士たちからはそんな声も聞こえてくる。
だが、ラルファはとっくに肩で息をし始めており、呼吸が乱れているのがわかる。
足場もだいぶ後退し、今は地上四mくらいの場所にまで追いやられていた。
とは言え、見た感じまだまだ元気に斧を振っているから限界ではない。
鎧を着ていないだけ、あの時の俺と比べて楽だろうが、苦しいのはこれからだぜ。
「しかし、こりゃ一体……」
「ああ。逃げよらせえへんのは……」
「異常だな」
ホワイトフレイムたちがボソボソと言っているのが聞こえた。
ラルファに突撃してきたオークが棍棒を振り被る。
「らあっ!」
そこに気合を込めて肩からタックルをかまし、ラルファはオークをスロープから突き落とした。
すぐに次の相手がラルファの前に立ち、棍棒を横薙ぎにした。
ラルファは斧を使って器用にそれを跳ね上げ、分厚い刃を胸に叩き込む。
「ゴッ!?」
胸に打ち込んだ魔斧の刃はそのまま下腹部までを切り裂き、棍棒を手放したオークは哀れな声を上げて内臓が溢れないようにと傷口に手を当てる。
ラルファはその手を蹴り上げると顔面に斧を突き込んだ。
オークはバランスを崩してスロープから転げ落ちる。
スロープの側面に落ちないよう、坂を転げ落とすように気を使っているのがよく分かる。
一本道が崩されたら大変だしな。
「デガ、ヴェイス!」
直後に次のオークが何事かを叫びながら突っ込んでくる。
その攻撃を斧で受け止めたラルファは少し後退したが、ブーツを土にめり込ませながら踏ん張った。
「おーい、あと五mで半分割っちまうぞ。しっかりしろぃ!」
口の両脇に手を当てて野次を飛ばす。
周囲からぎょっとするような視線を受けるが気にしない。
「うああっ!!」
雄叫びを放ちながらラルファが目の前に立つオークに魔斧を叩き込む。
頭の天辺からへそのあたりまで断ち割られ、オークは絶命した。
「リラ・マーチ・アウグ・バンベルド・ミルズ!」
ラルファは更に奥から迫るオークの顔面に呪文を唱えてライトの魔術を掛けると、目が眩んだオークの胸板を切り裂いて「おらぁっ!」と叫びながらそいつを蹴り飛ばす。
同時に一m程前進した。
うん。
こういう時、少しでも弱気になったらだめだ。
俺の野次も少しは役に立ったと見える。
ところで、あいつの魔力残量もそろそろ厳しくなったんじゃないかな?
鑑定すると残りは八ポイントだった。
「お、おい、まただ」
「またライトか」
「お嬢は妙な魔法の使い方をすると聞いたことがあるが……」
「ああ。これだけ見せつけられるとな……」
ボソボソと話す声が聞こえた。
スロープから蹴り落とされたオークは絶命しているが、その顔面は真っ昼間でもそれとわかる光を放ち続けている。
因みにラルファは省エネで戦うのを心掛けているらしく、ここまで魔法はすべてライトしか使っていない。
目潰しを効果的に使えているのは感心する。
でもさぁ、スタッグライノやトロープ・オリファント、マンティコアと言った大物が一匹も混じっていないのは……なんかずるい。
今まで見た限りだと最初のラクシャシャ・バードやダネッズ・ハーピー以外、全部ゴブリン、ノール、コボルド、オーク、ホブゴブリンだけじゃねぇか!
ジャイアント・ロックリザードみたいにブレスを噴くような奴もいねぇし!
魔物だらけだというダート平原とは言え、やはり外れの方だとケンタウロスやラミアすらおらんのかい……。
とは言え、もうダート平原にいたモンスターのうちで高速に移動できるものは全て森から出てきているようで、恐らく最後尾だと思われるモンスターの一団もダート平原の森からはもうかなり離れている。
全部であと一〇〇匹いるかどうかじゃないかね?
お?
今の躱し方は少し危なかったな。
油断なのか、疲れからなのかは不明なところがあいつらしい。
あ、血糊で足が滑ったのか。
また一匹、今度はホブゴブリンの右腕を肩口から斬り飛ばし、ラルファは自らに気合を入れるように吠えた。
何の気なしにラルファが振るう斧を鑑定してみる。
【血塗れの手斧】
【ミスリル鋼・檜】
【状態:良好】
【生成日:28/10/7446】
【価値:1】
【耐久値:18605】
【性能:151-221※418秒】
【効果:手斧としての性能は極普通。※但し、攻撃を与え、対象の血を浴びる度に攻撃の貫通を含む命中性やダメージなどの性能が上昇する。上昇時間は血を浴びた相手のレベル×六十秒。性能の向上は効果時間中でも累積する。なお、性能向上のための攻撃は殺意、またはそれに準ずるような感情を持って行わねばならない】
ああして戦い始めてもう二〇分以上。
不思議なことに、斧は文字通り血塗れだが、刃の部分にだけは血糊がついていない。
代わりに赫く明滅している。
注意して見ていないと分かり難いが赫い輝きが弱くなって消えた直後、刃先、つまり斧口だけはまるで新品のように白銀の輝きを取り戻すのだ。
それはそうと、最初の頃に倒したモンスターからの上昇分はもうとっくに時間切れになっているだろうに、凄く性能が向上したままだ。
暫くそのまま観察していると、一回斬りつける毎に【性能】の数値は一上昇する。
同時に※印の右側の残り秒数?も斬りつけたモンスターのレベルに一分を掛けた数字になる。
ふーむ。
やはり性能向上には相手を殺す必要はないのか。
なら細かく当てていけば沢山上がるって事か?
とは言え、見ている傍から数値は下がったりもしている。
これは以前斬りつけて向上した分が時間切れで失われているのだろう。
今までじっくりと観察したことはなかったが、あの斧ってばこういう感じなのか。
しかし、連続して戦っていれば俺の屠竜よりも高性能になるとは……。
あの剣の斬れ味はそれは凄まじいものだが、今の血塗れの手斧の斬れ味はそれすら上回っているってことで……道理で頭だの腕だのポンポン斬り飛ばせる筈だわ。
……あいつにはぴったりのいい武器だな。
そうしているうちに時間は経過し、モンスターの数もかなり減ってきた。
だが、さしものラルファもヘロヘロになっている。
「ラル! もう少しだよ! 頑張って!」
グィネが大声で声援を送った。
「お嬢! 気張りやぁっ!」
「あと三〇!」
「行ける行ける!」
「頑張れぇぇっ!」
それに釣られるように皆が声援を送り始める。
まぁ、しょうがないか。
俺は腕を組んでラルファが戦う様子を見つめていた。
また一匹、ラルファがゴブリンの首を刎ね飛ばす。
「良し! いいぞ!」
土塁の上で素早く回転して別のゴブリンを蹴り飛ばし、引くように斧を構え直す。
「うりぁっ!」
ノールが突き出してきた木槍を掴んで引きながら、その犬のような顔面に魔斧をぶち込んで頭蓋を砕き割る。
「油断しないで! すぐ来るよ!」
誰かが送ったアドバイスの通り、斃したノールの後ろからコボルドが飛びかかる。
その腹に前蹴りを突き込んで頭が下がったところに一歩踏み込むと斧でかち上げて血の花を咲かせた。
「「あっ!?」」
ゴブリンの振った棍棒がラルファの太腿に命中し、体勢が崩された。
「ギョエェッ!」
ゴブリンは喜色を上げてまた棍棒を振り被る。
いつの間にか俺の隣にまで出ていたグィネがそいつに向かって右手を伸ばすが、さっとそれを押さえた。
「だめだ」
「でも……!」
抗議するようにグィネが俺を睨みつける。
「っだらぁっ!」
ラルファは叫び声とともに斧を振り、ゴブリンの貧相な足を斬り飛ばした。
「邪魔をするな」
「邪魔って……」
「いいから黙って見てろ」
すぐに体勢を戻したラルファは切り口を押さえて転げ回るゴブリンをスロープの下に蹴り転がして一息つく。
だが、残ったモンスターはそんなラルファに対して恐怖心を失ったように次々と殺到する。
そして、遂にスロープに立つモンスターは最後の一匹となった。
正確にはスロープの下には何匹かまだ息のあるモンスターもいるようだが、屠竜の能力が有効なのにラルファに近づけないってのは絶命寸前、虫の息だろうから斃したと勘定してやってもいいだろう。
ラルファは体力が尽きかけているのかヘロヘロもいいところに見える。
が、流石にノールを相手に倒される程ではなかったようで、一分近くも遣り取りをした上で首を刎ねて殺した。
「「うおおおっ!」」
「「凄ぇっ!!」
歓声があがり、グィネを先頭に何人か駆け出した。
「ご主人様、あの剣をラルに預けたのは……」
ズールーが寄って来て囁くように尋ねてくる。
「ああ、魔物の目を奴に向けさせるためと……」
「と、とにかく剣が無事なようで良かったです」
「ふん。剣とラルファ、どっちが心配だったんだ?」
「そ、それは剣ですよ、決まってます」
目が泳いでるぞ。
「そうか。ところで最初に俺が斃した変な鳥。死体を探して見つかるようなら持って来い」
・・・・・・・・・
疲れて歩くことも出来ずにスロープにへたりこんだラルはグィネを始めとする数人によってパンケーキの上まで運ばれ、休まされた。
アルはその傍に歩み寄ると「よくやった。今回の働きで昨夜の件については帳消しにする」と尊大に声を掛ける。
ラルの顔に苦笑いが浮かぶ。
アルは周囲を見回して「全員、下に転がっている魔物から魔石を採ってこい。数はざっと三五〇ってところだから一三〇人も居れば……そうだな、死体の片付けも入れて制限時間は昼までだ。行け!」と追い払った。
そしてゆっくりとラルの隣に腰を下ろす。
『へへ……全部やっつけたよ』
ラルファは満足げな表情を浮かべて言った。
それを聞いたアルは溜め息を吐きながらも、棍棒で打たれた脚を心配して『腿は痛むか?』と声を掛けた。
『ちゃんと半分より下がらずに全滅させたよ』
『ああ、そうだな。で、腿はどうなんだ? 痛むか?』
『ううん。ちょっと痛いけど大したことない』
『そうか。それよりさっさと剣返せよ』
『ちぇっ、もう少し褒めてくれたって……』
『褒める? なんでだよ? お前は強制猥褻の罪を償っただけだぞ? いいから横向け。剣帯外すから……』
アルは力づくでラルを横向きにして屠竜が提げられたままの剣帯を外し、念のためにと素肌の出ている手に触れて治癒魔術を掛けた。
『傷つけてねぇだろうな?』
丁寧に鞘を見始める。
『もう。そんなことしか言えないの?』
『他に何を言えっつーんだよ』
『ゴブリンとかオークだけだったけど、一人であんだけ沢山倒したんだよ? その、ご、ご褒美くらい……』
『褒美ならさっきも言った通り罪の棒引きで充分だろうが。お釣りが来るくらいだわ』
『ちぇっ……』
アルは舐めるように剣の鞘の観察を続けていた。
『ねぇ。何で剣貸してくれたの?』
『……』
アルはまだ鞘を見ている。
『あのモンスターの位置が判るようになるのって、凄いね。まだ森の中に結構残ってるけど……』
『そりゃスライムとかのろまな奴だから放っといていい』
『そんなのも判るんだ……』
『ああ、魔剣だしな』
『いつも大切にしてるもんね。でも、私ごと壊されちゃうかもって思わなかったの?』
アルはラルの目を見た。
『思わなかったな。結果として無傷だし』
ラルは嬉しそうな笑みを浮かべると大の字になった。




