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男なら一国一城の主を目指さなきゃね  作者: 三度笠
第三部 領主時代 -青年期~成年期-

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第百五十五話 到着

短くてごめん。

7450年2月22日


 ダービン村の居留地。

 その北側で大きく開いたままの門にウラヌスを踏み入れさせたアルはすぐに異常な光景を目にした。


――馬が!?


 柵の内側に数頭の馬が留められていたのだが、その全てが身を横たえ、口の端から泡を噴いている。

 だが、死んではいないようでブルブルと震えていたり、小さな声で嘶いたりしているのも判る。


――咆哮か!?


 すぐにピンと来たアルは即座にウラヌスを止めると、その背から飛び降りる。

 そして、物入れからハンカチを出すと二つに引き裂いてウラヌスの耳の穴に詰めた。


――これで無事なら儲けもの、だな……。


 そう考えながら軽くウラヌスの尻を叩く。

 ウラヌスはアルの意を汲んだようにトコトコと柵ぞいを歩き出した。


「グオオオオオォォォン!!」


 恐ろしい叫び声が響き渡る。


「うおっ!?」


 それを耳にしたアルですら、思わず背筋がゾッとするほどの声だった。

 瞬間的にウラヌスを見やったアルは肩を落とす。

 折角耳栓を作ったにも拘わらず、足を止めてしまったウラヌスがゆっくりと柵に凭れるように頽れるところを見てしまったのだ。


――【恐慌(小)】ね。他の馬よりはマシなのが救いか。まぁ(小)のうちは許容範囲か……急がないと……!


 アルは抜き身の屠竜(ドラゴン・スレイヤー)を手にしたまま走り出した。




・・・・・・・・・




 【部隊編成(パーティーゼーション)】に感じられるアルの移動速度が急に落ちたことに気を取られたズールーは、思わずアルのいる北へと目を切ってしまった。


 そのせいで彼が監視を担当する方向からドラゴンが姿を現した事に気が付くのが一拍遅れてしまった。


「来た!」


 ズールーが警告を発した時には、ドラゴンの額に魔術光が凝集を始めてしまっている。


「魔術だ!」


 ズールーは続けて警告を発しながら、屋根の上を転がった。


 ズバッ!!


 ドラゴンの額から石の槍(ストーンジャベリン)が発射され、たった今までズールーが膝立ちになっていた屋根に命中して屋根板を破壊した。


 視界の脇でそれを見たズールーは背筋が寒くなる。


――あ、危なかった……!


 そう思ったのも束の間、ズールーはライフル銃を構え直した。

 攻撃魔術を発射した直後、蒼いドラゴンは再び広場に向かって駆け出して来たのだ。


――正面か、クソ。横向きならそのでかい土手っ腹に撃ち込んでやったのに……!


 射撃のタイミングは暫く無いと見て取ったズールーは即座に立ち上がりながら横っ飛びにジャンプして屋根の破壊孔を飛び越す。

 彼の傍にあった避雷針は最初のブレスを受けて使い物にならなくなっていた事を思い出したのだ。


「ギシュアァァッ!」


 嫌な音で息を吐き出しながらドラゴンは広場に駆け込んできた。


「……」


 ミヅチは槍を突いて膝立ちになったグィネの頬に手を当てたまま精神集中を行っている。


「そらっ!!」


 ドラゴンが広場に出てきたことで、投擲姿勢のまま斧を構えていたゼノムが魔斧を投げた。

 それが合図になったかのように、トリスとロッコが戦線を築くべく盾を構えながら前進する。


「お先……この野郎ぉぉっ!」


 ミヅチと同じくグィネに治癒魔術を掛けていたラルファが立ち上がると斧を掴んで走り出す。


 ゼノムの斧がドラゴンの左肩に命中し、突き刺さった。


「ギアァッ!」


 苦痛の声を発しながらもドラゴンはその速度を緩めない。

 ドラゴンはすぐに林立する避雷針の中にまで入ってきた。

 中途半端に開かれた翼に当たった避雷針が大きく揺れる。


 バーン!


 屋根の上で待機していたベルが銃を放つ。


 ギンッ!


 銃弾はドラゴンの後頭部から生えている角に命中したものの弾かれてあらぬ方向へ消えていった。

 ドラゴンはと言えば、着弾の衝撃で僅かに首をひねった程度だ。


――弾はあと、クリップ一つ分。もうこうなったらズールーの言葉に期待して横腹に全弾……。


 有効打を放てなかった悔しさに歯噛みしながらベルは空になったクリップを取り外し始めた。




・・・・・・・・・




 避雷針の中に足を踏み入れたゴルゾーンドクーリは怒りの炎に身を焦がしている。

 勿論、大切な尻尾の先を切り落とされたためだ。


 だが、その心には冷えた部分も残っていた。


 中途半端に翼を開くことで腹への狙いを付け難くし、最初に攻撃魔術を放つことで下手に距離を取るのを躊躇わせることを狙ってもいる。


 何にしても、大きな体格差からくる膂力を活かして、直接の打撃などで勝負をした方が与し易いのは確かだと思われる。


 それに、ここまで戦って判った事は相手の攻撃力だ。


 確かに尻尾を切られてしまったのは痛恨事である。

 が、それが千切れた一撃でヒトは昏倒し、戦闘力を失っていることも確かなのだ。


――落ち着いて戦えばいいだけだ。


 あの脆さを見れば、今相手取っているヒトはその攻撃力はともかくとして、体力や防御力は先日来相手をしてきた大勢のヒトとそう大きく変わらないであろう。


 横腹にあの忌々しい攻撃魔術さえ喰らわなければ、結局は今まで通りに約束された勝利を手にすることが出来、新しいお宝(キラキラ)も沢山手に入れられる。


 ドガッ!


 お宝(キラキラ)の一つが肩に突き刺さった。

 その痛みで思わず苦痛の声が漏れる。


 だが、致命傷でも何でも無い。


 その証拠に、突進力を削ぐことすら出来ないではないか。


 すぐに頭が揺れるほどの衝撃を受けたが、これもどうという事もない。


――ふふ。【魔法抵抗(マジックレジスタンス)】が効き始めた……? いや、【低位魔(マイナー・グローブ・オブ)法無効(・インヴァルネラビリティ)】の方か。思うに、あの魔術はだんだんと力が弱くなると見える。


 勿論そんな事はないのだが、ミヅチが連続して放った通常弾頭など、彼に勘違いを起こさせるには充分な材料もあった。


「無駄ダァッ!!」


 ゴルゾーンドクーリは必死になって抵抗しているヒトを見て愉しくなる。


――お前達は確かに他のヒトとは一線を画していた。だが、所詮はそれだけだ!


 盾を構えるトリスに右腕を振り上げた。




・・・・・・・・・




 ぎゅわっと音を立てて爪は盾によって受け流された。


 攻撃を受け流すことに成功したトリスとしては、即座に反撃し、一太刀入れてやりたいところではあったが、大きく体勢を崩されたために諦めざるを得ない。


「トリスッ!」


 体勢が崩れたトリスの首根っこを掴んだまま、ロッコは自ら構えた盾でドラゴンにぶつかった。

 突進を続けていたドラゴンに跳ね飛ばされる二人。


 だが、大した怪我もせずに距離を取ることに成功した。


「いやああっ!」


 左手を突き出し、引いた右手に斧を掴んだままラルファが飛び上がる。


「しょい!」


 斧を振り下ろすが、翼を振られて皮膜に穴を開けるだけに終わった。


 そんなラルファと入れ替わるようにゼノムが駆け込んできたと同時に、その手に魔斧が戻ってきた。


 ゼノムはグィネを治療中のミヅチから目を逸らさせなくてはならない。

 風を斬るように振るわれる前足の攻撃をいなし、弾き、時にカチ上げ、時に縦横に振るってドラゴンの右へ右へと回り込むように牽制を続ける。


 だが、それこそゴルゾーンドクーリが狙っていた行動でもある。


 ゴルゾーンドクーリとしては、自らとベル、自らとズールーとの間にヒトを置きたかった。


 彼の目には、射撃を躊躇うズールーやベルの姿が見えていたのだ。


 こうしてゴルゾーンドクーリはズールーとの間にはトリスやロッコを、ベルとの間にゼノムを置くことに成功した。


 まず狙うのは忙しく動き、飛び上がって攻撃するラルファである。

 盾も持たず、リーチの短い手斧を使う彼女を血祭りに上げ、それを見て逆上した相手から始末するつもりでいる。


「半包囲弐番(ハーフ・シージ・ツー)!」


 陣形(フォーメーション)の指示と共にミヅチが駆け出す。

 トリス達の顔に喜色が浮かぶ。


 グィネは怪我が治り、行動出来る迄に回復することが出来た証左だからだ。


 流石に半包囲攻撃に参加出来るまでにはなっていない(ドラゴン程の大物との戦闘中にそこまで連続して高度な治癒魔術を行使可能なのはアルくらいしかいない)だろうが、白兵戦をやらせたらゼノムとタメを張れるミヅチの戦線復帰は心強かった。


 弐番(ミヅチ)自らが半包囲の中央に位置する事を宣言したため、ラルファはゼノムの方に寄って中央を空けた。


「オ前カッ!」


 ゴルゾーンドクーリは右腕を振ってミヅチに攻撃した。


 ゴッ!


 それを魔法の曲刀(シミター)で受け、ミヅチはあっけなく吹っ飛ぶ。


 だが、ミヅチは飛ばされることを計算に入れて攻撃を受けていた。

 出来るだけ腕の振りに逆らわないように受け、円状に振られた右腕の力を最大限に利用する。

 その結果、彼女は真横ではなく、ドラゴンの左側面に飛ばされるようにしたのである。


 そして、飛ばされながら足を伸ばし、足首を避雷針の根本に引っ掛けるようにしてくるりと回転しながら勢いを殺し、立ち上がると同時に斬り付けた。


「ギオオオオッ!」


 ミヅチの攻撃はドラゴンの左後ろ足を切り裂いて派手に出血させた。


「コ、コイツッ!」


 素早く体を回転させ、ミヅチに正対するドラゴン。

 回転に伴って右側の翼を少し広げ気味にしたため、トリスやロッコは近づけなかった。


 やっと翼が通り過ぎて近付こうとした時には短くなった尻尾を振られ、また距離を取らざるを得ない。

 そして、その時にはドラゴンは左腕をミヅチに向けて振るう。


「くっ!」


 その攻撃について、ある程度予測をしていたものの、その勢いまで読めなかったミヅチは今度こそ殴り飛ばされた。

 勿論、きっちりと剣でガードをして、腕の力に逆らわないようにしていた。

 だが、飛ばされた先にトリスがいた事が不運であった。


 二人はもつれるようにして転げ、最外部に立つ避雷針の根本に当たって止まった。


 【部隊編成(パーティーゼーション)】は維持されているので少なくともミヅチは無事だが、トリスと避雷針の根本に挟まれた格好になってしまい、大怪我を負ってしまったであろうことは確実である。


「奥様っ!」


 その様子を見て、ズールーは思わず構えを解いて叫び声を上げてしまう。


「ズールー! 集中して!」


 ふらふらと銃口を動かしながら、ベルが窘める。

 そんな彼女にしても、夫であるトリスも巻き込まれている。

 本音を言えば気が気ではない。

 が、【部隊編成(パーティーゼーション)】が解けでもしたのであればともかく、維持されているのであればもう目と鼻の先にまでアルが来ている以上、心配するには及ばないのだ。

 

 心配している暇があるのなら、白兵戦を行っている以上必ず見せるであろう横腹の隙を見逃さすに撃ち抜く事を考えるべきである。


 ベルはこれが出来る女であった。


「くおおっ!」


 ロッコが盾でドラゴンを殴りつけるが、その巨体はびくともしない。

 ドラゴンはミヅチを殴り飛ばした手を返すと、ラルファに命中させた。


「げうっ!」


 もろに食らってしまったラルファは、まるでゴムまりのように一〇m近くも飛ばされてしまう。


「貴様っ!」


 激昂し、斬り掛かるゼノム。

 だが、その位置では大きな被害は受けないと見て取ったのか、ドラゴンは銃を構え続けるベルを睨みつけた。

 その頭は低い位置にあり、ロッコの胸くらいにある。


――目を狙える?


 そう思ったのも束の間、ベルはドラゴンの頭部を狙うことを断念した。

 ベルの位置からだとドラゴンの頭部とロッコの体は数十㎝も離れていない。

 これでは僅かに狙いがずれただけでロッコに当たってしまう。


――あっ!?


 銃の狙いをつけられないまま銃口をフラフラと動かしていたベルが気がついた時には遅かった。


 ドラゴンの額に魔術光が凝集し、パッと散る。


――まずい!


 その時にはベルの左肩、鎧の隙間には石の矢(ストーンアロー)が突き刺さっていた。


「ぐううっ!」


 苦痛の声を上げた時には、石の矢は左肩の骨を砕いている。

 そして、半ば以上食い込んだ石の矢が消えると同時に血が噴き出した。


――トリス……!


 肩をやられては銃は疎か弓も撃てない。

 ベルは歯噛みをしながら屋根の反対側に移動せざるを得ない。


「ドヴァーノ・ケイザース・ガルジン・ダッギス・ベイレース……」


 治癒(キュアー)の魔術の呪文を唱え始める。

 左肩の傷口を押さえる指の間から真っ赤な血が滴る。


――むっ!


 ズールーはこのままドラゴンがロッコを相手にしてもゼノムを相手にしても必ず脇腹を見せるであろうことを悟った。


 頭は空(くう)。


 無の境地である。


 引き金に指がかかる。


 絞り込み、あと僅かで撃鉄が動くところで止めた。


「――っ!!」


 背中に風魔法を伴い、アルが戦場に到着した。






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