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男なら一国一城の主を目指さなきゃね  作者: 三度笠
第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第百七十四話 未到の地4

7446年7月3日


 六層の転移水晶の間に着いた俺たちは今日一日の疲れを癒すため、早速食事の支度をしつつ、順番にシャワーを浴びたり、疲れた体を解したりして休息の時間を過ごしていた。そして、じきに食事の支度も終わり、皆で少し遅めの夕食を摂る。食事の後はまだシャワーを浴びていない奴隷を中心にシャワーを浴び、俺たちはその間お茶を飲んで寛いでいた。


 明日は七層を昼前までに突破し、どんなに遅くても夕方には八層のミノタウロスを撃破して転移水晶の間に到着、基地化を推し進めた後、一度地上に戻る。必要な指示などを行い、可能な限り早くまた八層に戻って再度ミノタウロスの復活サイクルなどの調査を行う。その際には最低一週間はあそこで過ごすつもりだ。


 なにせ今月の二十五日頃にはバークッドからドンネオル家の者がリョーグ家の交代として来るし、その前にはソーセージ工場を稼働させておきたい。そこで仕事をさせる奴隷の手配についても進めてはいるが、なかなか条件に合う奴を集め難いようで、マダム・ロンスライルも苦労しているようだ。まぁ、奴隷については急がなければいけないものでもないのでいいけどさ。


 だが、工場を稼働させて半月くらいはバストラルやキャシーに張り付いて貰う必要もある。予定は早めに立てておきたいから日程がなかなか埋まらないことについては少し不満かなぁ。


「さて、明日も早いしそろそろ休もうか」


 誰かがそう言うと自然と休むことにした。尤も、明日は七層と八層の二階層だけだから出発時間はいつもより少し余裕を見て六時半くらいの予定だ。今の時刻は二十三時くらいだし、やはりそろそろ寝ておくべきだろう。


 念のため最初の見張りはトリスとギベルティ、次はズールーとグィネ、その次はラルファとエンゲラ、最後はベルともう一回ギベルティという形にした。必ず魔法が使える奴を混ぜているのは、いつ緑色団ベルデグリ・ブラザーフッドが到着しないとも限らないからだ。迷宮の中だし、完全に信用してる訳じゃないしね。ラルファとグィネを分けたのは俺の良心だ。


 んじゃお休み。




・・・・・・・・・




7446年7月4日


「……ください。ご主人様、お目覚めください」


 揺り起こされた。ギベルティだ。


「ん?」

緑色団ベルデグリ・ブラザーフッドです。今はカロスタラン様が応対しております」


 ……応対?

 なんだよ、もう。

 面倒臭ぇな。


 そっと毛布から抜け出すと一応鎧下を着て裸足のままトリスの立つ部屋の真ん中辺りを見る。


 ヴィルハイマーとバースのおっさん二人がトリスと何やら話をしている。時計の魔道具に手を当てて時間を確認すると午前一時少し前。最初の見張りの交代まであと僅かだった。ギベルティに「一応ズールーとグィネを起こしといてくれ」と言って立ち上がり、土で作ったベンチまで行くと腰掛けた。


 当然トリスは俺が起きたことに気が付いた。もし俺が必要な話なら呼ぶだろう。俺はベンチに腰掛けて鼻くそをほじりながら欠伸を噛み殺してトリスの背中を眺めていた。


 が、すぐにヴィルハイマーたちとの話は終わったようでトリスが戻ってきた。


「彼らはあそこに野営キャンプを張るそうです。それからシャワーについて借りてもいいかと聞かれましたので優先権は我々にあることを条件に許可を与えました」


 あ、そう。面倒な話じゃなくて良かった。


「ん、そうか。解った。じゃあ俺、もっかい寝てもいいかな?」


 ズールーとグィネが起きて支度を始めている間に俺は眠っていた。


 そして、翌朝ちょっと遅めに目覚めると、緑色団は少し前に意気揚々と七層へ出発したと聞かされ、先を越されたかと少し不愉快な思いになる。が、気を取り直して俺たちも七層へと出発する。そして、通路で出会う最大数の五匹のオーガに囲まれ、未だ死者こそ出ていないが半壊状態となった緑色団ベルデグリ・ブラザーフッドと遭遇し、その危機を救った。重傷を負ったヴィルハイマーを治癒してやり、大した礼も求めずに彼らの転移元まで送ろうとした俺に心を打たれたおっさんは、涙を流して今までの……またギベルティに起こされて目が覚めた。そう都合よく何度も出会えるかっつーの。


「夢を見ておいででしたか? 楽しそうな顔をしておられましたよ」


 申し訳なさそうな顔をしたギベルティに謝られながら、居心地の悪い思いをする。


「そうか? 何を見てたのか覚えてない」


 苦笑いをしながらそう答えるのが精一杯だった。


 さっぱりしようとシャワー室に向かう途中で緑色団ベルデグリ・ブラザーフッドの野営地を見ると、狼人族ウルフワーのおばさん一人を見張りに静かに全員が眠っているようだ。水音を気にしても仕方ないので、普通に熱い湯のシャワーと冷たい水のシャワーを交互に浴びて肌を引き締め、意識を完全に覚醒させ、装備を身に付ける。


 朝食のバルドゥッキーを挟んだホットドッグを一つ余分に作らせると、木のカップにワインの水割りを薄く作ってそれを持つと部屋の中央くらいまで行く。こちらに注目していた見張りの狼人族ウルフワーを手招きした。


「お疲れ様です。カムシュさん。お口に合うかは判りませんが、もし宜しかったらどうぞ」


 にっこりと微笑んで、こちらを訝しむ狼人族ウルフワーに向けてお盆ごと差し出した。


「え? いいのかい? すまないね。私もこいつには目が無くってねぇ」


 驚いたように言いながらも目を細めてホットドッグを受け取ったカムシュは嬉しそうな顔で微笑み返してくれた。


「そうですか、それは良かったです。あ、盆とカップは後で適当に戻しておいて頂ければ結構ですので」


「ありがとう。嬉しいよ。それからあたいのことはジルでいいよ」


 ジルはそう言ってにっこりと微笑み、早速美味そうな弾けるような音をさせてバルドゥッキーを一口頬張った。


「では、ジルさん。我々はそろそろ行きますので、失礼します」


「ああ、達者でな」


 殺戮者スローターズの野営地はまだ朝食の途中だ。俺もさっさと朝食を腹に詰め込むと全員でお互いの装備を確認し、膨らんだリュックサックを背負った。


「良し、忘れ物はないな。行くぞ、ムトレオキ!」




・・・・・・・・・




 ようやっと八層の最後の部屋、直径二㎞の中心にアンチスキルエリアが広がる大広間に辿り着いた。


 そろそろと進み、ミヅチの【部隊編成パーティーゼーション】が解除される辺りまで来ると、お互いが正面を見張るように車座になって小休止を行った。


「ギベルティ、お前はここで待機だ。荷物も全部纏めておく。さっきも言った通り、俺たちがこの先を進んで暫くするとあの辺り一帯全てに雷が落ち続ける。同時に部屋も七層みたいに明るくなる。驚かないで落ち着いて待機してろ。雷が無くなったら迎えに来るから」


「はい、解りました、ご主人様」


 全員背負っていたリュックサックを下ろし、ギベルティが待機する岩陰に纏め、喉を潤した。装備を再点検し、問題がないことを確認して更に十分程休む間、簡単に作戦を立てる。


「移動は蜂矢壱番アローヘッド・ワン、接敵までの基本間隔は五mとする。ミノタウロスが視界に入った瞬間に戦闘開始だ。いいな」


 そう言ってみんなを見回すとこっくりと頷いてくれたので先を続ける。


「前に戦ったし、俺たち全員でかかればまず間違いなく、集中攻撃の連続で倒せると思う。苦戦の要素は見当たらない。問題は……」


 グィネがごくりとつばを飲み込んだ。


「相手が一匹じゃない時。この場合、一匹は俺が相手をする。相手が二匹だった時は残りの一匹に全員で掛かればこれも大した事なく倒せるだろう。俺の援護はその後で十分間に合うし、相手の力がこの前と大差ないのであれば俺一人でも倒せると思う」


 みんなはじっと俺の話に耳を傾けている。


「三匹や四匹でも多分大丈夫だ。壁役シールドホルダーである、ズールーとトリスが粘れ。倒せるようなら倒しても構わんし、粘ってもいい」


 鎧を新調したついでにエンゲラには盾を使わなくてもいいと言ってある。彼女は元々盾の存在を忘れがちだったしね。今の鎧はバークッドのドクシュ一家が監修した、動物や魔物を相手にする設計になっているので、盾の装備については考慮されていない。代わりに俺の物の様に金属棒を何本か腕の甲に埋め込んであるし、左手の拳もゴムで覆われ、思い切り殴れるようになっている。表面は勿論エボナイトだ。


「もっと多いようなら俺を中心にトリスとズールー、ラルファとエンゲラを前衛にして戦線を構築する。その場合、ゼノムは斧を上手に使ってくれ。前衛は攻撃よりも防御に気を使って戦線の維持にだけ気を配れ。要はゼノムが後ろに下がる以外はいつもと大体同じって事だ」


「相手がミノタウロスじゃなかった場合は?」


 ミヅチが質問のために口を挟んできた。それを聞いたラルファやグィネ、ズールー、エンゲラは感心したように彼女を見た。今俺も言おうと思ってたんだよ。


「その場合は相手による。倒せそうならそのままやるし、やばそうなら隊形は指示しなおす」


 確かに未見のモンスターだったら厄介だが、相手が少数なら多分大丈夫だろ。最悪、俺たち前衛が粘っている間に後衛をゼノムに率いて貰い、倒して貰えればいい。どっちにしろあのライトニングボルトの檻が出てくる以上、撤退は出来ないのだ。


 さあ、隊列を整えて出発だ。


 俺を先頭にした蜂矢壱番アローヘッド・ワンの隊形を組み、進行を開始した。


 すぐにミヅチの【部隊編成パーティーゼーション】が解除されたことでアンチスキルエリアに突入したことを全員が理解した。


「そろそろですよ」


 グィネが合図をする。


 もう百m程度で柱に到着する。


 一度後ろを振り返って、全員に「大丈夫だ、必ず勝てる」とでも言うように頷いてやると、もう後は振り返らずに前進した。


 そして、何とかミノタウロス(一緒だったし、一匹だった。良かった)が視界に入った瞬間に例の空気を裂く様な音を立ててライトニングボルトの檻が作られ、高速度撮影のように急速に天井が明かりを増した。


「行くぞっ!」


 戦闘開始だ。掛け声と同時に銃剣を腰だめに構えて全速力のダッシュで突進する。


 当然ミノタウロスもこちらに気付いて三叉槍トライデントを構える。


『ブオオォォッ! ゴオォダアアァァッ!』


 うるせーよ。そろそろ雌は出ねぇのかね?


 ミノタウロスが突き出してきた三叉槍トライデントを銃剣で跳ね上げ、振り回された柄を潜ると右足の膝頭に銃床を叩き込んだ。

 それによって体勢を崩したところにベルとミヅチの放った矢が刺さる。

 顔面に突き立った方がベルだろう。

 もう一本は胸に刺さっている。


 更に体勢を崩したミノタウロスに盾を構えたままのズールーとトリスが体当たりで突っ込んだ。

 あ。

 尻餅をつくような形で地面に転がったミノタウロスの股間にゼノムの斧が刺さった。


『ガオオォォォッ!!』


 詰んだな。

 ミノタウロスは三叉槍トライデントを手放し、股間を押さえて転げまわる。

 斧は既にゼノムの手に戻っている。

 ラルファとエンゲラがそれぞれの得物を振り上げ、滅多打ちにしている。


 すぐにミノタウロスは死に、ライトニングボルトの檻は消えた。


 魔石の価値は相変わらず三万だった。

 三叉槍トライデントの方も高級品とは言い難い、普通のものだ。


 ……なんかだんだんしょぼくなって行くな。


 さっさとギベルティを呼びに行かせると転移水晶の間に入る。中を見回すと以前のままの状態だ。前回作っておいた氷も残っていて、その上にスープ鍋も乗ったままだ。氷の大きさは半分以下になって、スープ鍋は蓋の寸前まで氷にめり込んでいたけど。

 ここは変わりないのか。


 えっちらおっちら担いで来た荷物を運び込み、炊事場なんかを作るが、ここではたと困った。炊事や洗濯、シャワーに水を使うが、今までは少し離れたところに捨てに行くか、シャワーなんかは傾斜まで作って部屋の外に排水を誘導していたのだ。


「部屋の周囲一m位を残して水晶棒を囲むように床を底上げしてみたら?」


 と言う、ミヅチの案を変形して採用した。全面的にそんな事をするのは面倒なので奥の方の隅に生活用として五m四方くらい五十㎝の高床を作る。炊事場やシャワーもそれぞれ別の隅を候補地と定め、高床を作った。地面は汚れるけど綺麗な場所さえ作ればいいだろ。炊事や洗濯の排水だけは外に捨てに行く事は前提だ。これについては普段貯めておいて、ミノタウロスを処分した直後とかに外に捨てに行けばいい。桶、もっとたくさん要るな。


 トイレについては……これも外だろうな。迷宮の通路内でもよおした時のように、念のため護衛と一緒に外に行くしかないか。ま、ミノタウロスの復活についてそのサイクルが掴めればあんまり問題にはならないだろ。場合によってはこの転移水晶の間を収めた柱から百m、二百m離れた岩陰にでもトイレやシャワーを設置しても良いかも知れない。


 大体のことを皆で案を出し合って決めると、一度地上に戻ることにした。


 虐殺者ブッチャーズや、根絶者エクスターミネーターズに対する報告もあるし、工場の件もある。その辺をさっさと済ませ、また資材を担いでここまで戻らなければならない。

 

 やることは山積みだ。


 

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