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男なら一国一城の主を目指さなきゃね  作者: 三度笠
第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第百三十七話 暴露

7445年7月25日


 帰り道は来た時と正確に同じ道を通ったため、オーガには出会わなかったので来る時よりは楽だった。


 リンドベル夫妻だが、女房の方はともかく、旦那の方は魔法使いだ。

 ロッコの提案でケビンとジェルが両手の指を折って魔法を使えないようにしていた。

 また、二人に目配せや相談をさせないため、連行中はしっかりと二人の間に距離が置かれていた。


 帰り道を歩く間、皆がハルクにいろいろ質問をした。

 だが、当然ハルクにも解らないことはある。

 そんな時はリンドベル夫妻にも質問が振られたが、二人は黙して語らなかった。


 途中、俺と同様に話には加わらず黙り込んでいたカームが皆に言った。


「今回、私はたまたま怪我をしなかった。だから何か言う権利は無いかも知れない。でも、一歩間違えれば私もあのまま大怪我を負った可能性が高かったと思うの。グリード君がいたから死にはしなかったと思うけどね……。でも、リンドベルさんたちがしてきたことは許せないわ……。私も今までに二枚の御札で七百万は使ってると思うわ。一枚は使ったけど、もう一枚はまだ受け取ってない……」


 それを聞いたミースが返答した。


「怪我したとかしなかったとか関係ないわ。そもそも今回に始まったことじゃないって判ったじゃないの。逆に今回の事がなければ私達は永遠に食い物にされていたと思う。今、この瞬間だってストーンジャベリンを叩き込んでやりたいくらい、腸が煮えくり返ってるわよ」


 ロッコたちカモ三人組もそうだそうだと言って、リンドベル夫妻を小突いていた。


「ケビン、ジェル、つまんないことは止めなさいよ。そんなの後で幾らでも出来るからね。それよりもちゃんと用心しないとね……。今更何も出来ないとは思うけどさ……この二人はもうリーダーだなんて認められない。ビーンだってもう仲間だなんて思えないよ」


 キムが吐き捨てるように言った。

 それを聞いた皆もそうだそうだと言って怒った顔で同意していた。


 七層へと転移してきた場所に戻るのに夕方まで掛かった。


 六層に転移する水晶棒を掴む前、ハルクが俺に言う。


「グリード君。この後君が殺戮者スローターズに戻ろうがどうしようが咎める奴はいない。いや、咎められる力を持った奴はそもそも最初からいなかったんだろうな……。出来れば日光サン・レイに留まって皆を纏めて欲しいが、日光サン・レイはあの二人に加え、俺とビーンもどうなるかわからん。私刑リンチされて殺される可能性が高いと思ってる。

 ……ジンジャーも俺に石を投げるかも知れんしな……。正直な話、日光サン・レイはこの四人が抜けたら戦力はガタ落ちだろうから残っても多分メリットは無いよ。無理も言い辛いしな。殺戮者スローターズからは戻って欲しいと請われているのだから、こんな日光おれたちなんか放って戻る方が利口だぞ……。君はまだ若いから意地もあるんだろうが、ああして頭を下げられているうちが花だ。素直に戻っておいた方が良い」


 ここまで言ってくれるのは少し意外だった。


私刑リンチに掛けられるとして、黙って従うんですか?」


 唯々諾々とメンバーの裁きに従うつもりなんだろうか。


「……順番さえ考えてくれるならな……皆が私刑リンチを望むのであれば俺は黙って従うつもりだ。ビーンはどうするか判らんが、奴は黙ってやられるタマじゃない。抵抗するだろうな。だから、奴の拘束まではやらにゃあならんだろう。俺が殺されるのが四人のうちで最後なら俺は黙って殺されるつもりだ。すべてを衆目に晒した以上、また、すべてについて俺が最初に白状した以上、それが俺の責任だろう」


 いつの間にか全員が俺たちの周りに集まり、ハルクの話に耳を傾けていた。

 コーリットとメイリアのリンドベル夫妻はここに到着した時点でまた両足も縛られている。

 猿轡さるぐつわもきっちり噛まされていた。


 私刑リンチと聞いて彼らの顔に怯えが走っていたが、安心させてやろうなどという奴は誰もいなかった。


「丁度良い、皆もしっかり聞いておけ。いいか、俺を許すな。勘違いするなよ。俺は皆が哀れになったり、同情したり、まして今までの自分の行動を反省してやってるんじゃないぞ。長年仕えてきたこの夫婦に土壇場で切り捨てられたからブチ切れただけだ。こいつらが築いてきた物を、何もかも全て叩き壊したいからだ。忘れるなよ。過去に俺は何の罪もない、同じパーティーの仲間を後ろから殺したことがある男だ」


 そう言うと深呼吸を一つして言葉を続けた。


「……これからは皆、取り敢えずカームの指示を仰げ。ロッコの方が年上だが、お前は間抜け過ぎるからな、暫定でもリーダーは諦めろ。能力的にはグリード君でもいいが、彼は日光サン・レイに入ったばかりだからな。あからさまに近づくとビーンも用心する可能性がある」


 そう言うと鼻白んだ皆を他所に水晶棒を握った。

 暴れるリンドベル夫妻も俺を含めた四人がかりで無理やり水晶棒を握らせた。


「バッルハト」


 六層の転移の水晶棒の部屋へ転移した。




・・・・・・・・・




 部屋では殺戮者スローターズが待っていた。


 あのモン部屋から七層の転移の水晶棒の部屋まで一時間もかからない距離だから、俺達より先にここに来られるのは当然だ。


 殺戮者スローターズは俺が無事にここまで戻って来たのを確認すると、荷物を纏めている日光サン・レイを横目に「お先に」と言って五層へと転移して行った。

 多分四層あたりでまた出会う気もする。


「心配していたのね」


 ミースが微笑み掛けてきた。

 俺は荷物を纏めながら肩を竦めることで返答に代えた。


「カーム、手筈を確認しておけよ」


 ハルクがカームに言った。


 この上の層からは運が悪いと他のパーティーが居る可能性もある。


 残り三つのトップチームだって、五層の転移の水晶棒の部屋まで全く来ない訳じゃないのだ。

 聞かれて先に転移されて喋られたら面倒だ。

 確実に誰にも聞かれずに相談出来るのはここが最後だと思っていた方がいい。


 カームを中心に相談し、ゼミュネルを拘束する手筈について打ち合わせた。


 今の時間は十八時を回ったところだ。


 日光サン・レイの二軍のメンバーは、恐らくまだ三層の転移の水晶棒の小部屋を拠点として三層か四層で鉱石を探しているはずだ。

 時間から言って部屋に戻るのは遅くてもあと一時間から二時間くらいらしい。


 まだ戻っていない場合と既に戻っている場合の両方について手順を確認する。


 水晶棒の部屋なので邪魔が入ることだけはあんまり心配しなくてもいいのが救いといえば救いだろう。

 元から部屋にいる別の冒険者はどうせ手は出してこないだろうし。


 とにかく、有無を言わさずにまず拘束する事を検討した。

 カームを中心に案が纏められた。


 基本的にはミースが(当たり前だが)事情を知らず油断しているゼミュネルの片足だけでも氷で固め、動きが大幅に鈍ったところでロッコたちが飛び掛かって武装解除、拘束することになった。


 最初は氷で固めるのは俺に役割が振られたが、新入りの俺がいきなりそんなことをしたらゼミュネル本人はともかく、事情を知らないジンジャーやビンスたちにいらぬ反応を起こさせる可能性があると言って断った。


 そんなことしたらヒーロスコルあたりが嬉々として俺に剣を向けそうな気もしたしね。

 ヘタしたら攻撃魔術も使って来るかも知れん。

 アロー級の攻撃魔術でも至近距離からいきなり放たれたら俺だって躱せないだろうし、当たりどころが悪ければかなりの重傷となる。

 そんなのは勘弁だった。


 コーリットの治っていない指をまた折り曲げて悶絶させ、改めて抵抗の意思を削いでから、五層、四層へと連続して転移した。


 四層では予想通り殺戮者スローターズが居たがトリスに向かって軽く頷いてやっただけだ。

 彼らも俺の無事さえ確認出来ればいいらしい。

 その他、多分煉獄の炎(ゲヘナ・フレア)の物だろうが野営の装備が部屋の隅にあった。


 カーム、ミース、ロッコ、ケビン、ジェルの五人が先に転移して行った。

 万が一、三層の部屋に二軍パーティーが居たら彼らが先に襲いかかってゼミュネルを拘束するのだ。

 全員で転移したらリンドベル夫妻の拘束を見られ、怪しまれちゃうからね。

 五分程待機してから残った俺たち五人が転移する。


 三層へ転移すると大騒ぎだった。


 そこに俺たち五人が遅れて転移してきた。

 下層から転移して来ると部屋の中のどこか空いている場所にバラバラに配置される。

 キムが足を縛られたコーリットに駆け寄り、指が折れたまま後ろ手に縛られている手を蹴りつけた。

 俺もさっと周囲を見回してメイリアを発見すると剣を突き付けてやった。


 右足をジェリカンみたいなでかい氷で固められたゼミュネルに馬乗りになって殴りつけているロッコ。

 それを止めようとする事情を知らないジンジャーら日光サン・レイ二軍メンバーたち。

 ミースが右手を開いて伸ばし、そんな二軍のメンバーを牽制している。

 カームの命令でケビンとジェルもゼミュネルを散々に痛めつけている。

 そしてそれを遠巻きに眺め、囃し立てている二〇~三〇人程の部外者たち。


「グリードさん! これはどういうことです!?」


 ファルエルガーズが叫ぶが俺は振り向きもしなかった。


「黙れ、小僧!」


 ハルクが一喝したことにより、日光サン・レイ二軍メンバーの喧騒は瞬く間に沈静化した。


「『クーデター』か? 乗っ取りか? いずれにしても納得行く説明が欲しいな!」


 ヒーロスコルが不服そうに言うがハルクが一睨みしただけで黙った。


 ロッコたちが用意していたロープでリンドベル夫妻とゼミュネルを数珠繋ぎで拘束している。


「今から説明してやるから大人しくしていろ」


 ハルクはそう言うと、自ら半殺しになって喘いでいるゼミュネルの隣に行くとどっかと座り込んだ。

 自分も拘束しろと言うのだろう。

 カームに促され、ロッコたちは申し訳無さそうな顔すらせずハルクも拘束した。

 そりゃそうか、やはり恨んではいるんだろうな。




・・・・・・・・・




 ハルクは知る限りのことをぶち撒けた。


「事のあらましはこれで全てだ……すまんな、ジンジャー。俺はこういう男だったんだ」


 自嘲したような笑みを浮かべるとハルクはジンジャーから目を逸らした。


「皆、私刑リンチに掛けるなり、騎士団に引き渡すなり好きにしろ。俺は今ここで私刑リンチされて殺されても文句は言わん。騎士団に引き渡してもいいが、どんな罪なのかまでは良く解らん。だが、ビンスが居るからな。お前が訴えれば騎士団も聞いてくれるとは思うぞ。どうせお前の御札もまだ用意なんかされちゃいないだろうからな」


 ビンスことビンノード・ゲクドーは准男爵家の三男だ。

 去年死んだ妹のユリエールことヨランフィーヌは次女だったっけな。


 確かウェブドス侯爵領では詐欺は鞭打ち一回に罰金だった。

 天領が同じかどうかは知らないが、そう大きく変わらないだろう。


 だが、貴族が被害者になった例は知らない。

 もう少し重くはなるだろうが、死罪までは行かないと思う。

 おそらく鞭打ちも増えるだろうし。罰金も更に多く請求になるんじゃないかな? 

 主犯か従犯かで変わるのかまでは知らん。多分変わんない気がする。


 しかし、ビンスの訴えが認められるなら、他の金を払った日光サン・レイのメンバーも一緒に訴えるのであればそれも受け入れられるだろう。

 当然その分鞭打ちの回数は増えるし、罰金も増える。

 夫婦がいくら蓄財しているのかは知らないが、数億じゃ効かないくらいだろうな。

 借金奴隷は免れないだろう。


 それ以前に鞭打ちが増え過ぎたら死ぬ可能性が高いけどな。


 だが、そんな事より今をどうするかだ。

 と言っても、俺は何か聞かれない限り何も言うつもりはない。


「御札の金……どうなってんだよ!」


 ビンスが吠える。当たり前だ。


 彼だって裕福じゃない頃から金を払い続けていたんだろうし。

 二〇〇万だっけ? 他の奴より安いがそれだって金貨にして二枚。

 充分に大金だ。


「ビンス、今は落ち着いて。どうするか話し合いましょう。それから、暫定的にだけど私が今の日光サン・レイのリーダーよ。従いなさい」


 カームがビンスだけでなくヒスやジンジャーにも声を掛けている。


「ロリック、フィオ、サンノ、ルッツ。貴方たちはどう? 御札の話は先月聞いてるわよね。もう払っちゃった?」


 続いてファルエルガーズたちにも声を掛けた。


「あ、その、私は二〇〇……あと、奴隷二人の分で四〇〇……」


 ファルエルガーズが青い顔で答えた。

 ろ、六〇〇かよ……。洒落になってねぇ……。


「う……私も一〇〇……」


 ヒーロスコルも同じく青くなって答えた。


「お、俺、五〇……」

「俺も五〇……」


 こいつらは三人で二〇〇か。

 被害としては一番低いだろう。


「いつ払ったの?」


 全員先月の終わり頃だった。

 約一月(ひとつき)前だ。


「額はバラバラだけど四人も被害者が増えたわね……ハルクさん。彼らはもう御札を手に入れるのに動き始めていると思う?」


 縛られ、転がされているハルクの傍にしゃがみこんでカームは聞いた。


「一人分くらいはもう動いているかも知れないな。だが、恐らく碌に動いちゃいないだろう。……俺は知っていることは全部話した。これ以上知りたいなら本人に聞け」


 ハルクは後ろ手に縛られたまま答えた。

 それを聞いたカームはそれもそうだというように頷くと一つ溜め息をいて立ち上がった。


「ケビン、コーリットの猿轡さるぐつわを外しなさい」


 カームに命じられてケビンがコーリットの猿轡さるぐつわを外した。

 カームは腰の後ろに挿してあった小刀を引き抜くと切っ先をコーリットの眼前に突きつけて再びしゃがんだ。


「質問に答えて。嘘は許さない。私が嘘だと思っても許さない。黙っていても許さない。まず、皆から集めたお金で御札の工作は開始しているの?」


「……当然だ。私は騙してなどいない」


「わかった。じゃあ、皆から集めたお金は既に工作費用として使っていると言うことね?」


「そうだ……」


「そう言うしかないでしょうからね。いいわ。まだ持ってるなんて言ったらそれこそ詐欺だものね」


「だから詐欺などしていない、それより、一言言わせてくれ」


「ダメよ。あんたが話がうまいのはもう知ってる。こちらの質問にだけ答えていればいい」


 カームはぴしゃりと言い、続けた。


「御札の工作はどうやってやっていたの?」


 このあたりで周囲を囲んでいた冒険者たちから疑問の声が上がる。

 御札だの工作だのについてだ。


 日光サン・レイが仲間割れをしていることはもう周知だろうが、その原因となったことについて、今まさに目の前で話し合われているにも関わらず理解出来ないがゆえの疑問だろう。


 見かねたのか転がされている四人の中に進み出たミースが周りを睨みつけながら言う。


五月蠅うるさいわね、私達の邪魔をしないで。黙っていられないなら三層で稼ぎに行くか、地上に戻りなさい」


 なんだか勝手にゆるい人だと思っていたが、流石はトップチームのメンバーだ。

 一言、ひと睨みで有象無象を黙らせた。

 ってか皆も日光サン・レイと敵対したい訳じゃ無いだろうからな。


 周囲が静かになったのを確認したカームは再びコーリットへの尋問を始めた。


「御札の工作は誰にやらせていたの? その神社はどこ?」


 やはり俺の想像した通り、適当な奴らを集めて神社に並ばせたり、買収したりしていたらしい。

 しかし、冒険者に露見することを恐れていたのか、ロンベルティアにある複数の神社で行っていたとの事だった。

 買収費用も一定ではないから料金に差が出たとも言っていた。

 これは違うと思うけど。

 どうせ貴族相手には安くしたんだろ?


「何が特別の人脈だよ! そんなの特別でも何でもないじゃないか!」


 ジェルが叫ぶ。

 しかし、それを思い付き、実行し、それなりの数本物を手に入れたことについては素直に褒められると思うけどな。

 だいたい、あんたらも納得して金出してたんだろ?


「これから本当に工作中だったのか、工作中だったとしてちゃんと金を払った全員分だったのか調べる。どうせ人を雇うにしても王都(向こう)に取りまとめる奴がいるはずよね? そいつの居場所と連絡方法を言いなさい」


 そう言って日雇い派遣業者の名を聞き出そうとしたが、頑として口を割らなかった。


 本当に居ないのかも知れないけどな。


 確認出来た範囲では満月の日は必ず休日だったし、日光サン・レイは月の半分近くが休日だ。

 自ら王都の貧乏人や食い詰め者に声を掛けていたって不思議じゃない。


「全部話した! 俺達は騙してなんかいない! そ、そうだ! そんなことより、グリード! 貴様! 貴様こそ俺たちをたばかったろう!」


 は? 殺戮者スローターズを形だけ抜けたことについては騙したことにはあたらない。

 勝手に勘違いして俺を勧誘したのはあんたらだ。


 オーガについても嘘は一言も言ってない。

 痺れ薬に弱いとかオーガメイジも混じっているという情報を話さなかっただけだ。


 ピンポイントでそんな事聞かれるとは思っていなかったが、万が一聞かれても後でガタガタ言われるのを避けるために「そうかも知れませんね」と言ったとは思うけど。


「謀った? 一体何をです?」


「オーガメイジだ! 知らなかったとは言わせん! そこにいる殺戮者スローターズにいた時に散々七層に潜っておいて……知っていた筈だ!」


「はぁ? 言うに事欠いてそんな事ですか? 逆に問いますが、何十年も冒険者をやってきてオーガメイジという魔法を使うオーガが居ることを知らなかったとは言わせませんよ。それとも何ですか? もし迷宮に敵として普人族ヒューム精人族エルフ山人族ドワーフなんかが出るとして、魔法を使わないと思うのですか?

 オーガメイジはカンビットなど東の山地の方では食料を運んでいる隊商を襲ったりもしているらしいですし、皆さんの中でもご存じの方も多いのではありませんか? オーガメイジについて知らない方は手を挙げてみて下さい」


 そう言うと日光サン・レイのメンバーだけでなく、周りを取り囲んでいる冒険者達も見回した。

 以前、初めて七層に挑戦する時に殺戮者スローターズのメンバーで似たような話をしたことがある。

 オーガメイジどころかオーガを知らなかったのは田舎者の俺とデーバス王国出身のズールーとベルだけだった。

 グィネは、オーガなんかの強さまでは知らなかったみたいだけどな。

 天領しか回らない商人だったし、これは無理ない。


 実戦経験のあるゼノムは勿論の事、トリスやエンゲラも名前は知っていた。

 それにオーガメイジについても見たことはないが話は聞いていた様子だった。


 予想通り手が挙がったのは数える程だ。

 日光サン・レイのメンバーなんかファルエルガーズやヒーロスコルを含め、一軍、二軍の全員が知っていたようだ。


 ま、ずるいのは認めるけどね。

 オーガメイジはカンビットとロンベルトの間の山地にしか出没しないらしいので、そこ以外でオーガの集団を見ても普通はオーガメイジが混じっていることについて心配すらされない。

 だが、非常に強力な魔物として知られているのはとっくに調査済みだ。

 調べる時間はたっぷりあった……初めて殺したのなんて去年だしな。


「それから、ついでに言わせて頂きますが、オーガメイジと本格的に戦ったのは今回が最初ですよ。私が殺戮者スローターズにいた時は不意打ちでほぼすべて魔法なんか使う間もなく殺していましたからね。あ、ステータス見てもオーガとしか出ませんよ。魔法の特殊技能を持っているのは判りますからそこで初めてオーガではなくオーガメイジと判明します」


 そう言って肩を竦めた。


「そうだ、グリード君の言うことはおかしくない。キンルゥ山脈北部にしかオーガメイジが居ないと思い込んでいただけだろ。まぁ一言くらい言ってくれても良かった気もするけどよ……。それに、全部グリード君が説明していた通りの情報だったじゃないか。動きや戦闘力だってそうだ。今回だってオーガメイジが混じった十一匹のオーガの集団に対して攻撃を仕掛けたけど、オーガメイジは全部グリード君が倒したと聞いてる。

 俺達の目の前でも倒してたぞ。オーガメイジだけでなく、オーガだって殆ど彼が一人で倒してた。十一匹もいたオーガのうち七匹もたった一人で倒したんだ。その直前にも一匹か二匹は倒してるとこを見たしな。一番危険な囮だって最初は一人で引き受けようとしてたじゃないか。こんなこと言いたくないが、そっちは六人も居て一匹も倒せないってのもおかしいだろ! グリード君が行かなきゃ全滅だってあったんだろ!?」


 ロッコが言った。

 俺がオーガメイジの魔法を切り払ったの見てくれてたのか?

 いや、あとで死体から魔石を取る時に死体のステータス見りゃ判るか。


「……それについては私達も同罪ね……私もミースもキムもそっちの組だったからさ……やけに強いのだけ来たのかしらね……」


 カームが言った。

 後ろから弓放っていただけだからゆっくり観察出来たのかな?


「んなこたねーだろ。こっちで相手したのは今までとあんま変わんなかったぞ。それに、そっちのオーガだってグリード君がさっさと殺っちまったって話じゃねぇか。一緒だろ」


 ケビンが言った。

 おう、効きは悪いけど痺れ薬付きの千本(ほう)っといたからな。

 多少鈍くはなってたろ?


「冷静に考えてみれば部屋の主なんだからちょっとくらい強いの混じってても不思議じゃないのは確かね……」


 キムが言った。

 あー、そういう考えもあるか。

 でも四層とかの部屋の主で、たまにグールじゃなくてオークゾンビとか居るけど、通路の奴と一緒だよ。

 勿論、オーガも通路の奴と一緒なんだけどな。


「それに、最初にグリード君が言った通り、こちらに来たのは半分の四匹だったね……」


 ミースが言った。

 うん、褒めて貰って恐縮だけどそれは完全に偶然。

 だって俺だってそこまではどうしようもないもん。

 音立ててオーガ達に後方警戒を促したのは確かだけど。


「……オーガメイジなんてどうでもいいわ。御札の話からずれちゃったけど、オーガとの戦闘での問題はハルクさんが倒れてすぐに撤退を決意したこと。まだ生きてるのは誰の目にも明らかだった。それに、ロッコたちが反対側でまだ戦ってたのも明らかだった。ここまではオーガメイジが居ることすら明らかじゃなかった。魔法なんか使ってこなかったからね。まぁ、百歩譲ってここまではいいとしても、続いてメイリアがオーガメイジの魔法でやられたら途端に踏みとどまると言い出したこと。一人やられて撤退、二人やられて残るなんておかしいでしょ? それから、戦闘の後、治癒の順番も明らかにおかしかった……」


 カームが纏めてしまった……。

 これにはコーリットも言い返せないと思ったが「メイリアはリーダーだ。リーダーとそれ以外では一緒にならんだろう」と言ったのが火に油を注いでしまったようだ。


 その言葉自体は間違ってはいないと思うが、それはリーダー以外の奴が言う場合だろ。


 何故か知らんが「お客様は神様です」と言う客を思い出した。

 同時に「売り手と買い手は対等」と言うメーカーも思い出した。


 それらと同じこと、全部真理かも知れないが言って良い方と言ってはいけない方があるんだよね。前世の立派な社会人ですらこういう奴も多かったのだからコーリットが言うのもおかしくはないが、どこかでオースの人々には純朴で居て欲しいと思っていたのかな?


 これを聞いてジンジャー、ビンス、ヒスの三人だけでなく、サンノやルッツを始めとしたファルエルガーズたちも憤慨していた。

 しばらく話が続いた後、ジェルがイライラしたように喋った。


「もういいよ。ハルクさんには気付かせて貰ったことは感謝するが、俺はやっぱり許すことは出来ねぇ。だいたい、余裕カマしてるのも気に食わねぇ。どうせよ、まだ無記名の御札が結構あるから誤魔化せると思ってたんだろうがな。そうは行かねぇ。今思い出したよ、サントスの分だ。

 あいつが死んだのが四月。あいつはな、ロンベルティアの出身だ。実家に行ったこともある。あれから三ヶ月も経ってるからな、誤魔化しようがねぇぜ。サントスの実家に奴が払った代金、届けてんのか? 勿論御札だっていいけどな。ハッ、その面じゃあ払ってねぇな。こいつら、許せねぇわ。裁きの日に突き出したって、俺達の金は返っちゃ来ないだろうしよ、もうここで殺っちまおう」


 そう言うと槍の穂先をコーリットの胸に突き付けた。

 サントスの件はタイミングを見て俺が言おうと思ってたんだがな。


 ジンジャーがハルクを悲しそうに見下ろしている。


 ハルクはジンジャーとは決して目を合わせていなかった。


 

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