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男なら一国一城の主を目指さなきゃね  作者: 三度笠
第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第百三十六話 盾

7445年7月25日


「グィネ! ラルファ!」


 即座にトリスが命じる。

 弾かれたように二人がリンドベル夫妻に躍りかかった。


 グィネはメイリアに、ラルファはコーリットを押さえ付けている。

 夫妻二人とも充分に筋力はあるが、いかな獅人族ライオスと言えど、今は大怪我から治癒したばかり。

 簡単に押さえ付けられたようだ。


 俺はと言えば、思わずメイリアの様子を観察していた。

 その顔は悔しそうに醜く歪んでいた。


「まだ治癒魔術を掛けたばかりです。命に別状はなかったとは言え、大怪我には変わりありません。安静にして下さい」


 地面に押し付けられたリンドベル夫妻を見下ろしながらミヅチが冷然とした声音で言った。


「お話中のところ騒ぎ立ててすみません。アルさんのお話の邪魔はさせません」


 トリスが俺とハルクに詫びた。


「放せ!」

「放しなさいよっ!」


 グィネとラルファの下でリンドベル夫妻が騒いでいる。

 この成り行きをハルクの傍らであっけにとられて見守っていたカームが進み出てリンドベル夫妻の頭の前にしゃがんだ。


「コーリットさん、メイリアさん。私もハルクさんの話には興味があります。少しお静かにしていて下さい」


「カーム! あんた、何を言ってるの!」

「そうだ、騙されるな! おい、ロッコ、ケビン、ジェル! こいつらをどかせろ!」


 流石に、ミース、キムと言った病み上がり(?)は除いたようだ。


「え? あ?」

「どういうことだ?」

「お、俺に聞くなよ」


 カモ三人組は事態の急展開に付いて行けていない。


「ロッコ、ケビン、ジェル。リンドベルさんたちを押さえるのを代わってあげて頂戴。しっかりと動かないようにね」


 ミースが座ったままカモ三人組を見上げて言った。


「ああ、今は無傷で済んだあんたらが頼りだ。私はまだ腕がね……もう少ししたら行けると思うんだけど」


 キムも樹の幹に背中を預けて座りながら右腕をさすりつつ言う。


「お、おう、任せとけ!」

「さぁ、代わろう」

「すまんな。後は俺達に」


 グィネとラルファと夫妻を押さえつけるのを交代したカモ三人組は、取り敢えず何をしたらいいのかハッキリしたので嬉々として役目を殺戮者スローターズから代わった。


「ふん……ついでに猿轡さるぐつわでも嵌めとけ……と、すまんな……。まず、グリード君の疑問に答えよう。それからは少し俺の話を聞いて貰いたい。皆も、いいな? よく聞いてくれ……」


 ハルクがそう言うとリンドベル夫妻がまた騒ぎ出した。

 押さえ付けているケビンとジェルを見ていたロッコが腰から手拭いを引き抜き、同様にケビンの腰からも手拭いを引き抜くと捻って夫妻の口に突っ込んだ。

 汚ねぇな、ねじりん棒か。


「俺が殺戮者スローターズに行こうとした件な、あれはそこのコーリット、メイリア、俺、ビーンの四人で立案した計画の一つだよ。簡単に言うと殺戮者スローターズを試したんだ。ついさっき、ロッコたちも殺戮者スローターズに入りたいと言っていたが、殺戮者スローターズの話題が出る度に俺たち四人は気に食わなかった……正確に言うと気に食わなかったのはそこの二人とビーンだけどな。……去年、ビーンをリーダーにして初めて六層に挑んだ時のこと、覚えている奴も多いだろ?」


 日光サン・レイの皆は顔を合わせ、頷きあう。

 バツの悪そうな顔をしてる奴が……全員だった。


「去年の夏、俺達は運良く五層の転移の水晶棒まで魔物の部屋を三つしか経由しないで行ける道を見つけて大騒ぎしたことを覚えてる奴も多いと思う。……ああ、少し長い話になる。グリード君、それから殺戮者スローターズの皆さんも少しだけ我慢して聞いて欲しい。そして、その道を調査した結果、そこに至る転移先は三箇所であることまで判明した。四層から五層へ転移するとき、頑張れば行けなくはない。いよいよ六層に行くのを決定した晩のこと、覚えてるか?」


 日光サン・レイたちは揃って頷いている。


「忘れられねぇよ。ついに俺達が緑色団ベルデグリ・ブラザーフッドを追い抜いた殺戮者スローターズと肩を並べるんだ、バルドゥックで一番になれるんだって、大騒ぎしたからな」


 ジェルが呟いた。


「ああ、そうだな。ついでに、その時の人選を思い出せ。ビーンがリーダーなのはいい。俺と交代でよくやってたしな。まぁ、ビーンをリーダー、俺がサブ。ボグス、ジンジャー、ビンス、ユリエール、ジェル、ヒスの八人だった。なぜその人選になったかの件はあとで話す」


 カモ三人組は真剣な顔つきで話に聞き入り始めた。

 ミースとキム、カームは何かに気が付いたかのような、はっとした顔つきをしている。


「その時、転移の罠に嵌った俺達はボグス、ジンジャー、ビンス、ユリエールと逸れてしまった。ジェル、お前もいたんだ。覚えてるだろう?」


「ああ、忘れるもんか……」


 コーリットを押さえ付けているジェルは唇を噛み締め、悔しそうだった。


殺戮者スローターズはジンジャーとビンスを救ってくれた。一人五〇万という破格でな。おまけにユリエールの遺体まで苦労して運んでくれた。あんときゃ嬉しかったぜ、グリード君」


「いえ……」


 それほどでもないっすよ。いや、大したことじゃないっす。もっと言ってくれてもいいけど。


「ボグスだけはどうしようもなかったが、地上に戻った俺達はありのままをリンドベルさんたちに伝えるしかなかった。ボグスとユリエール。二人も魔法の使い手を失った俺達は、人数が減ったこともあって、それから暫くはフルメンバーのパーティー一つを迷宮に行かせるしかなかった。これは元に戻っただけだからあんまり関係ないけどな……ああ、すまんな」


 ところどころで咳き込むハルクを見兼ねたのかトリスが自分の腰から水筒を外し、ハルクに手渡してやっていた。


「俺は、思ったよ。殺戮者スローターズには敵わないってな。危険な六層にもかかわらず事も無げに別のパーティーのメンバーを救い出し、その恩を押し付けてくるわけでもない。犯した危険と見合わないくらい安いお礼に対しても文句一つ言わずに笑って受け取る。自分たちも相当苦労して資材を運んだであろうシャワーを無償で使わせてくれる。まだ子供のような年齢のメンバーが大半にもかかわらず、非常に実力は高い。魔法の使い手も何人もいるからってのもあるだろうが、バルドゥックで一番稼いでいて、一番危険な階層に足を踏み入れている。その気になりゃ俺たち程度なんか歯牙にも掛けず一捻り出来るだろうって思ってた」


 へぇ? 随分と高評価だね。


「だが、コーリットさんとメイリアさん、それにビーンは違った。恐らく、皆もそうだったと思う。何年か前、メイリアさんが言っていたよな? 自分の三分の一くらいの年齢の小僧がうち(サン・レイ)よりも稼いでるのに悔しくないのか? ってな。コーリットさんも悔しいに決まってるのにな……。まぁコーリットさんに限らず、誰だって悔しいだろうさ。俺だって悔しかった。だけど、俺はあの時悟った。こいつら殺戮者スローターズは普通の冒険者レイダーとはどこか違うってな……そこに今回の件だ。リンドベルさんたちは簡単に俺を切り捨てた」


 ……ふむ。


「ひょっとしたら俺のようにそんなこと解っていた奴もいたのかも知れないが、認めたくなかったんだろ? 普段から皆言ってたよな。……まぁいい。とにかく戦力の減った俺達はもう複数のパーティーを迷宮の奥に送ることは難しくなった。どこかで戦力の補充をしたいが、有象無象を取り込んでも大して戦力になんかなる筈もない。やはりトップチームくらいの実力がないと足を引っ張りかねないしな……」


「まぁ、そうよね」

「わかる」


 誰かが呟いた。


「とにかく何とか戦力を補充したい。そこで目をつけたのが殺戮者スローターズだ。去年の暮れだっけな? 夏の終わりの闇精人族ダークエルフの姉ちゃんに続いてあんたらに一人また若い奴が加わったろう? 猫人族キャットピープルの若い男だ。それまでも殺戮者スローターズがパーティーを二つに分けたなんて噂も聞いては居たが、十人だったし、確信は持てなかった。だが、十一人で迷宮に入っていくの見て確信が持てた。これなら上手くやりゃ一人二人引っこ抜けるかも知れないってな」


 リンドベル夫妻がモガモガ言って暴れだしたが、しっかりと押さえ付けられたままだ。


「リンドベルさんたちと俺、ビーンで何度も相談した。とにかく様子を探らなければ話にならない。様子を探っているうちに流れてきた騎士たちとそこそこ親しくしているのが解った。よく飯なんかも一緒に食ってたろ? だからまずは彼らに近づくことに決めた。正騎士だったのは確かなようだし、それなら実力もある筈だ。場合によっては彼らを加えて戦力を整えても良いかも知れないとすら思ったよ」


 ハルクはトリスの水筒の蓋のゴム栓を開け、水を一口、二口飲んだ。


「……ふぅ。ロリックとフィオは正騎士だったとは言え、迷宮冒険者メイズレイダーとしてはまだ駆け出しだからリンドベルさんたちは簡単に近づけた。だが、どうにも殺戮者スローターズの強さの事までは彼らも良く知らなかったらしい。そこでこちらからカマを掛けることにした。誰か送り込んで中から勧誘しようという事を考えた。勧誘の方法はもう予想がつくだろう? 御札だよ。俺は本物の御札を持っていることも決め手の一つだった。それから、既に盾を上手く使える戦闘奴隷を探してるっていう情報は掴んでた。おあつらえ向きに俺は盾の使い方にはちっとばかし自信があった。殺戮者スローターズが巷で言われているような、お人好しで脳味噌の足りない小僧や小娘の集団なら簡単に受け入れるはずだって言ってたよな? コーリットさんよ」


 コーリットは黙り、なんの返答もしなかった。


「俺は無理だと思ってた。以前グリード君と話した時に感じてた。俺なんか相手にされないだろう、ましてこんな罠に掛かる程間抜けじゃないだろうって思ってた。勿論そう言ったけどな。でも、成功したら儲けもの、失敗したらしたで揺さぶりを掛けられるかも知れないってビーンが言ったんでやることにしたんだ。だが、殺戮者スローターズは……ビンスを、ジンジャーを助けてくれた。ほとんど無償と言ってもいいくらいの金で助けてくれたんだ。五層のシャワーも使ってもいいと言ってくれた。万が一俺を受け入れるような選択をするのであれば俺は一言言うつもりだったよ。だから断ってくれて安心すらした。それ以降も再度行けと言われた時も行ったふりだけしてた」


 やけにあっさりと引き下がり、それ以降も全く何も言ってこないのが正直なところ不思議だったが……。

 タイミング的にその数カ月後にはファルエルガーズたちが日光サン・レイに入ったからあんまり深く考えなかった。

 そういう事だったか。


「少し長くなったが、今のがグリード君への答えだ。次は……最初の六層への人選の件だったな……。おい、ロッコ。その二人、適当なつたで縛っとけ」


 その時、ゼノムを始めとする残りの殺戮者スローターズも合流してきた。

 ズールーが俺のところに来て跪いて魔石を差し出した。


「救援、感謝します。グリード様。私共をお救い頂いた件、伏してお礼を申し上げます。こちらが私共が相手をしていたオーガの魔晶石です。ささやかなものではございますが、お受け取り下さい」


 ズールーがそう言うと一緒に来たゼノム、ベル、バストラル、エンゲラも一緒に頭を下げた。

 エンゲラとバストラルは跪いていた。

 併せてトリス、ラルファ、ミヅチ、グィネもまた俺に頭を下げた。


 ズールーから五つの魔石を受け取るとそのままコーリットとメイリアの前に置いてやった。


 ロッコは少し離れていた樹の幹に絡まっていたつたをナイフで切るとそれで暴れるリンドベル夫妻の手足を縛った。

 勿論、手は押さえ付けているケビンやジェルの手を借りて後ろ手に縛っている。


 少し悲しそうな顔でその様子を眺めていたハルクはまた話し始めた。

 そろそろかね?


「ここからは殺戮者スローターズの皆さんには関係のない話だ。だが、聞いておいて損はないと思うよ。皆知っての通り、俺は五年ちょっと前に日光サン・レイに加わった。日光サン・レイに入る前……もっと若いころ俺は自分のパーティーを持ってた。二つ名なんかない、普通の六人のパーティーだ。そこでドジこいて俺はメンバー五人を失った。三層で落とし穴に落ちた阿呆が居て、そいつを助けている間に魔物の奇襲を受けた。必死に戦ったがその戦闘で四人が死んでしまった。生き残った一人と命からがら迷宮の外に出たんだ。だが、金がなくてな。治癒師のところに駆け込んだが、四回分の治癒魔術しか受けさせてやれなかった。そいつは全身に槍を受けていて、もっと多くの治癒魔術が必要だった……」


 誰かがつばを飲み込んだ。


「……仕方がないので俺は自分を戦闘奴隷として売ることにした。俺を買い取ったのは当時そこそこの稼ぎを持ってた双子金貨ツインオーカーというパーティーだ。そこのリーダーをしていた人に買って貰ったんだ。金貨十枚だったよ。いい値段だろ? え? なんでそこまでしたのかって? ああ、傷を受けたのは俺の弟だったんだ。とにかく、それで弟は助かった。あんときゃ胸を撫で下ろしたもんさ。だが、双子金貨ツインオーカーは俺を入れて丁度十人でな。弟が入る余地はなかった」


 ハルクは水を飲んだ。


「……俺に申し訳ないと思った弟は金を稼いで俺を買い戻そうと必死になって迷宮に潜っていた。だが、一人じゃ流石にな……仕方ないから迷宮は諦めて普通の冒険者をやってる。ああ、まだ生きてるよ。俺を買ったのはコーリットさんだよ。買ってすぐに解放してくれた。たまたま迷宮の中で双子金貨ツインオーカーの戦闘を当時の日光サン・レイが見てたんだ。自分で言うのも何だが俺は当時結構戦力になってた。俺の力を欲しがったコーリットさんはそこを見込んでくれたんだろうな。有難いと思った。この人達の役に立ちたいと思った。望むことは何でもやってやろうと思った。役に立って稼いで少しでも早く借金を返すことを考えてた」


 ……俺も喉乾いた。

 水を飲もう。


 腰の後ろに装着している緊急用の、トリスと同型の水筒から水を飲んだ。

 まずい。


 迷宮に入る前に井戸から汲んだ水だが、もう三日、いや四日前か。

 腐ってないだけましだ。


「ここで皆が知っている御札について関係が出来てくる。俺も御札について知ったときは、あの時これさえあれば俺は奴隷にならなくて済んだのに、と思ったよ。同時にこれでリンドベルさんたちが小遣いを稼いでいるのも何とも思わなかった。時間はかかるが本物が手に入ればすごい治癒魔術を掛けて貰えるんだ。本来十年、二十年とお参りしないと手に入らないシロモノだ。それが多少時間が掛かるとはいえ、こんなに早く手に入れられるんだ。高くても、それで少しくらい利益を稼いでも当たり前だと思ってた。皆もそうだろう?」


 日光サン・レイの奴らは皆頷いていた。まだかな?


「だから俺も見て見ぬ振りどころか協力すらしていた。最初のうちなんか、欲しがったメンバーでも札が間に合わないうちに大怪我でもしよう物ならもうメンバーとしては役立たずだ。絞れるだけ絞って迷宮の中で後ろから不意打ちして始末すらした。そのうち、俺も借金を返し終わり、晴れて綺麗な体に戻れたが、それでもリンドベルさんたちへの感謝は薄れることはなかった。既にトップチームの一角になっていた日光おれたちは結構稼いでもいたし、その分け前からリンドベルさんたちが多少多めに取るくらい当たり前だと思い続けていた。でも、謝礼の価格はだんだんとエスカレートしていった。俺はここまで運良く大怪我はしなかったから二枚だけ得てそれで済んでいるが……ジェル、お前、今お願いしている御札の謝礼金、幾ら払った?」


「確か去年の五月くらいに四〇〇と、夏に五〇、あと暮れだっけな……更に五〇と、春に三〇で五五〇だな」


 ジェルは指折り数えて答えた。

 答えは間違っていたが、流石に足し算は出来るのか。


「最初は二五〇で貰えた。それが今じゃ最初に四〇〇、更に追加でもっと金がいる。いい商売だが、本物のキュアーオールが使える人がバルドゥックに居るなら破綻する。もう無理ですよリンドベルさん」


 リンドベル夫妻を見てそう言ったハルクはすぐに皆に視線を戻して続けた。


「わかったろ? 皆カモなんだ。勿論、きちんと戦力になっているとリンドベルさんたちが認めればカモからは脱出出来る。俺やビーン、それからミース、カームはそうだった。で、更に信用を得ると俺やビーンのようにリーダーになれる。昔、マライユとミサってのが居た。二人共五層で運悪くアイスモンスターと出会った時に殺されちまった。その後釜だよ、俺とビーンは」


 俺はまた水を口にした。

 運動した後は喉が渇くね。


「思い出してみろ。俺もビーンも御札のために金を払えっていつも言ってたろう? 持っているだけで心強いって薦めてたろう? 別に騙してたわけじゃない。時間は掛かるし、金も掛かるがいずれちゃんとした御札が来ることは確かだからな。但し、入って一年半から二年、実力によってはそれ以上生き延びた奴だけな」


 ざわついた。コーリットとメイリアは芋虫のままだ。あれ?


「一応俺たちもトップチームだ。五層や、今では六層、こうして七層にも来るから入れる奴の実力は一定以上は求める。だが、それだけだ。極論を言えば深層に行ってる間、盾になればいい。勿論頑丈な盾なら大歓迎だ。ここで去年の夏の六層に行ったメンバーを思い出せ。あれは最初だからな。はっきり言って六層の調査が主目的だ。どの程度の魔物がどんなふうに居るのか。どんな罠があって、どのくらい危険なのか……その調査が主目的だった。勿論危険だからと言って全滅なんかしたら目も当てられない。それなりの陣容は必要だ」


 しかし、このハルク……とは言えペラペラとよく喋る。

 見捨てられそうになった恨みも大きいのか?

 あんときすぐに後退されていたらほぼ確実に死んでいたことは確かだしな。


「だが、当時の俺達のメンバー、死んじまった奴も含めてな。思い出せ。初めて足を踏み入れる階層だ。ベストメンバーで、且つ十人で臨むのが当たり前だと思わないか? コーリットさん、メイリアさん、俺、ビーン、ロッコ、ミース、ボグス、カーム、ビンス……キムかジンジャーが当たり前だ。魔法の使い手は多い方がいいが、ユリエールやサントスはまだ流石にな……。このうち六層に行ったのは半分以下の四人だけだ。あの時、ジェルやヒスが行きたいと言ったからじゃない。ユリエールは流石に魔法の使い手が少なかったからだし、ジンジャーは……その……グリード君ももう知っていると思うが、俺の女だからだ」


 ジェルが目を見開いて凍りついている。


 っつーか知らなかったわ。

 体を要求しなくて良かった……。

 そんなつもりはさらさら無かったけどさ。

 あん時はラルファのお陰で下らな過ぎる冗談を言う羽目になったんだ。


 ああ、女を助けられたから殺戮者スローターズに対して負い目もあったのかもな。

 最早どうでもいいけど。


「ジェルはその時四五〇万Z払った直後だった。ヒスも四〇〇万以上払っていた。因みに、ロッコは払う払うと言ってまだ払ってなかったし、キムは御札が来たばかりだった。……言いたいことは解るな? 本来、お前らは魔物の部屋で無茶苦茶強い魔物が出た時に盾として犠牲になるためのメンバーだったのさ。ああ、勿論無事に帰ってこれればそれに越したことはないのは確かだ」


 あ、ちょっとおしっこしたくなったかも……。


「だがもう、全てどうでもいい。あれだけ尽くした俺を簡単に、役立たずのゴミのように切り捨て、こうしてキュアーオールが使える人まで居ることが解った。もう日光サン・レイは終わりだよ……戻ったら全部ぶちまけてやる!」


 その時メイリアが激しく身悶えすると同時に、拘束していたつたを力だけで引きちぎり、口に詰め込まれていた手拭いを引き出した。

 【瞬発インスタンテニオス】か……。


 あまりの突然の行動に誰もが唖然として動けない中、俺だけはメイリアがまだ種族の特殊技能を使っていないことに用心していた。

 メイリアは痛みが抜けるまで我慢していたのだろう。


 顔面に回し蹴りを入れ、倒れたところをつま先をエボナイトで固めたブーツで口に向かって蹴り。

 眼前に長剣ロングソードを突きつけた。


「ケイネスタンさん、お手数ですがもう一度縛って下さいますか?」


 にっこり笑ってロッコに言った。

 だってさっきつたを刈って縛ったのこいつだし。


 ロッコが再び縛り終わるまで待った。


「さて、お話も終わったようですし、皆さんお怪我の具合は如何ですか? メイリアさんが動き始めましたから、そろそろかなり痛みも引いていると思うのですが……」


 やはり結構回復していたらしい。


「勿体無いのでオーガの魔石でも回収しましょう。そこにある五つは日光サン・レイのものですから、今日の稼ぎは二六匹分。かなりの値打ちものですよ、これは」


 そう言うと率先して魔石の回収に回った。

 手分けをしたので数十分後には全部回収が終わった。


 殺戮者スローターズは所在なげにしていたが、コーリットとメイリアの見張りは必要だし、こいつらなら万が一にも突破される心配はないと言って、見張りを任せた。


「じゃあ、戻りましょうか。あ、殺戮者スローターズの皆さん、お疲れ様でした。今後も友好的に行きたいものですね」


「「アルさん……」」


 トリスもベルも泣きそうな顔をしていた。

 何黙ってんだよ、言う事あるだろうがよ。


「戻って下さい」


 ミヅチが進み出て言った。

 それはもう聞いたよ。

 本当はまずテメーが言うべきことだろうが。


 険しい目つきでじっと殺戮者スローターズの面々を見つめた。

 日光サン・レイの奴らも黙って見守っている。


 お見合いしてても仕方ない。


 溜め息を一つくと口を開いた。


「その話は後にしてくれと言ったぞ……」


 そう言いながら俺の後ろに並ぶ日光サン・レイからは見えないのをいいことにウインクを繰り返す。

 ミヅチが思い当たったように言う。


「わかりました、その件は地上に戻った後でゆっくり……。それとは別に日光サン・レイの皆さん、私は確かにキュアーオールが使えますが、無用の混乱は避けたいところです。今日のキュアーオールについては黙っていて下さいますか? 誰かが私のところにキュアーオールを掛けて欲しいと言って来たら貴方がたのどなたかが漏らしたものとして、我々はその瞬間から日光サン・レイと敵対します。無論、無闇に襲い掛かったりすることはありませんが、ご自身の健康や独り歩き……特に迷宮では気を付けて頂きたいものです」


 そうだよ。それは最初の計画でもトリスかベルが言うことになってたろ。

 お前らも今思い出したようにハッとしてんじゃねぇよ。


「……確かにな。解った。約束しよう。こちらからも一つお願いがある」


 ハルクが答えた。


 リンドベル夫妻が拘束されている今、自然とリーダーのように振舞っている。

 他に適任者が居ないことは確かだけど。


「俺たちは地上に戻り次第この二人を騎士団に突き出すつもりだ。勿論、我々は他のメンバーも居るから仲間内で話してそう決まったらの話だけどな。そもそもどんな罪に問えるのかすら解らないから私刑リンチして殺してしまうかも知れん。それは俺も、ビーンも一緒だけどな。運良く殺されなかったら俺の証言の証人になって欲しい。いまウチにはグリード君の他、ここには貴族はいないんだ」


「それについてはお約束しましょう」


 トリスが答えた。


「あと、うちのリーダーですが、地上に帰ったら返してくれるのですよね?」


 ベルが涙声で言った。

 おいおい、阿呆か。

 どんだけショック受けてるんだよ。


「それを決めるのは我々じゃないよ。本人に聞いてくれ。今、日光サン・レイは実質的なリーダーを失っているから抜けてもそれを責める奴もいない。それに、少なくとも地上に戻るまでは彼も我々と行動を共にしてくれる気のようだからね。裁きの日の時に、当時日光(サン・レイ)に所属していた貴族の証言も欲しい。加えて、七層に転移してきた場所に戻るには我々には彼のような護衛が必要だ。この二人の傷が回復していることは確かだから、旦那の方がいつ魔法を使って来るか、知れたもんじゃないこともある。そんな時にも彼は必要だ」


 殺戮者スローターズと別れた俺達は元来た道を帰る。


 勿論、リンドベル夫妻から地図を取り上げているから迷う事はないだろう。

 目印もあるしね。


「あ、ちょっと小便してきます」


 そう言って茂みの後ろに行こうとした腕をロッコに掴まれた。


「悪いがここでしてくれ。君が目を離した隙に魔法を使われても問題だ。ミースはまだ魔力が回復しきっていないと言っているしな」


 ……水飲まなきゃ良かった。

 流石に丸見えの状態じゃないが、音が聞こえる程度の距離ってやだね。

 でかい方だと臭いも届くじゃん……。


 

以前からご質問を頂いて、個別に回答しておりましたが、犯罪など何らかの理由で魔法使いが捕らえられた場合、魔法への精神集中を阻害するために死なない程度の怪我を負わせるのが普通です。指や手足の骨を折ったりします。


今は移動しなければいけませんから自分の足で歩いて貰った方が楽なので足を折ることはしないでしょう。腕くらいは折ってもおかしくはりません。折角ミヅチが治療したので、彼女の目の届く場所ではやりたくなかったんでしょうね。


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