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男なら一国一城の主を目指さなきゃね  作者: 三度笠
第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第百三十八話 賭け

7445年7月25日


 さて、どうしたもんかね?


 ここで彼ら四人が私刑《リンチ》に掛けられるのを黙って見ていてもバチは当たらんと思うが、ただ私刑《リンチ》を眺めているのもあんまり俺の趣味じゃない。


 そもそも、折角得た駒──と言う程でもないが──なのでもう少し働いて貰う必要がある。


「ちょっと待って下さい! ここで私刑《リンチ》して殺してしまうおつもりですか!?」


 少し慌てたようにジェルに言った。


「ああ、そうだ。この二人は許せねぇ! もちろんビーンもハルクも同罪だ。こいつらも俺たちを出汁に美味い汁を吸ってやがったに違いねぇ!」


 ジェルはすっかり感情的になっている。


 ……無理もないが。


 勿論、他の日光《サン・レイ》のメンバーも同様だ。


「まぁまぁ。そういきり立たなくても逃げられやしませんよ。騎士団に突き出すのはともかくとして、皆さんだって少なくとも御札を受け取っていない分のお金は返って来た方が良くないですか? これじゃ、返ってくるものも返ってきやしません」


 俺がそう言うと皆、顔を見合わせて頷いている。


「それに、騙しているかどうかはともかく、私は不思議な点が一つありますね。なぜ人によって必要な金額が違うのですか? その辺り、明確な答えが聞きたいと思うのです」


「その時によって工作に必要な金が変わるからだと聞いているが……」


 俺の問いかけに対してヒーロスコルが答えた。ファルエルガーズも頷いている。


「ん~、そうですか。ファルエルガーズさんたちは全員一緒に払いましたか?」


「「ああ」」


「お一人の価格は?」


「二五〇万Zと言われました。だからまだ全額は払っていませんが……」


 まぁ、瀕死の重傷を負っても綺麗さっぱり治るならそのくらいの金を掛ける価値はあるかも知れない。


 この辺りは怪我に対する価値観や、所持金によって変わるだろうから何とも言えないな。


 だけど、全部払ってないあたり、そろそろファルエルガーズの金も尽きかけて来たってところだろうね。


 ヒーロスコルも御札までファルエルガーズにおんぶにだっこじゃどうかと思うし、彼が払ったという一〇〇万は彼個人の金なんだろう。

 サンノやルッツにしてもそうだろうと思う。


「……六人なら合計千五〇〇万Zですか……大した金額だ。ところでケイネスタンさんは五〇〇万以上払っていますが未だ来ない状況だそうですね。おまけにまだ追加でお支払いしそうな勢いでした。ラミレスさん、ハルレインさんも四〇〇万以上支払っていると聞いてます。このお二人は御札がもう手元に来ているかは存じませんが。ゲクドーさんも二〇〇万払って、まだ来ていませんよね? ああ別にいいんですよ。時期によって価格が異なっても。ただ、不思議なのはあまりに価格差が大きいということです」


 俺の言葉を聞いてロッコ、ジェル、ハル、ビンスの四人は自分の払った金額を思い返したようだ。


「どうせ聞いてもきちんとは答えて貰えないでしょうが、多分御札に必要な金額自体は二〇〇万もしないんでしょうね。黙って待っている人には追加で金を要求し、うるさそうな人には要求しないか、適当に時期を見て本当に用意した御札を渡していたのでしょうね。どうですか、コーリットさん、メイリアさん?」


 リンドベル夫妻はふくれっ面のように不貞腐れた感じで何も喋らなかった。

 尤も、メイリアの方は猿轡《さるぐつわ》を噛まされたままだったから喋ることは出来ないけど。


「返答がないのは認めたと取ってもいいと思います。まぁ、この顔を見れば一目瞭然でしょう。さて、問題は皆さんがお支払いしたお金です。流石にこの金額だ。私はどこかに隠匿していると思いますよ。神社が怪しいでしょうね。ご存じない方のために説明しますが、経費は掛かりますけど神社では物を預かってくれます。勿論お金でも大丈夫です。一定量の大きさまで安全に保管してくれます。ここで彼らを私刑《リンチ》に掛けて殺してしまったらお金は帰って来ませんよ。それでも良い、と言うのでしたらこれ以上私には何も言うことはありません」


「……わかった、まだ御札を渡していなくて、金を返して欲しい、と言うのなら金は返す。……だが、もう二度と御札は手に入らなくなるものと思ってくれ」


 コーリットが言った。

 前半はそれで命を繋ぎ止めたいのだろうし、後半は当てつけだろう。


「こう言っていますが、まだ続けますか?」


 ジェルは槍を収めた。


「他の皆さんも良いですか?」


 日光《サン・レイ》全員が頷いたのを確認した。


「では、ミシャウスさん、後をお願いします」


 俺に話を振られたカームは吃驚《びっくり》した顔つきをしたが、すぐに引き締めた。


「とりあえず、上に戻ろうか……でも……あんたたち、グリード君に感謝することね……命が繋がったんだから……。ああ、あと戻る前にこれも確認しとかなきゃね。ここで私刑《リンチ》に掛けないならどうするか決めなきゃね」


 そう言うと皆を見回した。

 だが、誰も何も言わず、顔を見合わせるばかりだった。


「グリード君、私刑《リンチ》を止めるくらいだから何か考えがあるんでしょ? 話してくれないかな?」


「別に、大した案がある訳じゃないですよ。このまま騎士団に突き出してもお金は帰って来ないと思ったからに過ぎないのですがね……ですが、皆さんだってお金さえ帰ってくれば納得する、と言う訳でもないでしょう? 殆どが気持ちの問題でもあるでしょうからね」


「それはそうね」


「ですから、大切なのはまずお金を取り戻すこと。次にどうやって気持ちを晴らすかと言うことになりますね。でも、ここではほぼ結論が出てます。許さない、ってね。ですが、今は一時の感情に支配され過ぎている感も拭えません。一度拘束したまま上に戻り、彼らは第三者、出来れば騎士団以外の第三者にでも見張って貰って、その間に金を取り戻す算段をつけるなり、取り戻すなりをしてから考えたら如何です? 別に急いでもあんまり意味もないでしょう?」


「見張っていて貰うなら騎士団がいいと思うけど?」


「それも良いですが、そうすると恐らくですが、どこぞに隠していると思われる金を取りに行かせられるとは思えません」


「じゃあ、誰がいいと思うの?」


「私でもいいですよ。幸い私は日光《サン・レイ》でも新入りです。被害らしい被害もありませんし。この四人との利害関係は薄いと言っても良いでしょうから。ああ、勿論逃げられたりしないように人を雇います。幸いにして私の復帰を望む殺戮者《スローターズ》の皆さんがそこで私に雇われるのを期待して待っているようですからね」


 途中から殺戮者《スローターズ》の方を向いて話した。


「アルさん、我々は貴方に戻って頂けるならどんな事でも厭《いと》いません。何でも言いつけて下さい」


 トリスがそう言って俺に頭を下げた。

 野次馬たちがちょっとざわついた。

 そうそう、こういうとこで言ってくれよな。


「ん、約束は出来ん。だが、俺に戻って欲しいなら役に立つところを見せろ。そうだな、取り敢えず全員を纏めて一日一〇Z(大賤貨一枚)で雇おうか。ミシャウスさん、殺戮者《スローターズ》なら実力的に問題ありますまい。万が一にも取り逃しはしないでしょう。経費は……大したことないですから私の奢りでも良いですが、こういう事はしっかりやった方が良いでしょう。後程ご請求します」


「ぷっ。それでいいならいいわ。この四人は後で殺戮者《スローターズ》に預けましょうか。皆もそれでいい?」


 異論は無いようだ。

 ファルエルガーズやヒーロスコルが反対するかとも思っていたけど、杞憂だった。

 彼らは精気の抜けたような顔付きだった。


 話も纏まったので地上へと転移した。




・・・・・・・・・




 俺の予想を聞き入れてくれた皆と一緒に、迷宮を出たその足で神社に向かう。


 バルドゥックには神社は二つあるのだが、小さい方は現在神主はいない(満月の日には人が来る)ので大きい方へ行くしか選択肢は無い。


 すっかりと暗くなったバルドゥックの街を、二〇人でぞろぞろと神社の前まで移動する。


 リンドベル夫妻及びビーンとハルクが縄を打たれて縛られているがその周りを俺を含む一六人でしっかりと固め、どう考えても逃走は不可能であった。


 そもそもコーリットは指を折られている。

 メイリアは歯を俺に折られている。

 ゼミュネルは散々に傷めつけられてびっこを引いている。

 ハルクだけは治療された時のまま元気だが、逃走の意思は見られない。


 こんな状態では逃げたところですぐに追いつかれて引き摺り倒されるだろう。


 神社は二四時間営業ではないので、このまま翌朝まで神社の前で屯《たむろ》することになっていた。

 勿論、全員でだ。

 俺は金を払ってないし、恨みなんかも無いから宿に戻って休みたかったが、空気を読んで我慢した。

 食い物は移動の途中でファルエルガーズの奴隷たちに買い出しに行かせていた。


 朝になり、神社の職員の出勤を確認してからコーリットと付き添いのカームが神社へと入っていった。


 入り口で神主だか神官だかにコーリットがステータスオープンを掛けられ、予め打ち合わせた通りの言葉を伝えた。

 「ロッカーを解約するので中身を全部持ってきて欲しい」だ。

 ロッカーに入れるのはステータスを確認された本人のみ。

 他の奴は例え家族でも入れてはくれない。

 しかし、解約するのであれば話は別だ。

 中身を全部持って来ればいいだけなので本人が行く必要は無いからね。


 程なくしてこちらで用意していた頭陀袋が膨らんで戻ってきた。


 やり過ぎな気もしないでもないが、皆の心配自体は尤もなもの(コーリットが神社から持ち出す現金をわざと少なくして「金はこれしか残っていない」と言われたら意味が無いからだ)なので俺は口を出さずに黙っていた。


 モゴリート亭のリンドベル夫妻が借りている部屋では手狭なのでいつものフォートンをカームが銀貨一〇枚を支払って朝から借り切った。

 皆には順番に一度宿に戻り、支払いの証書みたいなやつを取りに行かせる。


 カームが余計なことをせずにすぐに戻ってこいと言っていた。


 そりゃあ、こんな事態だ。

 のんびり休みたいとか、シャワー浴びたいなんて贅沢が許される筈もなかったね。


 念のため数えたコーリットたちの財産は金貨だけで一九〇枚を超えていた。

 金朱も合わせると全部で二億Z近い。


 ここから現時点の被害を返させても一億六〇〇〇万Z近くが残った。

 それに手を付けようとする奴も居ないではなかったが、カームが睨みつけて止めた。


「これで今、お金を払っていて御札が無い人はもういないね? お金は確かに取り返したね?」


 全員の頷きを合図に、カームは金をまた頭陀袋に戻した。

 それから支払い状と言うか、証書をミースに火を付けさせて焼いた。


「金は全部返した。これでいいだろう?」


 コーリットがカームに言った。


 カームはその言葉を無視して皆に告げる。


「さて、お金の精算は終わった。だけど、これで終わりに出来ないのは皆判ってると思う。昨日グリード君が言ったように、頭を冷やす時間も必要でしょう」


 そう言ってファルエルガーズの奴隷二人を注視すると「あなたたち、悪いけど殺戮者《スローターズ》に声を掛けてきて貰えるかな? 彼らがここに来たら皆、一時休みましょう」と言って椅子に腰掛けた。


 しかし、殺戮者《スローターズ》はこの時間、大半がランニング中だ。

 あと一時間は走っているだろう。


 仕方がないので「おそらく今の時間は訓練中です。あと一時間程度で戻ると思います。その後朝食を取るでしょうからその時を狙った方が捕まえ易いでしょう。ボイル亭の前で待っていれば一度全員戻ってくるはずです」と言ってやった。

 ゼノムはランニングに行かないからね。

 流石にあの後で朝食をばらばらに食いに行ったりはしないだろ。


 皆もかなり疲労が溜まっている筈だが、この程度、俺抜きで一層二層を通ることを考えたら警戒の対象が絞れる分だけまだ楽だ。

 取り敢えず朝食を摂って殺戮者《スローターズ》が戻るのを待った。

 奴隷二人には朝食を掻き込ませると念の為に早めにボイル亭まで向かわせる。


 四人の見張りを殺戮者《スローターズ》と交代すると各々宿に引き揚げ、夕方またここに戻ることになった。


 カームはミースと交代で残るそうだ。


 二人共女なんだからシャワーくらいは浴びたいだろうに、責任感が強いのか、怒りが大きいのか……リーダーは大変だよな。




・・・・・・・・・




7445年7月26日


 夕方までたっぷり休んだ俺はまたフォートンまでのんびりと歩いて行った。


 やっとこさ、この不愉快な状況から解放されそうだ。


 中心になって策を練っていたトリスとベルをどう折檻してやろうか、頭のなかで色々と愉快な妄想を膨らましながら夕暮れになりつつあるバルドゥックの街を歩く。


 お、美味そうな匂いだな。

 フォートンに着いたら何食おうかな。

 でもあそこ、何食ってもあんま美味くないんだよな。

 料金が安いくらいしか取り柄のない店ってこれだからなぁ……。


 そんな益体もないことを考えながら道を歩いていると、前から知った顔が数人歩いて来た。


 緑色団《ベルデグリ・ブラザーフッド》のヴィルハイマーたちだ。


「よぉ、グリード君。なんか大変な事になってるらしいな」


「ああ、ヴィルハイマーさん。ま、ご心配はいりませんよ。なるようにしかならないでしょうから」


「グリード君、こんな顔してるが気にしないでくれ。ウチのリーダーはここんとこ君の話ばっかりだ。恋する乙女かって程にな。ほら、行ってくれや。今、大変なんだろう?」


 バースが何か続けて言おうとするヴィルハイマーを遮って俺を行かせてくれた。

 彼とは輝く刃(ブライト・ブレイド)の件以来、親しく話をさせて貰っているがヴィルハイマーのおっさんとは違って見た目通りの気持ちのいい男だ。


 お言葉に甘え、さっさと通り過ぎ、フォートンの入り口から中に入った。

 どうやら俺が一番遅かったらしい。

 とは言え他のメンバーの殆ども俺とそう変わらない時間に到着していたようで、まずそうにエールを飲んだり、安物の食事を摂ったりしていた。


「全員揃ったようね。殺戮者《スローターズ》の皆さん、ご協力ありがとう。ひょっとしたらまた明日の朝連絡するかも知れないけど、その時は申し訳ないけどまたお願いします。連絡が無かったら我々の事は気にしないで下さい」


 カームがそう言うと壁際の席に座っていた殺戮者《スローターズ》の面々は丁寧に頭を下げて出て行った。


「遅くなったようで、申し訳ありません」


 皆に頭を下げ、端の席に座るとビールと煮豆、焼き豚を注文した。


「さて、全員揃った。そしてここには日光《サン・レイ》しかいないわ。自由に話が出来る」


 四人が地べたに座らされている脇にカームが立って腰に手を当てながら話し始めた。


 カームは矮人族《ノーム》なのでかなり背が低い。


 顔や体つきは立派な大人だが、きっともう少し離れて見ると小学生高学年か中学生くらいの体格の良い学級委員長のような子供が喋っているように見えるんじゃないかな。


「少し待って下さい」


 そう言って立ち上がり、俺の方をちらっと見たのはヒーロスコルだ。

 またなんか絡んでくんのかね?


「グリードさんは日光《サン・レイ》のメンバーなんですか? 昨日は殺戮者《スローターズ》に戻るようなことを言われていたようですが……」


 ああ、そういう事ね。


 しかし、なんなんだろうね、この言い草は。

 温厚な俺も流石にその、少しばかりムカついてくる。


 喧嘩したいなら何時でも相手になってやってもいいんだぜ?


「おい、フィオ!」


 ファルエルガーズがヒーロスコルの袖を引っ張っている。

 なお、日光《サン・レイ》の一軍メンバーや二軍のメンバーからも失笑が起こった。


「フィオ、あんたがグリード君をあんまり好きじゃないってのは聞いてる。でもね、先はどうだか知らないけど、今はグリード君は日光《サン・レイ》のメンバーだよ。もう聞いている人もいるかも知れないけど、あんたは知らないみたいだね。ついでだから今回のこと、最初から話してあげる。皆にももう一度状況を整理して欲しいからよく話し合いましょう」


 そう言うとカームは七層での出来事の最初から話をした。

 七層に転移した時から戻るまでの全てをだ。


 彼女の知らない部分(迂回していた俺とカモ三人組がオーガの奇襲を受け、半壊状態に陥っていた殺戮者《スローターズ》を救ったことや、その後のオーガへの奇襲攻撃の部分など)はカモ三人組が適宜フォローした。


 どうやらその辺りの事情について知らなかったのはファルエルガーズたちだけだったらしい。

 他の皆はめいめい飲みに行ったりして話していたようだが、こいつらは馬鹿正直に宿に帰って寝てたのか?


 今回の件について直接リンドベル夫妻の行っていた内容を暴いたのはハルクだが、それも元はと言えばリンドベル夫妻が瀕死のハルクを見捨てる決断を下したことが原因だ。


 あの決断自体は決して褒められたものではないが、さりとて現場に居なかった奴がどうこう言えるものでもないだろう。

 問題はメイリアがオーガメイジの魔術に倒れてからその決断を早々にひっくり返した事だ。


 ここで責められるべき事はハルクが倒された時点での撤退の判断が妥当だったのか、ということがまず挙げられる。


 ハルクが倒される前に俺は「既に三匹倒しました。今は四匹を相手取っています! そちらには四匹が向かっています!」と警告を与え、それは全員が耳にしている。

 この時点で見捨てるのはハルク一人ではなく、迂回組の俺たち四人も切り捨てる結果になりかねない。


 この時迂回組の方は四人の殺戮者《スローターズ》の協力も得て有利に戦えていたが、その情報はコーリットたちは知らないので迂回組をも切り捨てるという判断であったことを全員が認めた。

 ただ、俺としては目の前に意外にも強いオーガ三匹が居て、前衛のベテラン戦士が一発で倒されてしまったのなら、奥に味方が居ようとこれ以上の被害を出さないことを慮《おもんぱか》って、一度撤退して立て直すという考えも一概に否定は出来ないと思う。

 勿論積極的に肯定する気も無いけど。


 次はメイリアがオーガメイジの魔術に倒された時だ。


 確かに俺はオーガメイジについて一言も触れていない。

 が、それ自体は責められないと結論が出ている。


 問題は、今までいたのが判っていなかったオーガメイジという強力なモンスターが、何くわぬ顔でオーガの集団に混ざっていた事が判明したにも関わらず、メイリアが倒れたことで撤退を撤回し、抗戦を選んだことだ。


 こちらの戦力は低下、相手の戦力にはオーガメイジが混じっていることが明らかになり、上昇したと考えてもいい。


 しかも非常に短時間での一八〇度の方針転換だ。

 この判断には納得が出来ないと全員が表明した。


 これについても俺は、人ってそういう部分もあるだろうし、きっとコーリットに取ってはメイリアは女房なんだし、他のメンバーよりも大切だったと言うだけの話だと思った。

 尤も、他人の命を預かるリーダーの判断として見ると、どうなのよ? と思わざるを得ないけどね。


 ま、俺としてはこの時に天啓のように閃いたんだがね。あまりにも出来過ぎた状況だったし。


 この二点だけを取ってもリンドベル夫妻の信用はガタ落ちだ。

 仲間は切り捨てられるが自分の配偶者は切り捨てられないどころか、相手に戦力の増加が確認されてから抗戦を選んでいる訳だから、仲間を死地に立たせたと取ることも出来る。


 そして殆ど絶望的な状況になってから、もっと多くの敵戦力を粉砕・突破して危地から逆転した俺に対する理不尽な言葉。

 それら全てを見て、聞いていたハルクが爆発する。

 その勢いで過去の悪行についてもバラされてしまった。


 まぁ、俺としては過去の悪行、または現在の悪行の部分についてはそれなりの予想はしていたが、確信までは持っていなかった。

 ハルクもある程度は協力していたかも知れない、という程度で、積極的に仲間を死地に送り込んだり、後ろから不意打ちしていたとまでは考えていなかった。


 オーガに殴られてうつ伏せになったまま苦しんでいたハルクを仰向けに起こしてやりながら仄めかし(サゼッション)の魔術を使った俺の狙いは予想を超えた効果を発揮した訳だ。

 手袋に空けた【鑑定】なんかに使う穴で接触していたから光が漏れる心配も無かったしね。


 俺としてはハルクを見捨てたことをカームが詰《なじ》っていたのでそれをハルクに植えつけてやればリンドベル夫妻への求心力を失わせられるな、とか、ついでに俺の大活躍や皆の危機を救ったことを強調してやればハルクは俺に感謝し、うまく行けば心酔してくれるかも知れない、それに乗じて日光《サン・レイ》を乗っ取るのも悪くない、と思っていた。

 最悪でもハルクを引っこ抜いて殺戮者《スローターズ》に戻ることは訳なく出来るだろう、と考えていたんだ。


 まぁ、計算以上の役には立ってくれたが、ハルク自身、皆を裏切っていた事について改心した訳じゃないようだし、そんな奴を仲間になんかしたくないから今ではハルクを引っこ抜くこと自体はするつもりがない。

 助けようとも助けたいとも思っていない。

 それは猿轡《さるぐつわ》を噛まされたまま不貞腐《ふてくさ》れているゼミュネルも同様だ。


「……結局のところ、リンドベルたちは自らボロを出した。ハルクはそれに呆れ返り全部ぶちまけた。それとは別にグリード君は私達の危機を救ってくれた。機転を利かせて殺戮者《スローターズ》に恩を着せ、無理やり協力させた所もあるけれど、それで助かったことは確かよ」


「済みません、皆さん、グリードさん。フィオはその……グリードさんが羨「済みません! グリードさんにもつまらない事を申し上げました。お許し下さい」


 ファルエルガーズがフォローしようと何か言っているところにヒーロスコルが被せるように大きな声で詫びを入れた。解ってくれりゃいいけどさ……。


 その後全員で話し合った結果、今回金を取り戻した連中の御札について、すでに調達に動いているのかいないのかが重要なポイントであると結論づけられた。


 ここで焦点になるのが御札の調達方法だ。


 コーリットとメイリアに訊ねてものらりくらりと言葉を濁すだけで一向に吐かない。

 調達を開始していたのであればもう業者を隠している意味は薄いとは思うんだがね。


 ま、動いてないだろうな。


 ハルクは一年か二年くらい掛けて使えるかどうか見極めてから、とか言っていたし、言えないのも無理もないとは思う。

 いらいらしたケビンの提案で拷問を加え、調達方法を吐かせた。


 やはり想像していた通り仲介業者は居ないようだ。

 満月の日に王都まで行って貧乏人や食い詰め者に金を渡して並ばせる。

 持ってきた木札を倍の値段で買い取っていたらしい。

 このあたりについて確認するためにはそれなりの時間が掛かる。

 来月の一七日まで満月はないのだ。

 その日に王都の神社や貧民が集まっているエリアをうろついて確認が必要だろうということになった。


 どちらにしてもかなり前から金を払っていた皆の分の御札については夫妻の宿であるモゴリート亭に行き部屋を漁ったが、合計で三四万Z分の御札しか発見出来なかった。

 しかもそのうち一〇万Z分はステータスオープンが掛けられるメイリアの記名の御札だった。


 これが決め手となり、合計三〇〇〇万(支払ってから一月《ひとつき》程しか経っていないファルエルガーズたちが払った八〇〇万Zを抜いても二〇〇〇万Z以上がかなり前から支払われている)も受け取っていながらこれっぽっちしか御札がないのは詐欺以外の何物でもないことが判明した。


 騎士団まで使いをやって法務担当にどのような罪に問えるのか確認がなされた。


 すると、やはり詐欺罪であり、しかも准爵である貴族が二人も(ゲクドーとファルエルガーズだ)含まれていることが問題視された。

 これは現行犯で、証言者も多いので確実に罪に問われるだろうとの事だった。

 ついでに、この春に死んだサントスという魔術師の実家に彼が払っていた金が届いていないのであれば、もうどう頑張っても申し開きは出来ないだろう。


 また、過去にあった迷宮内での不意打ち行為などについては不問にせざるを得ないとの答えであった。


 その時の状況など曖昧な点が多いこと、また迷宮内では魔物か人かとっさに見分けがつかない可能性も否定出来ないこと、そもそもパーティーと言っても仲間だと公的に認められている物ではない(勝手に一緒に入っているだけであり、迷宮内で得た財物の分け方で争いになった可能性も否定出来ない)点がその理由だった。


 更に、たとえ被害者に貴族が居たとしても現場を見た貴族の証言者が居ないため、自由民であるハルクだけの証言では恐らく判断が下せないであろうことも不問にせざるを得ない理由であった。


 但し、貴族に対する詐欺罪の罰則は強烈なものだった。

 爵位が一番低い准爵でも鞭打ちが一〇回追加の上、罰金として不動産を含む全ての財産の没収であり、おまけに獄門晒し首だそうだ。

 なお、主犯ではない協力者の二人については裁きが無いと何とも言えないそうだが、恐らく同罪であろうと予想された。


 そのため、現在では容疑者のまま四人は騎士団へと引き渡された。

 その際に所持金の袋についても被害金額以外はびた一文手を付けないままカームは全て手渡していた。

 カームによるとリーダーとして冒険者を続ける上で仲間からの信頼は何より大切なものであり、ここで金に手を付けると信頼は得られない、と言っていた。

 まぁ確かにそうだね。


 なお、後で判ったことだが、リンドベル夫妻は王都に何軒か家も持っていたようだ。普段は人に貸して家賃を取っていたんだろう。


 冒険者を引退する時には、その中でも良い家で過ごすことでも夢見ていたのだろうか。




・・・・・・・・・




 さて、問題は俺だ。


 四人を騎士団に突き出したあと、騎士団の詰め所の門の前、残っている日光《サン・レイ》のメンバー十五人の前でカームに抜けることを言った。


 これは賭けだ。


 でもさ、オーガの魔石を得た時の皆の表情、俺の戦闘力に感心した顔、危機に駆けつけ、見事に救い切った時の涙ぐんだ顔、俺の予想だと……。


 

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ハルクさんがリンドベル夫妻に従順だったのは奴隷だったときの魔術や薬による洗脳が解放奴隷になった後も残っていて「仄めかしサゼッション」の魔術を使われてやっと解けた様に思えるのですが、どう…
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