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男なら一国一城の主を目指さなきゃね  作者: 三度笠
第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第百十九話 返済完了

7445年4月20日


 いつもの様に、夜明け前から皆でランニングをする。

 当然バストラルも一緒だ。


 ボイル亭の前から出発し、外輪山を目指して走る。

 バストラルは一緒に走り始めて既に五ヶ月近く。


 だが、迷宮に行かない日だけなのでいまいち体力が追いついていない。

 最近は急激にレベルアップも果たし、多少ではあろうが実際の能力値も底上げはされている筈だ。

 しかし、やはり皆に追い付く程ではないのだろう。


 とは言え、バストラルは走りやすい服装であるのに対し、他のメンバーは鎧を着たり、更にリュックサックを背負ったりしているのでバストラルが置いて行かれるような事にはなっていない。

 同じ二時間のランニングでもこうしてだんだんと負荷を高めていくことによって、慣れて効果が低下してしまうことを防いでいる。


 そろそろ“奴隷の店 ロンスライル”だ。


「おい、バストラル、歌を歌え。行進曲だ」


「……っ……っは? ……はあぁっ? ……っな、何を」


 こんくらいで息切らしてんじゃねぇよ。


「景気いいやつだ。『普通科の本領』は知ってるか? あ、『歩兵の本領』か」


「……っ……っし、知りません」


 流石に知らないか。


「じゃあお前が知ってそうな……『軍艦行進曲(マーチ)』だ。歌え」


「……っは……はっ……知りません」


「ええっ!? まーもるもせーめるもくぅろがぁねっのぉ~って奴だぞ? 本当に知らないのか?」


「……っあ、曲は知ってます。……っぱ……『パチンコ屋』で……よくかかってる……ような奴ですよね」


「おう、それだ」


「かっ……歌詞までは……し、知りません……ってか『戦艦大和が沈む時』じゃなかったのか……」


 あれ?

 俺の知ってるのは、

“ゴムでもないのに伸び縮み 竹でもないのに節がある 戦争もないのに鉄兜 鉄砲一丁でタマ二つ 息子よどこへ行く青筋立てて 生まれた畑に種まきに”

 って方なんだが、いろいろあるみたいだな。


「っだよ、使えねぇな……じゃあ流石にこれは知ってるだろ、『箱根八里』でいいや、歌え」


「っ……は、はい……歌います!」


『はっこねっのやっまはぁ~ってんかのけん! かんこくかんもぉ~もっのなっらず~……』


 行進曲調の明るいメロディでバストラルは歌い出した。

 突然歌えと言い出した俺のことを気違いでも見るような目つきで見ていた皆もだんだんと唱和してくる。

 昔からランニングの時には声を出すのが日本人の伝統だ。

 学校の部活動でだって掛け声や歌はよく歌わされたものだ。


 ズールーやエンゲラは初めて聞く曲調に意味の分からない歌詞で、一体何事かと思ったようだがリズムに乗って脚を出すと僅かながら気持ちが楽になることに気がついたようだ。


 彼らは単に俺の警護のために付き合い始め、そのうち誰かから体を鍛える意味を聞いたのだろうが、このところは積極的に参加している節も見られる。

 そんな彼らの表情も少し和らいだようだ。


『りょおじゅうかぁたにわぁ~らじがぁ~け、はっちりのい~わねふぅ~みならぁ~す……』


 ランニングの最後尾からちらりとロンスライルの店の二階を見上げる。暗くて判らなかった。


「オラ! 声が小せぇ!」


『……っかぁ~くこぉ~そ、あぁ~るなぁ~れ、とぉ~じのまぁ~すらお~!』


 二番まで歌い切った。


「もう一回!」


「……っは、はいっ!『はっこねっのやっまはぁ~ってんかのけん! ……』


 うむ、歌いながら走るというのは肺活量の増加も見込めるだろうし、いいかも知れん。


 朝っぱらから近所迷惑だって?

 迷惑防止条例なんぞ無いからそんなもの知らん。


 日課のランニングを終え、いい気持ちで汗を流した。

 その後は俺は適当に言い繕って皆とは別れ、外輪山の向こうまで馬で行くと暇にあかせて魔法の修行を行いまくった。

 皆は何をしているのかは知らないが、大方のところ、ファルエルガーズたち絡みのために工作活動でもしているんだろう。


 こうして休日は消費されていった。




・・・・・・・・・




7445年4月22日


 今日からまた迷宮だ。

 今回は二九日までの八日間の迷宮行の日程なので、食料も多めに運んでいる。


「ズールー、昨日一昨日は何してたんだ?」


「奥様に言われたのでマルソーと一緒にバーランクスという酒場に居ました」


「そうか。で、どうだった?」


 ニヤニヤしながら聞いた。


「なんとも言えません。それなりに見られてはいたようです」


「そっか。上手くやれよ。あ、その脚引っ張っておいてくれ」


 ズールーに今倒したばかりのガルガンチュアスパイダーの脚を引っ張って貰い、頭と一体化した胸部にナイフを入れ魔石を回収する。

 ゴブリンやノールのような雑魚は時間が勿体ないので放って置くが、それなりの価値の魔石を持っているオークやホブゴブリン、部屋の主の魔石は回収するのだ。


 三層の転移の水晶棒の小部屋に着き、皆が寝る場所を確保していた。


 すぐに他のメンバーもやって来た。


 荷物が多く疲れているようだ。

 言葉少なに飯を食い、明日は四層と五層を突破しなければならないので、見張りを残して全員早々に寝た。

 



・・・・・・・・・




7445年4月23日


 十四時頃に五層の転移の水晶棒の部屋に着いた。


 もう少し頑張れば一日で四・五・六層を突破できるような気もする。

 六層も二つにパーティーを割ったまま行けるのであれば(奴隷が俺に同行しなければ決して不可能ではないだろうとは思うが、俺一人だと常に全方位に警戒をしなくてはならないので流石にちょっと辛い)七層まで二日で行ける。

 これも俺を抜いた殺戮者スローターズの地力が付いて来れば目指すべきだろう。


 部屋には誰も居なかった。

 俺とエンゲラに遅れること一時間程で全員が揃った。

 寝床は俺が作っていたので、やることは少ない。

 順番に全員がゆっくりとシャワーを浴び、ギベルティが夕餉の支度を始めた。


 今日のメシは何かいね?


 最近ではようやっとバストラルも迷宮に慣れてきたようで、それなりに肉類が豊富な重い食事も供されるようになって来ているのだ。

 どうやら今晩は豚のステーキのようだ。

 全員よだれが垂れそうな顔で肉の焼ける匂いを嗅いでいた。


 五層はアンデッドの層だが、今日一日、四層と五層を通り抜ける過程でとっくに鼻はバカになっている。

 エンゲラとギベルティはそれでもまだ嗅覚を残しているようだが、クサイ匂いを駆逐する豚肉の焼ける香りによって幸せそうな顔だった。


 そう言えば、ギベルティは五層の最初の料理は結構匂いの強いものを選ぶことが多いようだ。

 今日のステーキもニンニクを一緒に炒めている。


 全員でギベルティの料理に舌鼓を打ち、お茶を飲んでいる時だ。


 部屋に冒険者の一団が入ってきた。


 リンドベル夫妻と共に日光サン・レイの一軍と呼べるようなメンバーが合計十人のパーティーだった。


 二人が負傷をしているようだが、【鑑定】したところ重傷ではない。

 勿論、ファルエルガーズたち六人は二軍扱いだろうからここには居ない。


 彼らの方から挨拶をしてきた。


「やぁ、グリードさん。今晩一晩、我々もご一緒させて頂きますよ」


「やぁ、リンドベルさん。どうぞご遠慮なく」


 殺戮者スローターズの使っている場所とは反対側の壁際が彼ら日光サン・レイのこの部屋での定位置だ。


 お茶を飲みつつ雑談をしながら盗み見ると彼らも食事の用意を始めていた。


 俺達の真似をしてコンロの魔道具を据え付けた竈にフライパンを載せている。

 リンドベル夫妻の旦那の方は魔法が使え、水魔法のレベルも四と高いので彼らがいる方の日光サン・レイのパーティーは料理用や飲料水にはあまり困っては居ない筈だが。


 見ていると蕎麦粉を水で薄くといて、クレープを作り始めた。

 蕎麦粉だからガレットか。

 こいつら、ガレット好きだな。

 続いてハムを切り、きゅうりをスライスし始めた。

 きゅうりも好きだよな。

 でも、きゅうりには栄養なんか殆ど無いんだぜ。


「葉っぱ食べないとだめじゃん」


 ラルファが馬鹿にしたように言った。

 勿論、日光サン・レイに聞こえるほど大きな声ではない。


「失礼よ」


 ベルが窘めた。

 尤もだ。わざわざ口に出す事はねぇだろ。


「だって、きゅうりなんて栄養無いんだよ? 知らないの?」


 ラルファが反論した。

 俺と同じことを考えていたのが判るが、そこで口に出すか出さないかで大人と子供は分かれるのだよ。


「ラル、そういう事じゃないわ。ベルは他人の食事に口出しするなと言っているのよ」


 ミヅチもラルファを窘めた。


「それは分かってるよ。けどさ……」


「ラル、もう止めなさい。品の無いことを言ってるのは私にも判るわ」


 エンゲラにまで窘められた。

 因みにトリス、グィネ、ゼノム、ズールーの四人は何か別のことを話しているようだ。

 俺はギベルティに足湯で足先を揉んで貰っている。


「ちぇっ、綾取あやとりも満足に出来ないマルソーにまで言われるとはね」


 少し声のボリュームが大きくなっている。

 因みに綾取りは最近殺戮者(スローターズ)の女性陣で流行っている。

 当たり前の事だがエンゲラが一番下手だ。子供の喧嘩かよ。


「うるせーぞラルファ、黙ってろ!」


 あまり騒ぎが大きくなる前に窘めた。


 ちらりと見ると日光サン・レイも言い争う(?)声に気づいたようでリンドベル夫妻と目があった。

 恥ずかしかったので力ない卑屈な笑みを浮かべて目を逸らした。




・・・・・・・・・




7445年4月24日


 早朝からバストラルを連れ、十人で六層を突破し、また五層の転移の水晶棒の部屋に戻ってきた。

 今度はギベルティを伴ってまたもう一度六層を通り抜けなきゃならん。

 いい加減面倒くさいので、次回辺り強硬に俺一人で突破すると言い張り、残り十人で六層を行かそうかと思った。


「行ったの?」


 ベルがギベルティに確認している。

 日光サン・レイの奴らが六層に行ってここには既にいないのか訊いているんだろう。


「はい、コーロイル様。皆さんが行かれてから一時間後くらいに転移しました。それ以来、ここには誰も来ておりません」


 ギベルティも返事をしながら荷物を背負っている。

 日光サン・レイには負傷者もいた筈だが、大した傷ではないと判断したのだろう。

 怪我をしていたのは一軍でも実力の低めの奴らだったし、仮に失ってもそう痛くはない戦力か?

 それとも、罠にかけて謀殺でも狙っているのか?


「何か言われた?」


 今度はグィネが訊いた。


「いや、特には何も」


 ギベルティは荷物を背負い、キャンプ地を見渡し、忘れ物がないか確認をしている。


「おい、ラルファ、行くぞ」


 部屋をぶらぶらしているラルファに声を掛け、全員で水晶棒を握ったのを確認して、表面に浮き出てていた転移の呪文を唱えた。


「ゲムドヒュ」




・・・・・・・・・




7445年4月29日


「我らを戻せ」


 一層から迷宮の入り口脇の小部屋に転移した。


 小部屋を出ると別の部屋から別の殺戮者スローターズの皆が出てきたところだった。

 俺達は十一人だから戻るときはどうしても二グループに別れるのだ。

 僅か数十秒だけどね。


 後に転移してくるグループが遅かった場合には先に転移した方がすぐに戻り、確認する手はずになっている。

 以前、輝く刃(ブライトブレイド)に迷宮内で奇襲を受けたことがあるだけに、そのあたりは考え過ぎだと皆に笑われようときっちりルール化している。


 だが、迷宮入り口まで戻ればもう安心だ。

 これからは緊張を解し、弛緩が許される時間だ。


 全員で和気藹々と階段を登り、外の空気を吸う。


「ん~っ!」


 外に出たラルファが背筋を伸ばしている。

 バルドゥックの騎士団の若手が警備を担当していた。


「今回はどんな感じでした?」


 質問された。

 これは挨拶みたいないつものセリフだ。


「魔石だけですね。他は?」


日光サン・レイが金鉱石を見つけたそうですよ。結構なシロモノでしたね」


 そう言って騎士は手を広げた。

 直径三〇㎝程もありそうな金鉱石か。

 六層の祭壇の間で得たのだろうか?


 騎士は続けて、


「でも、一人殺られちまったみたいですね」


 と言って来た。

 怪我してた奴の一人かな?


「よし、換金に行くぞ」


 ラルファの後ろ姿に声を掛け、今回の迷宮行で獲得した魔石を買い取って貰うために魔道具屋へと歩き出した。

 今回迷宮内で得たオーガの魔石は八四個。

 往路で倒した一層から五層のモンスターの魔石もオーガのものと同じくらいの価値になるように固めており、そちらはオーガ二匹と半分くらいの価値だ。


 〆て七六五二万Zで販売出来た。

 バストラルの借金は残り六十万Zだったので、それを差っ引いて一六万五〇〇〇Zをバストラルのボーナスとして支給した。


「おめでとう、バストラル。これでお前の借金は全て俺に返し終わった。飯の前に俺の部屋に来い。契約書の借金の項目を消すぞ」


 ぽんぽんとバストラルの肩を叩きながら彼を労った。


「はいっ!」


 バストラルも嬉しそうに返事をしてくる。


 そうやって魔道具屋の店の隅で全員にボーナスを支払っている時だ。

 一人の身なりの良い紳士が俺に声を掛けてきた。


 どっかで見た顔だ。


 どこで会ったけな?

 と思ったがすぐに思い出した。


 このおっさんは王都の一流魔道具屋スプレンダーで昨年俺がラーヴァルパープルウォームの魔石の買い取りを依頼した人だった。


「魔石の仕入れに来てみれば……ご無沙汰しておりますな。グリード様」


「ああ、スプレンダーの……」


 よく俺の名前を覚えてたな……。

 一流店のオーナーは記憶力も一流らしい。


「はい。番頭のフェリッペです。今日もものすごい量の魔石を持ち込まれたようですね」


 オーナーじゃなくて番頭だったのか。

 バルドゥックは近いから仕入れにも番頭が来るんだろう。


「へへっ……。フェリッペさん、彼らが何か?」


 さっきまで俺たちの持ち込んだ魔石を計量し、買い取ってくれたこの魔道具ダンヒルの親爺の山人族ドワーフ、クレード・ダンヒルが揉み手をしながら近づいてきた。


 俺達がこの店を通さずに王都のスプレンダーに卸すことを牽制しに来たのだろう。

 安心しろよ。

 大物や魔法の品(マジック・アイテム)じゃない限り、今後もこの店を使うつもりだよ。


「いえ、ここ数年、ダンヒルさんのところで良い魔石が急激に増えましたからね。たまたま彼らが持ち込んだ時に居合わせたので、これは、と思い、折角なのでご挨拶を、と思いましてね」


 フェリッペも俺たちから直接仕入れを行う気は無いようだ。

 尤も、この時だけの方便かも知れないが。


「ああ、彼らはこのバルドゥックが誇る殺戮者スローターズです。迷宮で出会う魔物を全て倒して魔石を持ってきてくれるんですよ。冒険者の稼ぎ頭ですね」


「ほう! では貴方がグリード商会の会長でしたか」


 このおっさん、よく知ってるな。


「……はい。商会も持っておりますが、私はオーナーですので、店には殆ど居りません。商売のことでしたら番頭のリョーグに任せておりますもので……」


「ああ、私も靴を一足購入させて頂きましたよ。これは履き心地が良いですな」


 足元を見ると確かにグリード商会(ウチ)の物のようだ。

 ゴム底の靴なんぞ、前世だと安物の代名詞なんだが、まさに所変われば、ってやつだな。


「それは、どうも有難うございます。新しいデザインの靴もございますし、メンテナンスも随時承っておりますのでいつでもお越しください」


 昨年末、義姉さんと会った時に聞いたのだが、兄貴はキールで靴屋をやっていた自由民の職人を一人、年収金貨七枚で招聘し、靴を作らせている。

 彼に農奴の子供を二人弟子入りさせ、製靴技術も学ばせているらしい。

 少しでも沢山売らなきゃな。


「おい、親爺! 魔石の買い取りだ! ちゃっちゃとやってくんな!」


 また新たな冒険者の一団が店にやってきた。

 店が狭くて全員入りきらない。

 いいタイミングだったのでフェリッペに挨拶をして店を出ることにした。


「ふん、これっぽっちか……」


 ダンヒルの親爺も冒険者から出された魔石を受け取り、秤に載せている。


「あんなちっちゃい魔石で喜んでる、かわいー」


 ラルファが冒険者達に聞こえるようにからかっている。

 ま、こいつはこういう奴だよ。


「ちょっとラル、やめなよ」


 グィネも窘めているが、冒険者たちが持ってきた魔石は複数を固め、一つにしてあるが、価値は七五〇〇〇をちょっと超えるくらいだ。

 買取額で五〇万Z強だろう。

 どのくらいの期間、迷宮に居たのかは知らんが平均的な冒険者と考えれば十分以上の稼ぎだとも言える。


「可愛いだと!? けっ、冒険者の本当の稼ぎも知らん娘っ子か。当然他にも稼いでるさ」


 あーあ、反応されちゃった。

 他にもって、その錆の浮いた剣とか槍の穂先か。

 合計して一〇万Zになるかならないかだ。

 俺たちなら荷物になるからゴミとして回収なんかしないような品物だ。


「あら、一流冒険者だったのね。これは存じ上げませんで、失礼しました」


 大仰に頭を下げ冒険者を挑発するラルファ。

 最近喧嘩してないからストレスが溜まってるんだろうか?


「っだと、コラ! 俺たちを侮ると痛い目見るぜ! 泣く子も黙る蛇の目(スネーク・アイ)一家とは俺たちのことよ!」


 冒険者たちは俺たちが殺戮者スローターズだとは知らなかったらしい。

 新顔ニュービーなのだろう。


 こっちからいらん挑発をしたのは事実だし、その点についてちょっと引け目を感じるが、世の中実力が全て、金を稼げる奴が偉いのだ。

 お前さんたちも冒険者を名乗り、迷宮に挑むのであれば解ってるはずだ。

 そもそも一家とかヤクザもんみたいな自称するなら安い挑発に乗るなっちゅーねん。


 ため息を一つ吐き、仲裁しようと身を乗り出した。


「店ん中でよしてくれ! どうせお前さんとこに勝てる奴らはこの街には居らんから何を言ってもいいが、いつまでもガキみたいな事言ってないでちったぁ成長しろ。それから坊主ども、相手を見て喋れ、こいつらは殺戮者スローターズだぞ」


 俺が何か言う前にラルファがドワーフの親爺にどやしつけられ、店から放り出された。

 皆、苦笑いを浮かべている。


 ゼノムが無言でラルファのケツを引っ叩いた。

 お二人共、お疲れさん。




・・・・・・・・・




 宿に戻る前に行政府に寄り、預けておいたバストラルの契約書を引っ張り出してから宿に戻った。


 俺の部屋で俺の持つ契約書、バストラルの持つ契約書、行政府のロッカーに預けていた契約書の三通の借金天引きの項目に線を引いて消し、その上に魔石を利用した拇印を捺印する。


「これで完全に借金は無くなった。今後の報酬はお前の好きな様に使え」


 喜びを噛みしめるバストラルを放っておいてシャワー室に向かうと使用中だった。

 仕方ないので待つしかないが、出てきたのはボイル亭に泊まっていた全然関係ない人だったので文句も言えなかった。


 シャワーを浴び皆で食事に行った。


 借金を返し終わり、綺麗な体になったバストラルを全員で祝福し、酒杯を重ねる。

 明日から連休だし、この八日間俺たちも一生懸命働いていたのだ。


「俺は明日からまた王都の商会に行く。後のことは宜しくな」


 肉野菜炒めを食いながら皆に言う。

 皆頷いてくれた。


 そう、今回は俺一人でミラ師匠のところに行くのだ。

 その時、店に知った顔が入ってきた。

 日光の二軍のリーダー、ビーンことビーンスコール・ゼミュネルといつだったか助けてやったジンジャー、ヴァージニア・ニューマン。

 それに、妹の死体を運んでやったビンノード・ゲクドー、ハルケイン・フーミズの四人だ。


 ちらりとそちらを覗った俺たちに目礼をしてきた彼らは、俺たちから少し離れたテーブルに着いた。

 幸先いいな。

 ってかそのためにこの店を選んだんだがね。

 少し日光サン・レイとは話をしたかったんだ。


「やぁ、ビーンさん。なんでも新しいメンバーが加入したそうで……」


 ビールの入ったジョッキを持って日光サン・レイの四人のテーブルの脇に腰を下ろした。


「やぁ、グリードさん。耳が早いですね。お陰でウチも完全に二パーティー体制になりましたよ」


 ゼミュネルが笑いながら返事をした。

 昨日か今日かは知らないが日光サン・レイも金鉱石を発見したばかりらしい。


「でも、サントスが帰ってこなかった……」


 ニューマンが沈んだ声で言った。サントスと言うのは怪我をしていた奴の一人だ。


「それは……残念でしたね」


 そう言ってビールを一口飲んだ。


「止せ、サントスは無謀だっただけらしいじゃないか。俺たちは無理せず四層で鉱石を探せばいい」


 ゼミュネルがニューマンを窘めた。


「ちょっと、何だって!? もう一度言ってみな!」


 殺戮者スローターズのテーブルから突然ミヅチの叫び声が上がった。


「何度だって言うよ! あんたなんかアルの尻尾に付いてるだけの金魚の糞じゃない!」


 ラルファが負けじと言い返す。


「あっ! す、すみません。失礼します! おい! お前ら!」


 俺は慌てて殺戮者スローターズのテーブルに取って返す。

 さっさとなだめなきゃな。


 

8月9日から8月17日までお盆休みで帰省しており、通常の更新ペースではありません。


また、頂いたご感想は全て拝読させていただいております。

大変失礼ですがお返事は活動報告の方でさせていただいています。

たまに活動報告の方にも目を通していただけると幸いです。


主人公パーティーのステータス置いときます。


【アレイン・グリード/5/3/7429 】

【男性/14/2/7428・普人族・グリード士爵家次男】

【状態:良好】

【年齢:17歳】

【レベル:25】

【HP:206(206) MP:7447(7447) 】

【筋力:33】

【俊敏:48】

【器用:31】

【耐久:34】

【固有技能:鑑定(MAX)】

【固有技能:天稟の才(MAX)】

【特殊技能:地魔法(MAX)】

【特殊技能:水魔法(MAX)】

【特殊技能:火魔法(MAX)】

【特殊技能:風魔法(MAX)】

【特殊技能:無魔法(MAX)】

【経験:2146471(2200000)】

※七層に行き、オーガを殺し始めてから急激に経験が伸びています。主人公に限った話ではありませんけど。


【ミヅェーリット・チズマグロル/5/3/7441 】

【女性/14/2/7428・闇精人族・ライル王国平民ライラック

【状態:良好】

【年齢:17歳】

【レベル:16】

【HP:149(149) MP:263(263) 】

【筋力:22】

【俊敏:36】

【器用:25】

【耐久:24】

【固有技能:部隊編成パーティゼーション(Lv.8)】

【特殊技能:赤外線視力インフラビジョン

【特殊技能:傾斜感知インクリネーションセンシング

【特殊技能:地魔法(Lv.5)】

【特殊技能:水魔法(Lv.5)】

【特殊技能:火魔法(Lv.5)】

【特殊技能:風魔法(Lv.5)】

【特殊技能:無魔法(Lv.6)】

【経験:589141(680000)】

※バルドゥックに来てから碌に怪我をしていないため、HP上昇分の代わりに俊敏と耐久が上がり気味です。固有技能は休日にMPが余った時、思い出したように使っています。魔法は元々仕込まれていたこともあり、かなり習熟しています。


【ゼノム・ファイアフリード/5/4/7416】

【男性/19/1/7402・山人族・ファイアフリード家当主】

【年齢:43歳】

【レベル:20】

【HP:132(132) MP:9(9)】

【筋力:27】

【俊敏:10】

【器用:29】

【耐久:24】

【特殊技能:赤外線視力インフラビジョン

【特殊技能:小魔法】

【経験:1175862(1260000)】

※加齢により能力値が減少している部分もあります。ミヅチの固有技能のお陰もあり、また、常に先頭に立っているため必然的に攻撃を躱す機会も多く、経験値も多くなっています。怪我もしますがすぐに魔法で治療されるためHPの減少にはあまり頓着していない模様です。


【ラルファ・ファイアフリード/25/12/7429】

【女性/14/2/7428・普人族・ファイアフリード家長女】

【状態:良好】

【年齢:17歳】

【レベル:17】

【HP:159(159) MP:25(25) 】

【筋力:23】

【俊敏:29】

【器用:26】

【耐久:25】

【固有技能:空間把握(Lv.8)】

【特殊技能:地魔法(Lv.3)】

【特殊技能:火魔法(Lv.4)】

【特殊技能:無魔法(Lv.4)】

【経験:698632(810000)】

※ラルファは7レベルまでレベルアップ時のボーナスはMPに入らなかった代わりに能力値やHPがちょっと高いです。固有技能は迷宮探索時に一回だけ使い、魔法に重点を置いてMPを消費しています。ミヅチの固有技能の恩恵はありませんが、通常の前衛としてゼノムに次ぐ実力があるためそれなりに経験値は多く稼いでいます。


【ベルナデット・コーロイル/4/4/7429】

【女性/14/2/7428・兎人族・コーロイル準男爵家次女】

【状態:良好】

【年齢:17歳】

【レベル:16】

【HP:146(146) MP:91(91) 】

【筋力:21】

【俊敏:31】

【器用:22】

【耐久:21】

【固有技能:射撃感覚(MAX)】

【特殊技能:超聴覚】

【特殊技能:地魔法(Lv.4)】

【特殊技能:水魔法(Lv.4)】

【特殊技能:火魔法(Lv.4)】

【特殊技能:無魔法(Lv.5)】

【経験:662623(680000)】

※ベルは最初のレベルアップ時にアル同様にMPがそこそこ増えた設定です。種族の性質と相まって能力値はちょっと低いです。弓での戦闘が主体のため攻撃を防御したり躱したりする機会はあまり多くありませんが、ダメージは多めに与えています。ミヅチの固有技能のお陰も少しあるでしょう。


【トルケリス・カロスタラン/13/5/7429】

【男性/14/2/7428・精人族・カロスタラン士爵家三男】

【状態:良好】

【年齢:17歳】

【レベル:16】

【HP:150(150) MP:50(50) 】

【筋力:22】

【俊敏:29】

【器用:25】

【耐久:23】

【固有技能:秤(MAX)】

【特殊技能:赤外線視力インフラビジョン

【特殊技能:地魔法(Lv.3)】

【特殊技能:水魔法(Lv.3)】

【特殊技能:風魔法(Lv.3)】

【特殊技能:無魔法(Lv.4)】

【経験:626925(680000)】

※頑張ってます。


【グリネール・アクダム/2/7/7429】

【女性/14/2/7428・山人族・ロンベルト王国ロンベルト公爵領登録自由民】

【状態:良好】

【年齢:17歳】

【レベル:16】

【HP:159(159) MP:33(33) 】

【筋力:27】

【俊敏:19】

【器用:31】

【耐久:27】

【固有技能:地形記憶マッピング(MAX)】

【特殊技能:赤外線視力インフラビジョン

【特殊技能:火魔法(Lv.3)】

【特殊技能:風魔法(Lv.2)】

【特殊技能:無魔法(Lv.3)】

【経験:578456(680000)】

※通常より性能の良い魔法の槍を手に入れたことで同じ一撃でもより大きなダメージを与えられるため、少し経験値効率が良いようです。ミヅチの固有技能のお陰も少しあるでしょう。


【サージェス・バストラル/13/12/7444 サージェス・バストラル/4/7/7429】

【男性/14/2/7428・猫人族・ロンベルト王国ロンベルト公爵領登録自由民】

【状態:良好】

【年齢:17歳】

【レベル:11】

【HP:121(121) MP:13(13) 】

【筋力:17】

【俊敏:25】

【器用:18】

【耐久:18】

【固有技能:耐性(熱)(Lv.2)】

【特殊技能:小魔法】

【特殊技能:無魔法(Lv.0)】

【特殊技能:夜目ナイトビジョン

【経験:156546(210000)】

※魔法を覚え始めました。固有技能はバストラル本人から効果を聞いた主人公が時間のあるときに少量の極低温の氷(マイナス百度とか)を出して訓練させていますが、魔力がもったいないので基本的には魔法の訓練にMPを消費しています。また、優先的に経験を得られるように気を使われていますが、上層のモンスターからは氷漬けにするなど効率よく経験を得られますが、オーガなんかはある程度弱らせてからでないとバストラルには危険なのでダメージを与えさせていません。また、受動使用パッシブタイプの固有技能もレベルが上がっているので主人公に鑑定できるようになっており、能力も把握されています。


【ダディノ・ズールー/3/6/7442 ダディノ・ズールー/20/7/7422】

【男性/24/5/7421・獅人族・グリード士爵家所有奴隷】

【状態:良好】

【年齢:24歳】

【レベル:17】

【HP:157(157) MP:5(5) 】

【筋力:29】

【俊敏:26】

【器用:15】

【耐久:25】

【特殊技能:小魔法】

【特殊技能:瞬発】

【特殊技能:夜目ナイトビジョン

【経験:783885(810000)】

※もう少しで誕生日です。怪我もしますがすぐに魔法で治療されるためHPの減少にはあまり頓着していない模様です。主人公やミヅチの警護として同行し、休日でも積極的に迷宮で経験を積んでいます。


【マルソー・エンゲラ/15/8/7442 マルソー・エンゲラ/12/8/7422】

【女性/14/9/7422・犬人族・グリード士爵家所有奴隷】

【状態:良好】

【年齢:24歳】

【レベル:17】

【HP:134(134) MP:5(5) 】

【筋力:20】

【俊敏:28】

【器用:15】

【耐久:21】

【特殊技能:小魔法】

【特殊技能:超嗅覚】

【経験:753492(810000)】

※怪我もしますがすぐに魔法で治療されるためHPの減少にはあまり頓着していない模様です。主人公やミヅチの警護として同行し、休日でも積極的に迷宮で経験を積んでいます。


【ローレンス・ギベルティ/5/5/7444 ローレンス・ギベルティ/23/10/7419】

【男性/1/9/7418・犬人族・グリード士爵家所有奴隷】

【状態:良好】

【年齢:27歳】

【レベル:4】

【HP:107(107) MP:6(6) 】

【筋力:16】

【俊敏:18】

【器用:10】

【耐久:15】

【特殊技能:小魔法】

【特殊技能:超嗅覚】

【経験:17712(18000)】

荷運び(ポーター)の仕事自体は大工時代と経験値効率はあんまり変わりませんが、迷宮往路で魔石採取時にネガティブHPの魔物にトドメを刺したりしたようです。

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