盗み対策
「あの、ギルドマスター。皆さん、報奨金とかは持ち歩いているのですか?」
「まさか、ギルドカードを提示すれば、ギルドが預かる」
「そんな事ができるのですね」
「あぁ、それに利息もつくぞ」
「どの程度ですか?」
「それほど良くはない。年に1%程度だ」
「なぜ利息が?」
「王国の債券や、有力商会などが発行する債券に、ギルドが投資して運用しているからな」
「なるほど。ちなみに、王国の債券や有力商会などが発行する債券は、規模の大きい所に限定されるのですか?」
「そうだな。
まとまった額の投資であれば、個人も受け付けてくれるだろうが……、
1000Gくらいからかな」
「なるほど、じゃあ貴族の方とか、かなりのお金持ちでないと、なかなか難しそうですね」
「そうだな。ギルドに金を預けるのは、皆基本的には盗まれないようにするための対策だよ。それに事故などで亡くなった時には、遺族に支払われるからな」
「かなりシステムが整っているのですね」
「あぁ」
「引き出しはいつでもできるのですか?」
「100Gくらいなら、何時でもできるが、それ以上となると、数日待ってもらう事もある。債券に投資しているから、現金で用意しているわけじゃないからな。他で用立てないといけないし」
「そりゃ、そうですよね」
「ただ冒険者ギルドは、色んな支店があるし、巨大な組織だから、基本大丈夫だけどな」
「じゃあ、今回の報奨金は預ける事にします」
「おぉ、そうか。それが良いな。そのように手配しよう」
「あと、できるだけ目立たないようにしたいのですが……」
「目立たないようにしたい?
変わった奴だな。
まぁ良い。
黙っとく訳にはいかないが、あまり騒がないようにしておくよ。
お前らも、あまり騒がないようにな」
「はい」
護衛は答えた。
「ありがとうございます」
「じゃあ手続きを取るぞ」
「はい」
ギルドマスターは、約束通り、騒がず淡々と処理してくれた。
俺は念のために、現金も1Gだけ持ち、他は全部ギルドに預ける事にした。
「なんで、目立たないようにしたいのですか?」
受付嬢は聞いてきた。
「静かに暮らしたいんです」
「なるほど。わかりました。私もできるだけ騒がないように、静かに処理しますね」
そう約束してくれた。
俺は、ホークの店に向かう。
店はいつものように賑やかだった。
カウンターに座る。
「定食を」
「あいよ」
ホークがそう言った瞬間。
手足が震え、涙が出てきた。
息が苦しい。
「おい。どうした」
「ちょっと緊張がきたんだと思います」
ホークは目を細めた。
「ずいぶんな戦いだったんだろうな」
「多分……」
「いいぞ。よくやった。
無理に吸おうとするな。
まず細く吐け。
今の感じを感じ切れ。
意味はつけるな。
体感する不快感を感じ切るだけでいい」
俺はホークに従う。
吸おうとすると、胸の奥で息がつかえた。
それでも細く吐き続けると、震えが指先へ移っていった。
そうして、徐々に落ち着いてきた。
「も、もう大丈夫です」
「無理するな。あとしばらく、不快感を感じきれ。その後、定食出すから」
ホークはそう言った。
俺はしばらく、呼吸を続け、
感じ切っているうちに、少しずつ呼吸が戻った。
ホークは心配そうに、俺を覗き込む。
「もう大丈夫そうだな」
ホークは定食を出してくれた。
「いただきます」
「おう。お帰りな」
「ただいま」
サラリーマン時代、ずっと俺は孤独だった。
おひとりさまだったし、それが良いと思っていた。
でも「お帰り」というホークの言葉は、とても暖かかった。
おひとりさまでも、帰る場所があっても良いんだ。
そう思えた。
俺は、食事を終え、相部屋に戻った。
洗面器に湯をもらい、体を拭く。
心なしか、以前にない視線を感じる。
視線の方向を見ると、誰も見ていない。
気のせいだと思うことにした。
とはいえ、こん棒だけは手の届く場所に置いて眠った。
……
襲撃される可能性も考えたが、
その日は何もなかった。
もともと、金を持ってなさそうな格好だ。
襲っても、金が取れなかったら、リスクだけが高くなる。
だから襲わなかったのか。
それとも、ゴブリンナイトを倒すくらいだから、
実は強いのかもと思われているのか。
まぁとりあえず、相部屋にいる間は、質素にしておこう。
「セルさん。おはようございます。今日はどうされます?」
「ゴブリンの残党がいるかもしれないので、森を探索してみます」
「ありがとうございます。残党って基本的に臆病もしくは、狡猾な個体が多いので、慎重になさってください。茂みや巣穴とかに隠れている可能性が高いです」
「わかりました。注意して探します」
俺は森に再び向かう。
昨日とはまた少し様子が違う。
ゴブリンの気配は、ほとんどしない。
あるのは、ゴブリンの骨ばかり。
俺はゴブリンの骨の中に、骸骨の形をした金の指輪を見つけた。
俺は、人骨ではないか、誰かが殺された跡ではないかと、慎重に観察した。
しかし、間違いなくゴブリンだった。
「あとで鑑定してもらおう」
俺は更に散策する。
遠くにゴブリンの姿を見つけた。
俺は投石器を構え、投げつける。
(びゅーん)
ゴブリンの頭に当たり、ゴブリンは倒れる。
俺は周りに注意しつつ、ゴブリンに近づき、
喉にナイフを入れ、確実にしとめる。
気持ち悪さは残っていたが、以前のように身体へ貼り付くことはなかった。
耳を切り、袋に入れる。
今日は戻ろう。
俺は戻ることにした。
途中で投石の練習をし、
近くの河原でボーっとした。
ずいぶん時間がある。
どうしよう。
俺は考えた。
釣り……、
この世界に釣具はあるのか?
「なぁミル。釣り具ってあるか?」
「道具屋に売ってるんじゃねぇか」
そうか、釣り具はあるのか。
しかしな。
釣りをしても、川魚を食う気しないな。
食べない魚を釣るのは、ただ傷つけるだけではないか。
キャッチ&リリースしても。
魚にとって人間の手はかなり熱く、触るだけでも負担になると聞いたことがある。
魚もダメージを受けるだろうし、食わないのに殺生するのもな……。




