ゴブリンナイト
「ちなみにどのくらいの報酬ですか?」
「200Gです。上位種がいると、すぐに群れが形成されますから。報告し、それが真実であれば、報告者に20Gが支払われます」
「たとえば偶然出くわして倒したパーティとかがあれば?」
「その場合200Gですね。先ほども言いましたが、上位種がいると、すぐに群れが形成されますから、優先討伐対象になるんです」
「ゴブリン退治は不人気ですが、その上位種だと?」
「一気に人気が出ます」
「ゴブリンの群れって、必ず上位種がいるものですか?」
「それがそうでもないのですよ。ゴブリンの上位種が、しばらくその群れを統治し、部下に任せて、他に移ることもありますから」
「その部下は上位種にはならないのですか?」
「管理だけはゴブリンでもできます。上位種は群れの初動の核になるものなので」
なるほど。
経営者は自ら会社を興すが、支店長などは管理するだけ。
そういう感じか……。
俺は一抹の不安を感じた。
うちの森に上位種がいた場合。
美味しいところどりで、
ほかの冒険者に狙われるのでは?
そう思ったが、人を疑うのは良くない。
俺はそれ以上考えないことにした。
翌朝、
朝から何か胸騒ぎがする。
俺は森に向かう。
なにか様子が変だ。
森から逃げ出す者がいる。
なんだ……、
あれは冒険者ギルドで見たことがある連中……。
「どうしました?」
声をかけるが、横目で見ただけで走り去っていった。
何かがオカシイ。
服装は汚れ乱れ、
血痕のようなものがついていた。
おまけに、
武器も持っていない。
「どう考えてもヤバイぞ」
ミルの声がする。
「そうだな」
俺は投石器を持つ。
木の陰に隠れ、様子をうかがう。
巨大な何かが動いている。
(うぉー)
圧のある声が響く。
鳥や獣たちが、森から一斉に逃げ出した。
すると大きなゴブリンの姿を発見した。
ゴブリンは、村へ一歩一歩と歩き出す。
歩みはゆっくりだが、威圧感がある。
これはまずい。
このままだと……。
村人たちの顔が脳裏に浮かぶ。
「おい!逃げるぞ」
ミルは叫ぶ。
「ダメだ。このままでは逃げられない」
「どうするつもりだ」
「おそらく、あの冒険者達はギルドに報告する。そして討伐クエストが組まれ、冒険者達がやってくるだろう。でも、その間に、村は……」
「だろうな。しかし救う義理はねぇぞ」
「一食一パンの恩義だ」
「意味が違うだろ。一宿一飯だろ」
「どっちでもおんなじだ。行くぞ」
「ちょっと待て」
「なんだ」
「冷静に考えろ」
「止めてるのか?」
「止めてはない。そこから攻撃するのが最善か?」
「いや……、村と逆方向から、攻撃する」
「そうだな」
俺は、村と逆方向に移動する。
ゴブリンの後ろ側だ。
よく見ると全身傷だらけだ。
しかもふらふらしている。
十分に距離を取り、
俺は投石器に祈りを込める。
「当たれ!」
(びゅーん)
石は真っ直ぐに飛んでいく。
石は頭に当たった。
少しゴブリンがふらつき、
しかし、そのまま、村へと歩いて行く。
効いてない。
もう一発か……。
(びゅーん)
ゴブリンは身を屈め、石は村に向かって飛んでいき、村の手前で落ちた。
「しまった。避けられた」
「いや……違う。様子がおかしい。ゴブリンは動かないぞ」
俺はこん棒を持ち、ゆっくりと近づいて行く。
大きなゴブリンは気を失っているようだ。
俺はナイフを手に持ち、ゴブリンの首すじに入れ込む。
緑色の体液が流れ、しばらくして、生命の気配が消えた。
俺は、耳を切り取り、装備品を外す。
喜びも、震えも、何の感情もわかなかった。
「大丈夫か?」
「ケンチャナヨ」
「はっ?」
「いや……、大丈夫だ」
思わず、韓国語が出てしまった。
韓ドラにハマった過去が……。
「行こうか……」
「村に伝えに行かなくて良いのか?」
「村人が知れば安心より先に恐怖が広がる」
「そうだな」
ミルは口を閉じた。
俺は荷物を持ち、街に戻る。
ギルドは騒然としていた。
「よかった。セルさん。あの森にゴブリンナイトが出たんですよ。今から討伐クエストが出ます。セルさんは大人しくしておいてください」
受付嬢は言った。
「はい。今日は、コレを」
「今日も討伐クエストに行かれてたんですか。怪我はしませんでした?」
「はい。大丈夫です」
「ずいぶん大きな耳ですね。
それに装備品……、
えっ……、
これゴブリンナイトじゃない? ちょっと待ってくださいね」
「ギルドマスター」
「なんだなんだ? うん? これゴブリンナイトじゃない? おい……セルだっけか」
「はい。セルです」
「これゴブリンナイトじゃない?」
「わかりませんが、巨大なゴブリンで、装備品も買い取って貰おうと、持ってきました」
「よし見せてくれ。これは間違いないな。ゴブリンナイトだ。一応死体を確認しに行く。案内してくれるか?」
「はい。もちろん」
「おい! お前らゴブリンナイトの討伐は一旦棚上げだ。討伐されたかもしれない。確認が終わるまで待ってくれ。今のところ八割方は、ゴブリンナイトで決定だ」
冒険者ギルドは、騒然となった。
「あいつ……ソロだろ」
「ゴブリンを、チマチマ狩ってるチンケな野郎だ」
「どうせ、汚い手でも使ったんだろ」
「一気に200Gか、娼館で豪遊できるな」
「ははは、お前じゃないんだよ。あんな坊や、娼館なんか行くわけねぇだろ」
ひどい言われようだな。
俺は目を落とす。
「行くぞセル!」
ギルドマスターは背中を叩いた。
「はい」
俺はギルドマスターと護衛二人を連れ、現場に向かう。
大きなゴブリンの死体の周りには、獣達が集まり、喰っていた。
ギルドマスターが、大型の剣をふんっと振ると、獣達は去っていった。
「間違いないな。ゴブリンナイトだ」
「これはどう見分けるんですか?」
「あぁ……、これはな。第一発見者が名付けるんだ」
「そうなんですか。もしかして、ゴブリンナイトでも、キングでも、報奨金は同じとか?」
「あぁ……そうだ。じゃあ行くぞ。報奨金を渡す」
「はい」
俺達は街に向かう。




