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ハズレ魔物たちの気ままな楽園づくり 〜勇者パーティーを追放された従魔たちを保護したら、神話級に覚醒しました〜  作者: 比津磁界


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第7話 活気あふれる異世界の街

石畳を踏みしめるブーツの底から、硬く均質な感触が伝わってくる。


「ようこそ、交易都市ファルデルへ!」


先頭を歩いていたミリアさんが、振り返って両手を開いた。


「お邪魔します」


俺が軽く頭を下げて足を踏み入れると、そこには活気あふれる異世界の日常が広がっていた。

メインストリートの両脇には、重厚な石造りの建物と、温かみのある木造の家屋がパッチワークのように入り混じって立ち並んでいる。

ふと見上げれば、家と家の間の狭い路地にはロープが張られ、色とりどりの洗濯物が気持ちよさそうに風に揺れていた。

大通りの縁には色鮮やかなキャンバス生地のテントが軒を連ね、香辛料をまぶした串焼きや、見たこともない奇妙な形の果物が山積みになっている。

すれ違う荷馬車を引いているのは、筋骨隆々の馬たち。

だが、手綱を握る御者は長い耳を持ったエルフだったり、背中に戦斧を背負ったドワーフだったりする。


「……凄いな。かなり活気のある街ですね」


「ここは大きな街道が近いからな。商人も冒険者も多くて、結構賑わってるんだ」


俺の言葉に、ガランが誇らしげに胸を張る。


「それに、街の連中も冒険者も、良い奴らが多くてな。自然と人が集まってくるのさ」


彼の言う通り、行き交う人々の表情は明るく、どこか生活の匂いがする。

ファンタジー特有の光景に目を奪われる一方で、どうしても俺の職業病が顔を出した。

(……中世風の街並みに見えるが、インフラのレベルが高いな)

足元の石畳は完璧に水平が取られ、馬車が頻繁に通るメインストリートにもかかわらずわだちや水溜まりがない。

道の両端の排水溝は、水が滞留しないよう絶妙なスロープが計算されている。

木造建築の基礎部分も、湿気対策で高く積まれた石組みだ。

土木や環境整備のプロとして、その精巧な仕事ぶりに舌を巻く。


ふと、周囲から注がれる視線の多さに気がついた。


「なぁハシ姉。さっきから、すげぇ見られてる気がするんだが」

「あら、皆アタシの美貌に夢中なのね♡」


我が道を行くハシ姉は、周囲の怯えた視線をポジティブに解釈し、オネェ全開のモデル歩きで大通りを闊歩している。


「はははっ! そりゃあ、見ない服装の人間と、俺たちですら見たことない魔物が歩いてりゃ、皆見るさ。当たり前だよ!」


ガランが腹を抱えて笑い飛ばす。

そんな会話を交わしながら進むと、街の中央付近に、剣と盾の意匠が掲げられた巨大な木造建築が見えてきた。


「あ、着きましたよ。ここが冒険者ギルドです!」


ミリアさんが、重厚なオーク材の扉を押し開ける。


――ドワッ。

熱気が、物理的な圧力となって押し寄せてきた。

ツンとする酒気、獣の脂、そしてむせ返るような汗と鉄の匂い。

薄暗い広大なホールには、昼間からジョッキを傾ける者や、依頼の張り紙を睨みつける荒くれ者たちがひしめき合っていた。


だが、キャンバス生地の作業着の男と、巨大な怪鳥が足を踏み入れた瞬間。

ザワ……ッと、ホールの騒騒しさが嘘のように消え去る。


『なんだ、あの見慣れねぇ服の男……』

『それより、あのデカい鳥を見ろよ。何だあの歩き方……』

『やべっ、こっち睨んだぞ。目を合わせんな』


刺さるような数百の警戒の視線。

一触即発の空気が流れかけた、その時だった。


「おい、お前ら失礼なこと言うなよ!」


静まり返ったホールに、ガランのよく通る声が響いた。


「この二人は、森でマッドボアに襲われていたミリアちゃんを助けてくれた、俺たちの恩人だぞ!」


その言葉が落ちた瞬間。


『なっ!? ミリアちゃんを!?』

『マジかよ! 兄ちゃん、ミリアちゃんを助けてくれたのか! ありがとな!』

『さっきは変な目で見ちまってごめんな! この街には初めて来たのか!?』


荒くれ者たちの態度が、手のひらを返したように一変した。

誰も彼もが満面の笑みを浮かべ、口々に感謝と歓迎の言葉を投げかけてくる。


「兄ちゃん、やるじゃねえか! 今度一杯奢るぜ!」

「ははっ、お手柔らかに頼みますよ」

「その怪鳥も兄ちゃんが手懐けたのか!? デカくてかっけえな!」

「あら、見る目があるじゃないの♡」

「お、おうっ!?」


色めき立つ冒険者たちに、俺とハシ姉も気さくに言葉を返す。

どうやらミリアさんは、このギルドのアイドル的存在らしい。

悪い人間はいないというガランの言葉は、本当だったようだ。


「こらこら、通路を塞がないの!」


カウンターの奥から、ベテランの女性職員がパンパンと手を叩いた。


「ミリア、素材回収等の手続きがあるでしょう。彼らを奥の応接室へご案内して」

『おっ、兄ちゃんまだ登録前だったのか!』

『行っこい行っこい!』

『いってらっしゃーい!』


陽気な冒険者たちに見送られながら、俺たちはギルドの奥へと進む。

通されたのは、革張りのソファが置かれた静かな応接室だった。


「まずはツムグ様のギルド登録ですね。冒険者ギルドは、依頼主と冒険者を繋ぐ単なる仲介、魔物素材の適正価格での買い取り、周辺地域の治安維持、そして冒険者同士の互助組織としての役割を担っています」


ミリアさんが羊皮紙をテーブルに広げ、ハキハキと説明を始める。


「ランクは初心者であるGから、国を揺るがす力を持つSまで存在します。まずは街中の雑用や近郊の薬草採取などを行うGランクからスタートし、依頼の達成度と貢献度に応じて昇格していくシステムです。ギルドカードは、他国でも通用する強力な身分証にもなりますよ」

「なるほど。かなりしっかりした組織なんだな」


差し出された羊皮紙。

ミミズが這ったような異世界の文字が並んでいるが――チリッ。右目の奥が微かに熱を持った瞬間。

文字が日本語に翻訳されるのではなく、その『意味』そのものが、概念としてスッと脳内に直接理解できるようになった。


(読めるぞ……。)


備え付けのペンで、スラスラと項目を埋める。

それを受け取ったミリアさんが、少し言いにくそうに切り出した。


「あの……ハシ姉さんが街を自由に歩くためには、ツムグ様の『従魔(使い魔)』としてギルドに登録していただく必要があるんです。登録証がないと、討伐対象の魔物として自警団に攻撃されてしまう恐れがありまして……」

「従魔、ですか」


俺は少し困って、ハシ姉の顔を見上げた。


「……名目上とはいえ、こいつを従えるってのはちょっと抵抗があります。どっちかっていうと対等な相棒だし、首輪をつけるみたいで嫌なんですが」

「ツムグ……」


ハシ姉が、少し嬉しそうに目を細める。

だが、街のルールなら仕方ない。

俺が「書類上だけなら」と渋々頷くと、ハシ姉本人は長い首を伸ばしてテーブルに身を乗り出してきた。


「いいじゃない、称号なんてただの飾りよ! ねぇミリアちゃん、特記事項には『絶世の美女』ってデカデカと書いておいてちょうだいね♡」

「あ、はい……善処します。……あの、ちなみに性別はどちらでしょうか?」


ミリアさんがペンを構えながら尋ねる。


「メスと言いたいところだけど、生えてるのよねぇ」

「ぶっ」


(やっぱり、そっちなんだな……!)


悪びれもなく少しばかりの下ネタをぶち込んできたオネェ鳥に、俺は思わず吹き出しそうになった。

ミリアさんは「生えている」という言葉にだいぶ想像を巡らせてしまったのか、顔をボフッと真っ赤にしている。


「じゃ、じゃあ……オス?にしておきますね……!」


ノリ良く合わせてくれたミリアさんの手によって、俺の銅色のギルドカードと、ハシ姉の『従魔タグ』が無事に発行された。


続いて、ギルドの専門の査定係が呼ばれ、ガランたちのアイテムボックスから素材が出された。

ゴブリンの魔石、マッドボアの巨大な牙、毛皮、そして極上の赤身肉。


「総額で……金貨3枚と銀貨5枚ですね」


査定係が、ジャラリとテーブルの上に硬貨を並べる。

ガランたちの話によれば、これで一ヶ月は余裕で遊んで暮らせる大金らしい。


「よし。ガランさん、異世界に来たばかりで流石に一文無しはキツいんで、このお金は俺が全額もらってもいいですか?」

「あ? 当たり前だろ! あのボアを倒したのはお前たちだ、俺たちは何もしてねぇ」

「ありがとうございます。その代わりと言っちゃなんですが……」


俺はテーブルの上に積まれたマッドボアの赤身肉から、特にサシが入った極上の部位を切り分けた。


「護衛と解体の手間賃です。この肉、皆さんのパーティーで持っていってください。ハシ姉の食料として残りは俺がもらいますが、これだけでも結構な量ですから」

「お、おいツムグ! これ一番美味い部位だぞ! 本当にいいのか!?」

「ええ。美味い串焼きの店も教えてもらったし、遠慮しないでください」


ガランたちは顔を見合わせ、満面の笑みで肉を受け取った。


「……恩に着る。あんた、本当にいい奴だな」


異世界での確かな繋がりが、また一つ強固になった気がした。

俺は隣のミリアさんにも視線を向ける。


「ミリアさんも、個人的にお肉少し包みましょうか?」

「ふふっ、お気持ちだけいただきます。私は現在、業務中ですので!」


完璧な営業スマイルで、一度は丁重に辞退したミリアさんだったが。

その直後、バインダーで口元を隠しながら、少しだけ身を乗り出してきた。


「――なので。もしよければ今度、美味しいタルト、奢ってくださいね?」

「ははっ、是非是非」


上目遣いのおねだりに、俺は笑って即答した。

手続きと分配が終わり、応接室に和やかな空気が流れる。

当面の資金と食料、そして身分証。これで、いよいよ巨大亀の背中での生活基盤作りに取り掛かれる。

そう安堵の息を吐いた、その時だった。


――バンッッ!!!


爆発音のような轟音と共に、応接室の分厚い扉が蹴り破られた。


「なっ!?」


俺は咄嗟に腰の鉄剣に手を掛け、ハシ姉もスッと目を細めて臨戦態勢をとる。

粉々になった扉の向こう。

立っていたのは、身長2メートルに迫る大男だった。

丸太のような太い腕。全身を覆う無数の刃傷。

熊のような体躯から放たれるのは、空気が凍りつくような、あまりにも濃密で暴力的なプレッシャー。


(……なんだ、この威圧感。ただの冒険者じゃないぞ)


死線を超えてきた者のオーラ。

大男は鋭い眼光で部屋の中をギロリと見渡し、そして――ミリアさんを捉えた。

次の瞬間。


「おおおおおおお!! 俺の可愛いミリアぁぁぁぁぁ!!!」


部屋を揺らす咆哮。

大男の顔から恐ろしいオーラが完全に消し飛び、代わりに滝のような涙と鼻水が吹き出した。


「お父さん、お前がマッドボアに襲われたって聞いて飛んできたぞぉぉ!! 無事でよかったぁぁ!!」

「ちょっと、お父さん! 鼻水つけないで!」


全力でダイブしてきた猛者の顔面を、ミリアさんが手元の革張りバインダーで『バシィッ!』と完璧な軌道で弾き返す。


「……は?」


俺の思考が停止する。

大男はバインダーに顔をめり込ませたまま、なおも「ミリアぁ〜〜」と情けない声を上げている。


「ギルド長。現在、お客様の応対中です。どうか威厳を保ってください」


冷ややかなミリアさんの声が響く。


(……マジかよ。この親バカ全開の熊オヤジが、ギルドマスターなのか?)


あまりのギャップに、俺はただ引きつった笑いを浮かべるしかなかった。

第7話、お読みいただきありがとうございます!


無事に街へ到着し、ギルド登録と素材の換金が完了しました。

ハシ姉はオスでした。

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