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ハズレ魔物たちの気ままな楽園づくり 〜勇者パーティーを追放された従魔たちを保護したら、神話級に覚醒しました〜  作者: 比津磁界


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第4話 森の生態系の異常。

第4話です!

森の不自然な静けさに気づくツムグ。

木漏れ日が落ちる獣道を、俺たちは街に向かって歩いていた。


ゴブリンから奪った刃こぼれだらけの鉄剣には、鞘などという上等なものはついていない。

手近にあった幅広で丈夫な葉を何重にも巻きつけ、ツルで縛って腰のベルトに括り付けている。


隣を歩くハシ姉は、長い脚を滑らかに運び、まるでランウェイを歩くモデルのような見事な足さばきで進んでいく。


『ハシビロコウって、滅多に動かない鳥なんじゃなかったか? 異世界だと生態も違うのか……?』


心の中にツッコミを留めつつ、ふと気になっていたことを尋ねてみた。


「なぁ、ハシ姉。さっきゴブリンの群れを倒した時、お前の周りに紫色のモヤみたいなのが見えたんだが」

「あら、アンタ視えたの? あれは『魔力』よ」


ハシ姉は歩幅を崩さず、長い嘴を器用にカタカタと鳴らす。


「人間の冒険者たちは、その魔力を魔法やらスキルやらに変換して戦うらしいけどね。アタシの場合は、高密度に圧縮した魔力をクラッタリングの音波に乗せて放ってるだけよ」

「なるほど。ただの威嚇の音じゃないってことか」


異世界のエネルギー法則に納得しつつ、周囲の環境へ意識を向ける。


ふと、奇妙なことに気がついた。

虫の羽音、小鳥のさえずり。

地球の山林なら生命の音が満ちているはずの環境で、小動物が下草を這う音すら一切しない。


たまらず足を止め、しゃがみ込む。


「どうしたのよ、ツムグ。休憩にはまだ早いわよ?」


オネェ鳥の言葉に生返事を返しつつ、足元の湿った腐葉土を指ですくった。

すぐ横で、シダ類に似た植物が根元から無惨に踏み躙られ、青臭い樹液の匂いを漂わせている。

獣道から外れた場所の、無秩序な蹂躙の痕跡。


「……なあ、ハシ姉。何かおかしくないか、この森」


指先の泥を払いながら、立ち上がる。


「おかしい? アタシの美貌が森の景色から浮いてるってことかしら?」

「真面目な話だ。虫も小動物もいなさすぎる。まるで、森全体が息を潜めてるみたいだ」


俺の真剣な声色に、ハシ姉もふざけるのをやめた。

少し考えるように首を傾げる。


「……そういえば、最近この辺りの小柄な魔物たちがソワソワしてたわね。住処を捨てて、街の方角へ逃げていく姿をよく見たわ」


なるほど。天敵を恐れての局地的な逃走ではない。

中型の獣たちは異様に気が立っており、小型の動物たちは気配に怯えて森から逃げ出しているのだ。


(森の生態系全体が、何か巨大な力に下から押し上げられているような……?)


その仮説が、頭の中で形になりかけた瞬間だった。


――キャアアアアアッ!!!


空気を劈くような、甲高い女性の悲鳴。

小中高と道場で鍛え上げられた体が、考えるより先に動いていた。


腰に括り付けた葉巻きの鉄剣を掴み、悲鳴の上がった方角へ向かって地を蹴る。


「ちょっと、ツムグ!」

「急ぐぞ!」


木々を抜け、視界が開けた場所。

そこに飛び込んだ光景に、俺は息を呑んだ。


尻餅をつき、必死に後ずさる一人の女性。

その服装は金属製の鎧でもローブでもなく、タイトなシルエットのスカートに、ジャケットのような意匠。手にはバインダーのような革張りの板を抱え込んでいる。


『……事務の制服? なんでこんな森に?』


だが、疑問を深掘りしている余裕はない。

女性と約十メートルの距離を空けて、軽トラックほどの巨体を持つ猪に似た魔物が荒い鼻息を吐いていた。


全身の剛毛を針のように逆立て、黄ばんだ牙からはカニのようにブクブクと泡を吹いている。

血走った瞳孔。

あれは獲物を狙う捕食者の動きではない。

森に蔓延する異常な気配に極限まで気が立ち、パニックを起こしているだけだ。

女性は、暴走する獣のルートに運悪く居合わせてしまったに過ぎない。


『ブルゥアアアッ!!』


獣がヤケクソのような咆哮を上げ、地面を抉るように蹴り飛ばした。

重戦車のような突進が、腰を抜かした女性へと一直線に向かっていく。


距離、およそ十メートル。


『飛び込めば、間に合うか……ッ!』


泥だらけのブーツで、大地を爆発的に踏み込む。


「ひっ……!」


絶望に目を閉じた女性の身体を、横から両腕で抱え込むようにしてすくい上げた。

凄まじい獣の風圧と獣臭が、背中を掠める。

そのままの勢いで腐葉土の上をゴロゴロと転がり、激しい衝撃を逃がした。


「あ、が……っ」


肺から空気が絞り出される。

土煙が晴れる中、突進を躱された巨猪が、ズザザッと蹄を滑らせてこちらを振り向いた。


腕の中の女性を庇うように立ち上がり、葉っぱの鞘を乱暴に振り解いて鉄剣を構える。

だが、刃こぼれした粗悪ななまくらだ。


『ダメだ。このサイズの猪の分厚い皮に、この剣じゃ致命傷は与えられない』


冷静な分析が、絶望的な戦力差を弾き出す。

猪が再び前傾姿勢をとり、全身の筋肉を軋ませた。


その時。


バサァァァァッ!!!


突風が吹き荒れ、視界がふっと暗くなった。

俺と女性を庇うように、上空から巨大な影が舞い降りたのだ。


「まったく。世話の焼ける男ねぇ」


呆れ声と共に着地したハシ姉の巨体を、先ほどのゴブリン戦とは比べ物にならないほど濃密な『紫色のオーラ』が包み込む。

立ち昇る膨大な魔力の粒子が、彼女の長大で分厚い嘴へと一気に収束していく。


そして、ハシ姉がわずかに嘴を開いた直後。


ガガガガガガガガガガッ!!!!!


先ほどよりも一段と低く、重い連撃音。

空間そのものが爆ぜたかのような錯覚。


高密度に圧縮された魔力が巨大な音波の波紋となり、突進の構えを取っていた猪を真正面から打ち据える。


『ブ、ギ……ィ……!?』


広範囲に撒き散らされた紫色の衝撃波は、一瞬にして巨獣の鼓膜と内臓を破壊し尽くした。

白目を剥き、口から血の泡を吹いた猪は、断末魔すら上げることなくドスーンと地響きを立てて倒れ伏す。

完全に息絶えていた。


刃を交えることすらない、一撃必殺。


静けさを取り戻した森の中で、ハシ姉がゆっくりと俺たちを振り返り、長い嘴を器用に傾けた。


「あらやだ。ちょっと力を入れすぎちゃったわ」


ゴツン、と事切れた巨獣を長い脚で軽く小突く。


「……まあ、アンタのそのなまくらじゃトドメは無理だったろうし、結果オーライよねぇ?」


呆気なく命を散らした軽トラサイズの魔物を見下ろし、俺は心の中でそっと冷や汗を拭う。


『あれで、まだ本気じゃないのか……』


勇者が「動かない不良品」と吐き捨てたサナギの底知れなさに、俺はただ息を呑むしかなかった。

第4話、最後までお読みいただきありがとうございます!

ピンチに颯爽と(?)現れ、軽トラサイズの猪を音波でワンパンしてしまうハシ姉。相変わらず強すぎます。

続きが気になる!と思ってくださった方は、ぜひブックマークや下の【☆☆☆☆☆】で応援をいただけますと嬉しいです!

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