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ハズレ魔物たちの気ままな楽園づくり 〜勇者パーティーを追放された従魔たちを保護したら、神話級に覚醒しました〜  作者: 比津磁界


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第27話 歩く山脈と、無様な逃走。

「山が……山が見えたぞォォォッ!!」


城壁の最上部、監視塔からの絶叫が、朝霞に包まれた平原に響き渡った。

張り詰めていた安堵の空気は一瞬で吹き飛び、冒険者たちの間にどよめきと混乱が広がる。


「おい、冗談だろ!? 昨日ギルドマスターは、まだ数日かかるって言ってたじゃねえか!」

「どうする!? 迎撃か、撤退か!?」

「ギルドの指示はまだ出ないのかよ!」


血相を変えた冒険者たちが口々に叫ぶ中、銀の派手な鎧を着た騎士団長が前に進み出た。


「落ち着けッ! 伝令を走らせている暇はない! 敵の移動速度が想定外に速い。このままでは、ギルドの決定を待つ前に街が踏み潰されるぞ!」


団長は剣を抜き放ち、地平線の彼方からズシン、ズシンと迫り来る巨大な岩山のシルエットを指差した。


「俺たちで足止めをする! 土魔法を使える者は全員前に出ろ! 敵の進行ルートは一直線だ。巨大な壁を作って、少しでも時間を稼ぐんだ!!」


その号令に、前衛で土魔法を使える冒険者や騎士たちが一斉に平原の中央へと駆け出していく。


「レオ、お前も行けるか?」


俺が声をかけると、宙に浮いていたレオが力なく俺の肩へと降り立ち、ふうふうと短い息を吐いた。


「ククッ……我が深淵の魔力も底を突いたようだ。次の覇道のため、少々休ませてくれ……」

「そうか。よく頑張ったな。ゆっくりしてろ」


無理をさせるわけにはいかない。

俺はレオを肩に乗せたまま、Fランクとしての本来の仕事――後方支援へと回った。

アイテムボックスから大量のマナポーションを取り出し、陣形を組む魔法使いたちの元へ走って配給していく。


「基礎の岩盤を深くまで根入れしろ! 表面の土だけじゃ、あの質量には一瞬で押し流されるぞ!」


騎士団長の指示のもと、数十人の魔法使いが一斉に魔力を練り上げる。

ズゴゴゴゴォォォッ!!

大地の底から、厚さ十メートル、高さ数十メートルにも及ぶ強固な土と岩の壁が、街を覆うように隆起した。


「よし、これなら高さも申し分ない。いくらデカブツでも、少しは時間が稼げるはずだ!」


ポーションを飲み干しながら、魔法使いたちが安堵の息を吐く。


「団長! 住民の避難誘導はどうなっていますか!」

「とっくに終わっている! ギルドのEランク以下の連中が、門の反対側から速やかに脱出させてくれた!」

「さすがだな……。あとは俺たちがここで、どこまで粘れるかだ」


ガランさんが、大剣を肩に担ぎながら分厚い防波堤を見上げる。


「それにしてもよ。昨日逃げ帰ってきたAランクの連中は、俺たちの攻撃は全く効かなかったって言ってたが……」

「ええ。ここからでもわかります。あいつ、相当な深手を負ってますよ」


俺の視線の先。

刻一刻と近づいてくる大亀の体表には、森の木々や岩盤に無理やり体を擦り付けたような、痛々しい無数の裂傷が刻まれていた。


そして。

ズシンッ。

ズシンッ。


大地が、腹の底から悲鳴を上げる距離まで、ついにその『山』は到達した。

朝陽を完全に遮るほどの、巨大な影。


(……目視できる距離まできたか)


俺は静かに右目に意識を集中させる。

カッ、と白蛇の恩恵が熱を帯び、視界の奥に眼前の巨大な対象の『情報』が浮かび上がった。


【種族名:アース・キャラパス】

【進化段階:第4段階】


(……マジかよ。本当に4段階目(その先)に行き着いてるのか)


思わず息を呑む。

この世界の常識では、魔物の進化は『第3段階』が限界だとされている。

俺の足元にいるアイのように、進化の行き止まり(ハズレ)と見なされた姿のさらに先に、圧倒的なポテンシャルが秘められていることは一般には知られていない。


ましてや、おとぎ話の自然災害として語られるこの大亀が、何らかの魔物から『進化して』あの姿に行き着いたなんて、誰も想像すらしていないだろう。


その時だ。

ズズ……と。

山のように巨大な顔が微かに動き、血走った濁った瞳と、一瞬だけカチリと視線が合った気がした。


ドックンッ!!


右目が、脈打つように激しく熱を持った。

鼓膜を通さず、脳の奥底に直接響いてくるような、極めて小さな声。


『……とめて、あげて……』


(……誰だ?)


大亀の意思なのか、それとも。

だが、その疑問を深掘りする前に。


「ハッ! 雑魚ども、ご苦労さん」


場違いなほど軽薄で甲高い声が、張り詰めた空気をあっさりと叩き割った。


振り返ると、朝陽を反射してギラギラと輝く白銀の鎧。

泥と血にまみれたこの戦場において、一滴の汚れすらないその男は、取り巻きのように三人の仲間を従えて鼻で笑っていた。


「なっ……勇者パーティーだと!?」

「何しに来た、お前ッ! 今までどこをほっつき歩いてやがった!」

「こっちは一晩中、死に物狂いで防衛戦やってたんだぞ!」


ガランさんが大剣を握り直し、周囲の冒険者たちも血走った目で怒鳴りつける。

だが、勇者と呼ばれた男は悪びれる様子もなく、腰に佩いた豪奢な剣の柄をポンポンと叩いた。


「おいおい、助けに来てやったってのにその態度はねえだろ。どいつもこいつも、あんな鈍重そうな亀一匹にビビり上がってよぉ。俺が、あのデカブツを止めてやるよ。見とけ」


男が指を鳴らすと、彼の背後から三体の魔物が飛び出してきた。


俺の右目が、自動的にそれらの情報を読み取る。


【種族名:ブラッドウルフ】

【進化段階:第3段階(限界)】


【種族名:ヴェノムセンチピード】

【進化段階:第3段階(限界)】


【種族名:ストームコンドル】

【進化段階:第3段階(限界)】


鋭い爪を持つ四足歩行の獣に、毒々しい色をした大百足、そして獰猛な嘴を持つ巨大な鳥。

俺は小さく息を吐いた。


(……やっぱりな)


白蛇の恩恵が映し出す、彼らの『進化の系統樹』。

光の枝はどれも第3段階でプツリと途切れており、その先に伸びるはずの『未来の枝』が一本も存在していなかった。

手っ取り早い強さはあるのだろうが、この先への進化の可能性が完全に絶たれた魔物たちだ。


「行けッ! 俺の最強の魔物たちよ!」


勇者の号令と共に、魔物たちが一斉に大亀の足元へと殺到した。

鋭い爪が岩のような皮膚を引っ掻き、酸の毒液が甲羅に向けて吐き出され、巨鳥が嘴で突撃を仕掛ける。

だが。


『――』


大亀は、足元に群がる魔物たちを一瞥だにしなかった。

ただ、いつも通りに重たい右足を、ドシン、と前に踏み出しただけ。


「ギギャッ!?」


大亀が歩く際に生じる凄まじい風圧と、大地の揺れ。

たったそれだけで、勇者自慢の魔物たちはボールのように平原の彼方へと弾き飛ばされていく。

ドサドサッと地面に落下した魔物たちは、目を回して完全に気絶していた。

息はあるようだが、完全に戦闘不能だ。


「……は?」


白銀の鎧の男が、間抜けな声を漏らした。

未知の領域へと進化した大亀にとって、彼らの攻撃は蚊の羽音以下。


「ちっ……使えねえな! しょうがねえ、じゃあ俺がやるしかねえか!」


顔を真っ赤にした勇者が、腰の剣を引き抜いた。

まばゆい光が刀身を包み込む。神聖な魔力が周囲の空気をビリビリと震わせた。


「喰らいなッ! 聖剣の全力だァァァッ!!」


勇者が大地を蹴る。

高く跳躍し、光り輝く剣を大亀の巨大な前足へと勢いよく振り下ろした。


ギィィィィンッ!!!


鼓膜を突き破るような金属音。

光の刃は大亀の分厚い皮膚に傷一つ付けることなく、無惨に弾き返された。


「なっ、ぐおぉぉぉッ!?」


作用・反作用の法則。

圧倒的な質量に全力でぶつかった反動が、そのまま勇者の細い腕へと返っていく。

大亀が次の一歩を踏み出した瞬間に生じた突風が、空中にいた勇者の体を木の葉のように吹き飛ばした。


ズダダダダッ! と、無様に地面を転がり、俺たちの陣取る防波堤の前まで吹き飛んでくる白銀の鎧。


「あ、がっ……あ……」


仰向けに倒れた勇者の顔から、完全に血の気が引いていた。

見上げる先には、天を突くような巨大な岩の塊。

自分の一撃に気づきすらしない、次元の違う圧倒的な『死』の感覚。


勇者の股間から生温かい液体が染み出し、純白のズボンと石畳を無惨に濡らしていた。


「ひ、ひぃぃぃぃぃッ!! 無理だ! あんなバケモノ、俺の仕事じゃねえ!!」


腰を抜かした男は、四つん這いになって後ずさる。

そして弾かれたように立ち上がると、地面に落ちていた己の聖剣だけはしっかりと拾い上げ、振り返ることもなく街の門へ向かって全力で走り去っていった。


(……いや、自分の武器は持ってくのにパーティーメンバーは置いていくのかよ!?)


俺の視線の先。

勇者に置き去りにされた三人の仲間たち――神官服を着た女僧侶、大盾を持つ戦士、ローブ姿の魔法使いが、ポツンと平原に取り残されていた。


「……信じられない。本当にあの男は……」


錫杖を握る女僧侶が、ギリッと唇を噛み締める。

呆れ、怒り、そして諦め。

様々な感情をごちゃ混ぜにしたようなため息を一つ吐き出すと、彼女は残された二人の仲間と視線を交わした。


「私たちだけでも、やるわよ! 街の人たちを見捨てるわけにはいかない!」

「応ッ!」


勇者パーティーの残党が、覚悟を決めた顔で防衛線の最前列へと駆け込んでくる。


「アンタら、馬鹿か! 死ぬ気かよ!」


ガランさんが怒鳴るが、戦士は大盾を構えて大亀の正面へと立ち塞がり、魔法使いは詠唱を始め、僧侶は前衛に支援魔法バフをかけ始めた。


その直後だった。


ドゴォォォォンッ!!!


巨大な岩のアース・キャラパスが、数十人の魔法使いが命がけで組み上げた防波堤に真っ向から衝突した。

分厚い土と岩の壁が、ひび割れ、けたたましい悲鳴を上げる。


「ぐ、おおおおおッ!! 崩れるな、耐えろォォッ!!」


土魔法使いたちが必死に魔力を注ぎ込み、なんとか一撃目の崩壊は免れた。

防波堤は確実に削られながらも、ギリギリのところで大亀の歩みを一時的にせき止めている。


だが、衝突の余波で弾け飛んだ巨大な岩の破片が、散弾となって前衛に降り注いだ。


「危ないッ!」

「がぁぁぁッ!!」


女僧侶を庇うように前に出た戦士の大盾が、岩の直撃を受けてひしゃげる。

鈍い骨の折れる音と共に戦士の巨体が吹き飛び、血まみれになって地面を転がった。


「バルド! 早くこっちへ!!」


僧侶の悲痛な叫びが響く。

防波堤は持ちこたえているが、ピキピキと巨大な亀裂が走り始めていた。このまま削られ続ければ、あと数分で完全に決壊する。


(……このままじゃ、全員潰される。今のうちに、なんとか策を打たないと……!)


絶望的な地響きの中、俺は脳をフル回転させ、右目に映る大亀の姿と足元のアイを交互に睨みつけた。

第27話、お読みいただきありがとうございます!

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