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ハズレ魔物たちの気ままな楽園づくり 〜勇者パーティーを追放された従魔たちを保護したら、神話級に覚醒しました〜  作者: 比津磁界


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第25話 開戦。

第25話です!

ついに押し寄せてきたスタンピード。

魔物の大群に対し、ツムグの頼もしい相棒たちが、出し惜しみなしの「全力」を解放します。

ファルデルの街、正門前。

無数の松明がパチパチと爆ぜ、周囲を赤々と照らしている。


焦げた油の匂い。

そして、武器を握る者たちが発する濃密な汗と、恐怖の匂い。

城壁の上や門の前に陣取った衛兵、前衛を任された冒険者たちは、皆一様に血の気を引かせた顔で『闇』を睨みつけていた。


「おう、ツムグ! お前さんたちも来たか!」


張り詰めた空気の中、声をかけてきたのは大剣を背負ったガランさんだった。

彼の背後には、見知った『銀の牙』のメンバーたちも顔を強張らせて武器を構えている。


「ガランさん。銀の牙の皆さんも前衛ですか」

「ああ。……それにしてもお前さん、手が震えてねぇな。大したタマだ」

「緊張はしてますよ。でも、やるしかないので」


俺が短く答えると、ガランさんはニヤリと笑って俺の肩を叩いた。


「あの前線で指揮を執ってるのは?」

「ああ、あの派手な鎧のオッサンか。街の騎士団長殿だよ。あいつも頭の切れる嫌な野郎でな、戦の指揮はピカイチだ。……ツムグ、お前さんの従魔たちの力、期待してるぜ。お互い必ず生きて帰ろうな!」

「ええ、頑張りましょう」


言葉を交わし、少しだけ肩の力が抜ける。

だが、安堵の時間は一瞬で吹き飛んだ。


街と森を隔てる、広大な平原。

数百メートル先の森の境界線で、不自然に木々が大きく揺れ、バキバキと幹の折れる音が響き始めたのだ。

暗闇の奥で蠢く、無数の赤い双眸。


そして――境界線が、弾けた。


「……来るぞッ!!」


誰かの絶叫が夜空を切り裂く。

木々をなぎ倒し、平原へとなだれ込んできたのは、正気と理性を失った魔物の大群。

まるで真っ黒な滝が、大地を飲み込みながらこちらへ迫ってくるような絶望的な光景だった。


「放てェェェッ!!」


騎士団長の号令と共に、無数の矢と魔法が夜空に弧を描き、黒い波へと降り注ぐ。

炎が爆ぜ、雷が閃く。

だが、全く数が減らない。倒れた魔物を後続が容赦無く踏み潰し、狂ったように街へと殺到してくる。


「ダメだ、止まらねえ!」

「抜剣ッ!!」


怒号のような騎士団長の声が響き渡り、前衛の冒険者と衛兵たちが一斉に剣を抜く。チャキッ、と無数の鋼が鳴る音が夜風に乗った。


「陣形を崩すな! 被害を出さないよう互いにカバーし合え!!」


盾を構える者たちの腕が、恐怖でガタガタと震えているのがわかる。

無理もない。あれはもはや軍勢ではなく、ただの暴力の津波だ。


そんな、張り詰めた絶望の空気を。


「――まずは前を空けて、防衛線ラインを作るわよ!」


艶やかなオネェ声が、あっさりと叩き割った。


ドンッ!!

爆発のような踏み込み音。

俺の隣から弾丸のように飛び出したのは、ハシ姉だった。

細く長い鳥の脚が、石畳を砕かんばかりの推進力で大地を蹴り飛ばし、単騎で魔物の津波へと真っ向から突っ込んでいく。


「アタシの羽を汚したら、承知しないわよッ!」


最前線で群れと衝突する直前。

ハシ姉が、その巨大な嘴を大きく開いた。


『カタカタガタガタガタガタッ!!!』


空気を叩き割るような、爆音のクラッタリング。

それはただの威嚇音ではない。魔力を極限まで圧縮した、指向性を持つ破壊の衝撃波だ。


ドゴォォォォンッ!!


空気がグニャリと歪み、先陣を切って飛びかかってきた数十匹の魔物が、見えない巨大な壁に激突したように空中でひしゃげる。

硬い甲殻も、分厚い毛皮も関係ない。

圧倒的な音の圧力によって、魔物たちが次々と血飛沫を上げてミンチに変わっていく。

たった一度のクラッタリングで前線の波が完全に粉砕され、平原の中央にぽっかりと巨大な空白地帯が生まれた。


「フッ……ならば我が、不落の城を築いてやろう!」


呆然とする冒険者たちの頭上を飛び越え、小さなトカゲ――レオが、空白地帯へと躍り出る。

夜風に乗ってふわりと着地したレオは、短い手足を大地へと突き立て、喉の奥から仰々しい詠唱を紡ぎ出した。


「眠れる冥府の土塊よ、我が覇道の為にことわりを砕け……! 顕現せよ、『絶対絶望の魔王城カオス・テラ・クリエイション』ッ!!」


ゴゴゴゴゴゴォォォォッ!!!

凄まじい地鳴りが平原を揺らす。

普段のクエストで作るような、小さな小屋程度の土のシェルターではない。


レオが本気で放った規格外の魔力に呼応し、平原の土と岩が竜巻のように隆起していく。

そびえ立ったのは、大きな一軒家――いや、立派な砦ほどの規模を誇る、巨大な石と土の城。

完璧な射線を確保できる銃眼(隙間)と、魔物の突進を跳ね返す分厚い防壁を備えた、前線基地(魔王城)が、一瞬にして爆誕したのだ。


「……おい、嘘だろ」

「あんなバケモノみたいなの……ただの従魔なわけがねえ……!」


剣を構えたまま固まる衛兵たち。

腰を抜かしかけていた『銀の牙』の面々も、信じられないものを見る目でそびえ立つ土の砦を見上げている。


俺は愛用のキャンバス生地のコートを翻し、砦へと歩き出した。


「よし、最高の土台(防衛拠点)ができたな。アイ、お前の出番だぞ」

俺はそう言いながら、虚空に手を突っ込む。

アイテムボックスを開放し、先ほどミリアさんから返却してもらった鉄鉱石を、砦の前に一気にドサリとぶちまけた。


鈍い金属音が響き、あっという間に俺の背丈ほどの鉄の山が築き上がる。

その前に、待機モードだったアイが進み出た。


『命令を受理。――面制圧を開始します』

「待て、アイ。一つだけ指示を追加する」


アイの黄色い瞳が、瞬きするように点滅する。


「いつものように周囲数十メートルから鉄を集めたら、前衛で戦ってる冒険者や騎士団の剣や鎧まで集めてしまうからな。鉄の収集範囲は『足元の地中だけ』に限定してくれ。あとは俺が出したこの鉄鉱石を使ってくれ」

『……命令を受理。鉄成分の収集ベクトルの指向性を、直下のみに再設定します』

「それと。今回は採掘クエストじゃない。後で鉄を回収する必要もないから……」


俺は、静かに笑みを深めた。


「ここは鉱山じゃないから、力を思いっきり使っていいぞ」

『――リミッター、解除。最大出力で構築します』


淡々とした幼女ボイスが響いた直後。

キィィィィィンッ……!!


空気が張り詰めるような、甲高い駆動音が平原に響き渡った。

次の瞬間、俺がぶちまけた鉄鉱石の山がカタカタと震え出し、一斉に宙へ浮き上がる。

それだけではない。

ズズズズズッ! と、平原の足元の土がひび割れ、地中に眠っていた砂鉄や鉄分が真っ黒な粒子となって地表へと噴き出してきたのだ。


それらが竜巻のように渦を巻き、小さなアイの体へと凄まじい勢いで吸い込まれていく。

熱風と火花が散る。

鋼が軋み、重なり合い、恐ろしいスピードで『巨大な装甲』が組み上げられていく。


廃鉱山で見せた三メートルの巨体を、あっさりと超えた。

四メートル、五メートル。

分厚い鋼鉄の脚が地を捉え、無骨な腕が形成され、最後に鋭いスリットの入った頭部がカシャァンッと重厚な音を立てて鎮座する。


土煙の中から現れたのは、体長六メートルに達する、規格外の巨大な鉄の塊(機神)。

前世でスクリーン越しに見た巨大ロボットを彷彿とさせる、圧倒的な質量だった。


「……ポカーン」


文字通り、そんな効果音が聞こえてきそうなほど。

弓を構えていた衛兵たちや、銀の牙の面々が、完全に戦意を忘れて口を半開きにしている。

味方すらもドン引きする光景。

俺はすかさず、息を吸い込んで叫んだ。


「攻撃しないでください! このデカいのは俺の従魔です!!」


戦場に響き渡る声で宣言し、後ろにそびえ立つレオの砦を指差す。


「怪我人は、この土の建物に避難させてください! ここを防衛拠点として使ってください! 入り口にポーションの木箱を置いておくので、自由にどうぞ!」


ドサッ、ドサッ、と。

ミリアさんから持たされた大量の回復薬が入った木箱を、砦の入り口に積み上げる。

これで、後方支援の導線と安全地帯は確保できた。

あとは。


「アイ、前線を押し上げろ!」

『――了解ラジャー


六メートルの鋼の巨人が、ズンッ、と一歩を踏み出した。

大地が激しく揺れる。

味方の冒険者たちを踏まないよう、絶妙なバランス制御で器用に前線をすり抜けたアイは、魔物の群れが押し寄せる最前線へと躍り出た。


『障害物を、物理的に排除します』


魔法も小細工もない。

ただ、六メートルの鋼鉄の足が、群がってくる魔物たちを容赦無く踏み潰す。

丸太のような巨大な腕を横になぎ払うだけで、数十匹の魔物がボウリングのピンのように宙を舞い、全身の骨を砕かれて絶命していく。


「ギャギィィッ!?」

「グガァッ……!」


先ほどまで冒険者たちを絶望させていた『暴力の津波』が、さらに理不尽な『質量の暴力』によって、ただの泥水のように掻き回され、蹂躙されていく。

剣が通らない硬い甲殻も、魔法に耐える毛皮も、六メートルの鉄の塊の前には紙屑と同義だった。


「……とんでもねえな」


隣で大剣を下ろしたガランさんが、引きつった笑いを浮かべて呟いた。


「あんなバケモノ揃い……お前さん、本当に何者なんだよ」

「ただの、しがない冒険者ですよ」


俺は肩をすくめ、最前線で暴れ回る家族たちの頼もしい背中を見つめた。


ハシ姉が空気を割り、レオが不落の拠点を作り、アイが蹂躙する。

完璧な盤面。これなら、どれだけ数が多かろうと押し負けることはない。

だが、俺の右目(白蛇)の奥底で鳴り響く警鐘は、未だに鳴り止んでいなかった。


(……このスタンピードは、ただの『前座』にすぎないんだからな)


歓声を取り戻しつつある戦場の只中で、俺は一人、油断することなく。

森の奥――はるか彼方からゆっくりと、しかし確実に近づいてくる『歩く山脈』の足音に、全神経を研ぎ澄ませていた。

第25話、お読みいただきありがとうございます!

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