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ハズレ魔物たちの気ままな楽園づくり 〜勇者パーティーを追放された従魔たちを保護したら、神話級に覚醒しました〜  作者: 比津磁界


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第18話 勇者の正体は『厳選厨』の転生者。

翌朝。ファルデルの街の広場は、活気に満ちていた。


石畳を叩く馬車の車輪の音。

香ばしく焼けたパンと、朝露をまとった新鮮な野菜の匂い。

俺は買い出しの荷物を持ち、隣を歩くハシ姉と肩の高さでフワフワと浮いているレオと共に雑踏を歩いていた。


「ちょっと、あなた……!」


不意に、背後から切羽詰まったような声で引き留められる。

振り返ると、武装した三人の男女が立っていた。

大剣を背負った戦士、ローブ姿の魔法使い、そして白い法衣の僧侶。

彼らの足元には、身長百二十センチほどの、鈍く銀色に光るずんぐりとした二足歩行の物体が所在なさげに突っ立っている。


「嘘……あの子たち、無事だったのね……!」


魔法使いの女が、信じられないものを見る目でハシ姉とレオを指差した。

その言葉で、すべての点と点が繋がる。

こいつらが、自分の都合で魔物を捨てる「勇者パーティー」か。


俺の目の奥がスッと冷える。

冷たい敵意を向けた瞬間、ハシ姉が呆れたように嘴を鳴らした。


「ツムグ、警戒しなくていいわ。この三人はアタシたちが捨てられる時、必死に反対してくれたのよ。あの無礼な勇者とは違うわ」

「うむ。まともな心を持った人間どもだ。話くらいは聞いてやってくれ」


レオまでが空中で腕を組み、コクリと頷く。

普通に人間の言葉で会話に混ざってくる二匹に、三人は目を丸くしていた。

……なるほど。

じゃあ、いきなり斬り捨てる必要はないな。

俺がスッと肩の力を抜いて敵意を収めると、白い法衣を着た僧侶の少女が一歩前に出た。


「あの……私たちは、勇者パーティーの者です。そちらの二体の魔物について、少しお話を伺いたいのですが……よろしいでしょうか」

「……分かりました」


俺は短く応じ、落ち着いて話をするため、近くのテラス席のある飲食店へと向かった。



「……時間を取ってもらってすまない。俺たちは勇者パーティーの戦士、バルトだ」

「魔法使いのセリアよ」

「僧侶の、マリーと申します……」


木漏れ日が落ちるテラス席。

温かいハーブティーが運ばれてくると、三人は深く頭を下げて名乗った。


「ツムグです。こいつらの保護者みたいなもんです」


俺が名乗ると、三人はホッとしたように肩の力を抜いた。

やがて、セリアたちが恐る恐る隣にいる二匹へと視線を向ける。

すると、ハシ姉が胸を張って嘴を鳴らした。


「アタシはハシ姉。今まで名前なんてなかったけど、この子に初めて名前をつけてもらったのよ」

「フッ、我は深淵の……レオという名をもらった! 崇めるがいい!」


自慢げにふんぞり返るハシ姉とレオを見て、三人の顔にパァッと安堵の色が広がる。


「よかった……っ! 本当に、いい人に拾われて……っ」


マリーがポロポロと涙をこぼし、ハシ姉の羽に顔を埋めた。

ハシ姉も優しく嘴で彼女の背中を撫でている。

その様子を静かに見つめながら、俺は本題を切り出した。


「単刀直入に聞きますが。この二体を森に放置したのは、あなた方ですか」


ピクリ、と三人の肩が揺れる。

バルトが重い口を開き、勇者の横暴とそれに逆らえなかった自分たちの不甲斐なさを語り始めた。


「……言い訳になるが、俺たちも必死に止めたんだ。だが勇者の決定は絶対で……。実は今日も、この子を捨ててこいと命令されて」


バルトが視線を落とした先。

テーブルの脚の横で、あの銀色の物体が「ガギュ」と低い音を鳴らしている。

話によれば、こいつは『アイアンゴーレム』というらしい。

周囲の鉄を引き寄せて巨大化する能力を持つが、勇者は『ゴールデン』にならなかったからと、こいつをゴミ扱いしたのだ。


「森へ捨てるなんてどうしてもできなくて……誰か預かってくれる人を探して、街を歩き回っていたところだったんです」


俺は足元のゴーレムを見下ろした。

ズキリ。

右目が、薄荷のような冷気に包まれる。

視界に魔法陣が展開し、ゴーレムの『進化の系統樹』が浮かび上がる。


(マジかよ。こいつも第三段階で終わりじゃないのか)


名前や能力までは分からない。

だが、俺の視る系統樹には、その先にまだ『二つ』の枝がハッキリと伸びていた。


(勇者の見る目のなさには、呆れて物も言えねぇな。)

俺は心の中で毒づきながら、立ち上がった。


「……俺が引き取りましょうか。もし、この子がそれでいいなら」


しゃがみ込み、手を差し伸べる。

ゴーレムは黄色く光る丸い目で俺を見上げ、テチテチと歩み寄ってくると、ガシッ、と俺の足に抱きついた。

冷たくて硬い金属の感触。

どうやら、嫌がられてはいないらしい。


「ああっ……! ツムグさん、本当に、本当にありがとうございます……!」


マリーが顔をくしゃくしゃにして笑う。


「せめてものお詫びです。ここのお食事代は私たちが持ちますので、好きなものを頼んでください……!」

「そうですか。じゃあ、お言葉に甘えて」


遠慮なく追加の肉料理を頼みつつ、俺は目の前の三人を見つめた。

話しているうちに分かってきた。

こいつらは、至ってまともな感性の持ち主だ。

おかしいのは勇者ただ一人。


「……どんなやつなんですか、その勇者って」


肉を切り分けながら尋ねると、セリアが疲れたようにため息を吐いた。


「六歳の時に、突然目の前に『聖剣』が現れて、女神に選ばれた存在なの。……ただ、性格がキツくて。それにたまに、不気味なことを呟くのよ」

「不気味なこと?」

「ええ。魔物を目の前にして『個体厳選』とか、『前の世界ならリセマラ案件だ』とか……よく分からない言葉をブツブツと。もしかすると……あいつは生まれる前、違う世界で生きていたのかもしれないわ」


その言葉に、俺は思わずナイフの動きを止めた。


(マジかよ。あいつ、前世のゲーム感覚で命の『個体厳選』をやってやがるのか……)


命をただのデータとしてしか見ていない。

だからこそ、自分の理想と少しでも違えば平気で切り捨てられるのだ。同じ転生者として、反吐が出る。


「私たちは、最高級宿の『サン・ベル』に泊まっています」


マリーが、丁寧に文字の書かれた羊皮紙のメモを差し出してきた。


「もし何かあれば、いつでもこちらに連絡してください。……あの子たちをよろしくお願いします」


テラス席で三人と別れ、俺たちは再び歩き出した。

目的は、冒険者ギルド。この鉄の迷子の従魔登録を済ませるためだ。


「よろしくね、鉄の坊や。ん? 声の感じだと女の子かしら?」

「フッ。我の次についてこい、新入り!」


ハシ姉とレオの言葉に、足元をテチテチと歩いていたゴーレムがピタリと足を止めた。

そして、無骨な鉄の体から、不意に鈴を転がすような、感情の起伏がない『幼い少女の声』が響き渡った。


『――個体名ツムグを、新規マスターとして認識。システム移行、完了しました。以後、指示を推奨します』


(……なんで見た目ゴツい鉄の塊なのに、声はカーナビみたいな美少女なんだよ……!?)


盛大なギャップに、俺は思わず心の中で激しくツッコミを入れる。

俺の足にすりすりと冷たい鉄の頭を押し付けながら、ゴーレムは淡々とした声で続けた。


『マスター、指示を。前方の通行人ユニットが歩行の障害になっています。物理的排除を実行しますか?』

「いや物騒だな! 敵じゃないから殴るなよ!」

『……命令を受理。駆動系の発熱を抑え、待機モードに移行します』


言うなり、ゴーレムは大人しくなり、俺の足にしがみついた。

見た目にそぐわない、極度の幼女っぷり。


ハシ姉、空を浮くトカゲ、そして足元を歩く重たくて物騒な鉄の迷子。

ドタバタと騒がしい新しい家族のやり取りに、俺は頭を抱えながらも、自然と口角を上げていた。

第18話、最後までお読みいただきありがとうございます!


勇者の正体は、命をゲームのデータとしてしか見ない「転生者」でした。同じ転生者でも、ツムグとは全く思想が違いますね。

そして新たに家族となったアイアンゴーレム。見た目は鉄の塊、中身はAI美少女という強烈な個性が仲間入りしました(笑)

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