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ハズレ魔物たちの気ままな楽園づくり 〜勇者パーティーを追放された従魔たちを保護したら、神話級に覚醒しました〜  作者: 比津磁界


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第17話 勇者は『個体値厳選』に失敗!?

冒険者ギルドの喧騒は、夜が深まるにつれてさらに熱気を帯びていた。


飛び交う怒号のような笑い声と、木製のジョッキがぶつかり合う鈍い音。

むせ返るようなエール酒と、獣肉の焼ける匂いが充満する酒場の片隅で、俺たちはささやかな祝杯をあげていた。


「ん〜っ、やっぱりここのお魚は絶品ねぇ♡」


ハシ姉の前に置かれたのは、丸太のように太い巨大な川魚の丸焼き。

腹に香草ハーブをたっぷりと詰め込まれたそれを、彼女は巨大な嘴で器用に咥え、骨ごとバリバリと豪快に丸呑みにしていく。


「……で、レオ。お前は何が食いたいんだ? 一応、なんでも頼んでいいぞ」

「フッ。我は深淵の王。草木から獣の肉まで、万物を喰らうぞ」

(要するに雑食ってことだな)


メニュー表に視線を落とし、俺は給仕の娘に声をかけた。


「すみません。マッドボアの厚切りステーキを二つ。こっちの魔物用には、一口サイズに切り分けて出してもらえますか?」


ほどなくして、ジュージューと熱い音を立てる鉄板が二つ運ばれてきた。

分厚い肉の焼ける香ばしい匂いと、弾ける肉汁。


俺はナイフとフォークを手に取り、ふと隣を見た。

空中にフワフワと浮いているレオの手足は、どう見ても短い。

あれではフォークを握ることも、皿の上の肉を口に運ぶことも不可能だ。


「おい、レオ。手伝ってやろうか……」

「無用だ、ツムグ。我が魔力の前には、重力すら平伏すのだからな」


レオが空中で短い腕をクロスさせ、ジッと皿の上の肉を睨みつける。


ふわり。

一口サイズに切られた肉片が、見えない糸で吊られたように宙に浮き上がった。

そのままスーッとレオの顔の前まで移動し、パクッ、と小さな口に収まる。


「あむ、あむ……む、なかなか美味なる供物だ」

(《サイコキネシス》!? めちゃくちゃ便利だなそれ!)


俺の驚きをよそに、レオは次々と肉片を浮かせては口に運んでいく。

そのシュールで、どこか愛嬌のある食事風景は、周囲の荒くれ冒険者たちの視線を釘付けにしていた。


「おい見ろよ、あのトカゲ……手を使わずに飯食ってんぞ」

「ふよふよ浮いてるし、めちゃくちゃ可愛いな……!」

「やっぱ爬虫類たまんねぇぜ」


まさかの大好評である。

黄色とオレンジのポップな魔物が、ドヤ顔で空中の肉をぱくぱく食べている姿は、殺伐としたギルドの癒やしになっていたらしい。


「あーっ! ツムグ様、ずるいです! 私もレオちゃんとご飯食べたかったのに!」


そこへ、夜のシフトを終えた私服姿のミリアさんが小走りで駆け寄ってきた。

彼女は隣の椅子に座るなり、目をキラキラさせて空中のレオを見つめる。


「レオちゃん、いっぱいたべてえらいですね〜!」

「フッ、気安く触れるなミリアよ。我は深淵の……きゅるんっ♡」


顎の下を的確に撫でられた瞬間、レオはあっさりと陥落した。

目を細め、喉をゴロゴロと鳴らしてミリアさんの手にすり寄っている。


「あらあら、トカゲちゃんったら本当に素直じゃないわねぇ♡」

「ふふっ、ハシ姉さんも相変わらず羽ツヤが綺麗ですね」


和やかに談笑するミリアさんとハシ姉、そして撫でられて骨抜きになっている中二病のトカゲ。

その光景を眺めながら、俺はよく冷えたエールを喉の奥へと流し込む。


(美味い飯と、笑い合える仲間。……最高だな、異世界)


今日一日の疲労が、温かな喧騒の中に溶けていく。

俺はマッドボアのステーキを噛み締めながら、この穏やかな時間がずっと続くことを、ただ静かに願っていた。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


ツムグたちが和やかな夕食を楽しんでいる頃。

同じファルデルの街の中心部。

一泊の料金が平民の月収を軽く超える、最高級宿のスイートルーム。

分厚い絨毯が敷かれた豪奢な広間で、四人の男女が『一体の魔物』を取り囲んでいた。

勇者、戦士、魔法使い、そして僧侶。

世界を救う使命を帯びた『勇者パーティー』の面々だ。


「……頼むぞ。絶対に来いよ、ゴールデン……!」


勇者・ガウェインは、血走った目で魔物を見つめていた。

部屋の中央で眩い光を放っているのは、身長百二十センチほどの『ストーンゴーレム』。

今まさに、第二段階から、第三段階へと進化を遂げようとしている最中。


前世のガウェインは、日本のしがないゲーマーだった。

休日は部屋に引きこもり、モンスター育成対戦ゲームの『個体値厳選』に人生のすべてを費やす日々。

交通事故であっけなく死に、この世界に『勇者』として転生した時、彼は歓喜に震えた。


(この世界の魔物の進化法則、俺がやってたゲームと全く同じじゃね!?)


魔物を捕らえ、進化させ、魔王を倒させる。

有象無象のモブ(現地人)どもが到達できない知識を持った俺なら、楽勝でこの世界を支配できる。

絶対の自信と優越感が、ガウェインの原動力である。


「この世界のゴーレムは、同質の物質を取り込んで巨大化する能力を持ってる。もしゴールデンに進化すれば、地中の金を纏わせて巨大化させ、それを解除するだけで純金が余分に剥がれ落ちる……。文字通りの『錬金術』が完成するんだ!」


ガウェインは、ギラギラとした欲望の瞳で光の奔流を見つめる。


「ゴーレム種は順当に育てば、ほとんどがゴールデンゴーレムになる。確率的にほぼ金確定だ。さあ来い……っ!」


パァァァン……ッ!!


眩い光が弾け、進化のエネルギーが収束していく。

そこに現れたのは。


「ガ、ギュゥゥゥ……ッ」


鈍色の金属光沢を持つ、重苦しい装甲。

ストーンゴーレムは、図鑑の端には名前が載っているものの、生態や情報の記載がほとんど存在しない極めて稀な突然変異種……『アイアンゴーレム』へと姿を変えていた。


「……っざけんなよ、クソがッ!!」


ガウェインは苛立ちに任せ、近くにあった高級な花瓶を蹴り飛ばす。

ガチャンッ、と甲高い音を立てて陶器が砕け散った。


「なんだこれ鉄か!? なんで金じゃねえんだよ! 確率的にほぼ金確定だろうが! 金策スキームがパーじゃねぇか! なんで図鑑にろくに情報も載ってねぇような『ハズレ』引いてんだよ!」


錬金術の宛が外れたことへの、激しい怒り。

ガウェインの怒鳴り声に、大柄な戦士がなだめようと口を開く。


「おいガウェイン、落ち着けよ。鉄でも十分強いじゃねぇか」

「アホか。鉄くずなんざいくらでも代わりがあるんだよ。あーあ、マジで時間の無駄だった。……おい、お前ら」


ガウェインは、呆然としているパーティーの三人(戦士、魔法使い、僧侶)を顎でしゃくった。


「俺は冒険の準備で忙しい。明日、お前ら三人で、こいつをこの街の近くの森に適当に捨ててこい」

「はあ!?」


戦士が、信じられないものを見る目で声を荒らげる。


「俺たちに捨てに行かせるのかよ! つーかお前、最近動物捨てすぎじゃねぇか!? せめて誰かテイマーに預けるとか……」

「そうよ、さすがに可哀想だわ!」


魔法使いの女も咎めるような視線を向ける。


「そもそも、ゴーレム種との遭遇自体が純然たる『奇跡』なのよ? 一攫千金を夢見て、一生を探し回っても出会えない探索者がごまんといるのに……。それにアイアンゴーレムは希少よ。鉄を生み出せるし、強固な壁役タンクとしては一級品じゃない」


だが、正論をぶつけられてもガウェインの耳には届かない。


「また、命を捨てるのですか……っ!」


杖を握りしめた僧侶の少女が悲痛な声を上げた。


「ワイバーンに進化しなかったトカゲも、鷲にならなかったカラスも……あなたは自分の思い通りにならないからと、次々に命を森へ捨ててきた! あなたは……それでも本当に、女神様に選ばれた勇者なのですか!!」


涙ぐみながら訴えかける僧侶。

その言葉を聞いて、ガウェインの心の中で冷たい苛立ちが限界に達した。


(うっぜぇ……。マジで面倒くせぇな、こいつら)


魔物を捨てるたびに、いちいち倫理観を振りかざしてくる。

所詮はゲームの中のNPCのくせに、プレイヤーである俺に説教をするなど片腹痛い。

そもそも『厳選』しなければ最強のパーティーなど作れないのだ。

金策に使えないレア個体など、ただのボックスの圧迫。

不要なデータを消去するのに、なぜ罪悪感など抱かなければならない。


「……あのな」


ガウェインは極めて冷酷な、歪んだ笑みを浮かべる。


「俺は勇者だ。世界を救うためには『最強の効率』が必要なんだよ。これ以上、育成リソースを無駄にするわけにはいかないし、鉄くずに構ってる暇なんかねぇ。嫌ならお前らが引き取って、一生一緒に暮らせばいいだろ?」

「なっ……!」

「明日、そいつを森へ捨ててこい。俺の決定だ。文句がある奴はパーティーから抜けてもらって構わねぇぞ?」


圧倒的な権力と、勇者という絶対の肩書き。

凍りついたスイートルームの中で、鈍色のアイアンゴーレムだけが、己の運命を理解できないまま「ガギュゥ」と寂しげな稼働音を鳴らしていた。

第17話、お読みいただきありがとうございます!

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