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ハズレ魔物たちの気ままな楽園づくり 〜勇者パーティーを追放された従魔たちを保護したら、神話級に覚醒しました〜  作者: 比津磁界


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第13話 魔の森での薬草採取

完成した細剣(日本刀)を帯び、いよいよ初の依頼へ。

澄んだ朝の空気が、肺の奥まで冷たく染み渡る。


「おう、来たな。ばっちり仕上がってるぜ」


裏路地に響く心地よい金属音。

鍛冶工房へ足を踏み入れると、親父さんがニヤリと笑って一本の刀を差し出してきた。


艶のない、漆黒の鞘。

無骨だが重厚な鉄の鍔。

そして何より目を引くのが、つかの部分だった。黒い下地の上に、滑り止めの組紐が幾重にも、ひし形を描くように美しく巻き込まれている。


「東方の国のやり方を真似て、柄を設え直してみたんだ。握ってみな」


促されるまま、右手で柄を握り込む。

組紐の凹凸が手のひらにピタリと吸い付き、まるで最初から自分の体の一部だったかのようにしっくりと馴染んだ。


スゥ……ッ。


鯉口を切り、ゆっくりと鞘から抜き放つ。

刀身と鞘が擦れる微かな音。鍔元のぐらつきは一切ない。

極限まで磨き上げられたピカピカの刀身が、朝の光を反射して鋭く輝く。刃の表面には、波打つような美しい刃紋が浮かび上がっていた。


「……完璧です。親父さん、本当にありがとうございます」

「へへっ、職人冥利に尽きるぜ。代金は昨日もらってるからな。初仕事、気をつけて行ってこいよ!」


親父さんの熱いエールを背に受け、俺とハシ姉は工房を後にした。


冒険者ギルドは、朝から依頼を求める者たちで活気に満ち溢れていた。

掲示板から『薬草採取』の依頼書を剥がし、カウンターへ向かう。


「ツムグ様、おはようございます。本日からいよいよ依頼開始ですね」


事務服姿のミリアさんが、少しだけ心配そうな瞳でこちらを見つめてくる。

手続きを終えると、彼女はカウンターの下から手のひらサイズの小さな筒を取り出した。真鍮で作られた、短い火縄銃のような道具だ。


「これ、ギルドから貸与している『信号弾』です。どうか、お気をつけて」

「信号弾。これを持っていればいいんですか?」

「はい。もし森でB級以上の魔物と遭遇したり、身の危険を感じたりした時は、これを空に向けて撃ってください。大きな音と赤い煙が上がり、近くの仲間が助けに向かいます。逆に、森の中で赤い煙を見たら、すぐに避難をお願いしますね」

「なるほど。分かりました、ありがとうございます」


ひんやりとした金属の筒を、腰のポーチへ慎重に収める。


「おうツムグ、いよいよ初陣だな!」

「無理すんなよ。ヤバかったらすぐ逃げろ!」


ホールの丸テーブルから、ガランたち『銀の牙』の面々もジョッキを片手に声をかけてくれた。

気心の知れた仲間たちの見送りに手を振り返し、俺たちはギルドの重厚な扉を押し開けた。


ファルデルの街を囲む巨大な防壁を抜け、街道を少し外れる。

足元の舗装された石畳が、柔らかな土と落ち葉の感触へと変わった。


鬱蒼と生い茂る木々の隙間から、斑模様の陽射しが差し込んでいる。

湿った腐葉土の匂い。遠くで鳴く正体不明の鳥の声。


「街の中も結構楽しかったけど、やっぱり自然は一番ねぇ♡」


ハシ姉が長い首を揺らし、ルンルン気分で足取りも軽く歩いている。

巨大で鋭い嘴を持つ怪鳥が、乙女のようなステップで森を進む光景は何度見てもシュールだ。


「えっと、指定されてる薬草は……これか」


俺は立ち止まり、依頼書に描かれた簡素な絵を確認する。

ギザギザとした特徴的な葉の形。用紙の端には、小さな文字で注意書きが添えられていた。


『直射日光を避けた、湿度の高い斜面に自生しやすい』


「これなら、見つけるのはそう難しくなさそうだな」

「あら、どうして? 闇雲に探しても見つからないわよ?」

「前の世界で培った勘、ってやつだよ。日陰で水はけが良くて、湿った土……なら、あっちの沢の方だな」


周囲の植生と苔の生え方、斜面の状態を観察し、推測に従って少し奥へ進む。

予想通り、岩陰の湿った土の上に依頼書と同じギザギザの葉が密集しているのを発見した。

根を傷つけないように慎重にナイフを入れ、規定の量を次々とアイテムボックスへ収納していく。


採取は驚くほど順調に進んだ。


「ねえツムグ。ちょっと使いたいスキルがあるんだけど、いいかしら?」


木漏れ日の下で一息ついていると、ハシ姉がふと立ち止まって首を傾げた。


「スキル? お前、そんなの持ってたのか」

「あのね、魔物って進化すると、使える技とかスキルが勝手に頭の中に浮かんでくるのよ」

「へえ、ゲームみたいだな。で、どんなスキルなんだ?」

「索敵のスキルなのよね。初めて使うんだけど、ちょっと試してみてもいいかしら?」

「索敵……ってことは、攻撃系じゃないんだよな。俺、別に避難してなくても大丈夫か?」

「ええ、大丈夫よ♡」


ハシ姉が自信満々に胸の羽毛を張る。


「あのね、アタシの声を飛ばして、その反響で周囲の地形や、魔物の数まで正確に分かるのよ」


(なるほど。コウモリのエコロケーションみたいなもんか)


ハシ姉の代名詞といえば、嘴を激しく打ち鳴らすクラッタリングだ。

あの機関銃のような『カカカカッ!』という音を森中に響かせて、その反響音を聞き取るのだろう。俺は勝手にそう想像し、少し耳を塞ぐ準備をした。


「じゃあ、やるわよ」


ハシ姉が、スゥッと息を吸い込む。

そして、巨大な嘴を半開きにした。


「アハァ〜ン♡」


……。

静寂。

森の中に、オネェのやたらと色っぽい吐息が木霊した。


(……は?)


俺が完全にフリーズしていると、ハシ姉は半開きの嘴を器用に微振動させ、戻ってきた音の反響エコーを受け取っているらしい。


「ん〜っ、これ、すっごく便利よぉ♡」


バッサバッサと嬉しそうに羽ばたく巨大鳥。

俺はこめかみを押さえ、深く、長いため息を吐き出した。


「……便利なのは分かった。けど、その発声、どうにかならないか」

「あら、セクシーでいいじゃない♡」

「巨大鳥から響くおっさんの色っぽい吐息とか、ホラー以外の何物でもないだろ……。」


疲れたようにツッコミを入れる俺をよそに、ハシ姉は「失礼ね」とプイッとそっぽを向いた。


「それよりツムグ。あっちの方に、大きな箱があるわね。ちょっと行ってみない?」

「……箱か。分かった、行ってみよう」


ハシ姉の案内に従い、シダ植物を掻き分けて獣道を進む。

やがて、少し開けた広場のような場所に、それはポツンと置かれていた。


「あれ、木箱かしらねぇ?」

「……誰かが落としていったのか?」


近づくにつれ、それが粗末な板を打ち合わせて作られた、かなり大きめの木箱であることが分かった。

森の風景からは完全に浮いている。


「なんか、あの中にいるわね」


ハシ姉がピタリと立ち止まり、嘴を鳴らした。


「魔物か何かか?」

「ええ、魔物がいるわ。あの中。箱だったから最初は分からなかったけど、ここまで近づけば気配で大体分かるのよ」


俺は腰の刀に手を添え、慎重に木箱へと近づく。

箱の側面に、不格好な文字が黒い炭で書かれているのが見えた。


『拾ってください』


(……捨て猫かな?)


異世界に来てまで、段ボールに入った捨て猫のような光景を見るとは思わなかった。

剣の柄を握る手に力を込め、木箱の隙間からそっと中を覗き込む。


「……ッ」


息を呑んだ。

薄暗い箱の底で丸まっていたのは、体長140センチほどもある巨大な爬虫類だった。


鮮やかな黄色ハイイエローの鱗。

背中から尻尾にかけては、燃えるようなオレンジタンジェリンのグラデーションが美しく広がっている。そして、全身を覆う黒いヒョウ柄の斑点模様。


(ヒョウモントカゲモドキ……!? いや、デカすぎるだろ)


爬虫類好きの間で圧倒的な人気を誇るその姿のまま、サイズだけを大型犬ほどに引き伸ばしたような魔物。

箱に差し込む光に気づいたのか。

そいつはゆっくりと鎌首をもたげ、クリクリとした愛らしい巨大な瞳で、俺の顔をジッと見上げてきた。

第13話、最後までお読みいただきありがとうございます!


ハシ姉の「アハァ〜ン♡」による音波索敵、いかがでしたでしょうか(笑)

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