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ハズレ魔物たちの気ままな楽園づくり 〜勇者パーティーを追放された従魔たちを保護したら、神話級に覚醒しました〜  作者: 比津磁界


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第12話 魔力量【測定不能】と未知のスキル。

市場の熱気は、午後になっても一向に衰える気配がなかった。


「ツムグ様。こちらの『香草練りの石鹸』と『発火石』、買っておいた方がいいですよ。宿の暖炉でも使っていると思いますが、依頼クエストでの野営でも必須になりますから」


ミリアさんの的確なアドバイスに従い、俺は日用品を扱う小さな屋台へと立ち寄った。

ハーブの香りがする固形石鹸に、擦り合わせるだけで火花が散る発火石。

確かに、いちいち宿から持ち出すより専用の野営キットを持っていた方がいい。

アイテムボックスへと放り込み、次の店へ向かう。


「あとは……主食と野菜ですね。あそこの八百屋に行きましょう」


案内されたのは、土のついた根菜や、みずみずしい緑色の葉野菜が並ぶ屋台だ。


(おお、結構種類があるな)


店先に並ぶ野菜を観察する。

丸みを帯びた葉の重なりはキャベツに似ているし、隣にあるフリル状の葉はレタスっぽい。

木箱には玉ねぎやジャガイモによく似た根菜類もゴロゴロと転がっていた。

異世界とはいえ、見慣れた野菜に近いものがあるのは自炊勢として非常にありがたい。


「なぁハシ姉。お前って野菜は食うのか?」

「イヤよ。アタシは野菜なんて食べないわ。新鮮なお魚が一本あればそれで生きていけるのよ♡」


隣を歩く相棒に尋ねると、バッサリと切り捨てられた。


(まあ、完全な肉食鳥だもんな)


俺はレタスに似た葉野菜と、玉ねぎっぽい根菜をいくつか見繕って手に取った。

その時、表面にこびりついた『土』がパラパラと乾いた音を立てて崩れ落ちる。


(……水はけは良さそうだが、腐葉土の栄養分が圧倒的に足りてない。この街の周辺の土壌は、かなり痩せてるな)


土を見ると、どうしてもその土地の環境レベルを推し量ってしまう。いつか自分の土地を手に入れたら、最高の土壌改良をして甘い野菜を育ててみたいものだ。


「ツムグ様、あそこのパン屋さんに行きましょう!」


ミリアさんの声が、少しだけ弾んだ。

指差した先にあるのは、香ばしい小麦の匂いを漂わせるレンガ造りのパン屋だ。

そういえば街を歩き出した直後、「あそこのパン屋さん、タルトがすごく美味しいんですよ」と彼女が熱弁していた店である。


店先に並ぶのは、冒険者向けの硬い黒パンから、ふかふかに焼き上がった白パンまで様々だ。

俺は明日の携帯食料用も兼ねて、白パンを多めに購入した。


その時、ショーケースの隅に並べられた小さな焼き菓子に目が止まる。

色鮮やかな赤い果実が乗った、手のひらサイズのタルト。


「ミリアさん、今日は本当に助かりました。これ、俺からのほんのお礼です」

「えっ……?」


店を出たところで、俺はこっそり一緒に買っておいた紙包みを差し出した。

中身が目当てのタルトだと分かると、ミリアさんはパチクリと目を瞬かせた。


「あの、お気遣いなく! 私はただ、仕事としてご案内しているだけで……」

「いいんです。俺が個人的に渡したいだけですから。甘いもの、嫌いでしたか?」

「い、いえ! 大好き、です……」


ミリアさんはポッと頬を赤く染め、大事そうに両手で紙包みを受け取った。

仕事用の引き締まった表情が崩れ、年相応の可憐な笑顔がこぼれる。


『カカカカッ!』


不意に、隣でハシ姉が嘴を鳴らした。


「初々しくて可愛らしいわねぇ♡ 若いって素晴らしいわ」

「ハシ姉、からかうなよ」


オネェ鳥のストレートな冷やかしに、ミリアさんはさらに顔を赤くして俯いてしまった。そのウキウキとした様子に、俺も自然と口角が上がった。


買い出しを終えて俺たちが冒険者ギルドへ戻る頃には、空はすっかり茜色に染まっていた。

夕暮れのギルドは、一日の依頼を終えて帰還した冒険者たちでごった返している。


「あ、そうだツムグ様。そろそろ依頼クエストは受けられますか? こちらでの生活費も稼がないといけませんし」


ギルドの喧騒の中、ミリアさんが仕事の顔に戻って尋ねてくる。


「そうですね。何かおすすめの依頼ってありますか?」

「それが……」


ミリアさんが、少し困ったように眉を下げた。


「現在、『薬草採取』のクエストを受けてくださる冒険者の方がいなくて、本当に困っているんです」

「薬草が?」


俺の問いに、横のテーブルでジョッキを傾けていたガランが口を挟んできた。


「昨日のマッドボア騒ぎのせいさ。浅い森にまでB級やC級の中型魔物が降りてきてる影響で、E級やF級の初心者パーティーが完全にヒヨっちまって、森に入りたがらねえんだよ」

「俺たちみたいなB級、C級の冒険者は討伐依頼で手一杯だしな。おかげでポーションの在庫が底を突きかけてるのさ」


盾持ちのボルドが肩をすくめる。

ミリアさんも「買い取り価格は通常の三倍に跳ね上げているのですが……」と深く息を吐いた。


「なるほど。……なら、明日は俺がその『薬草採取』に行きますよ」

「えっ、良いのですか?」

「ええ。植物の群生地を見つけたり、土の痕跡を辿ったりするのは俺の専門分野ですから」

「でも、もし中型の魔物が出たら……」


心配そうなミリアさんに対し、足元のハシ姉が一歩前に出た。


「心配ご無用よ。アタシがいれば、その辺の魔物なんて全く問題ないわ♡ 」

「頼もしい相棒ですね」


ミリアさんがパッと表情を明るくする。


「おっ、いいじゃねえか。じゃあミリアちゃん、こいつのステータス登録をしてやってくれ」

「はい! 依頼を受けていただくにあたって、ステータス水晶での確認が必要になります。今、見てしまってもよろしいですか?」

「ええ、お願いします」


ミリアさんがカウンターの奥から、両手サイズの透明な水晶玉を運んできた。

言われるがまま、手のひらをかざす。

水晶が淡い光を放ち、空中に半透明の文字が浮かび上がった。


【レベル】 8

【筋力】 一般人よりやや高め

【スキル】 剣術

【魔力量】 ???


「ん?」

「あれ……魔力量が、はてな、ですか?」


ミリアさんが不思議そうに水晶を覗き込む。


「魔力量が測定不能なんて、初めて見ました……。水晶の不具合でしょうか?」

「まあ、俺自身魔法なんて使ったことないですしね。気にしてませんよ」


(白蛇宿ってる影響か? まあ、火の玉を撃ちたくなったら考えるか)


そんなことより、俺が気になったのは一番上の項目だ。


「俺、レベル8なのか……」

「ガハハハッ! レベル8! そりゃあ正真正銘のヒヨッコだな!」


ガランが腹を抱えて笑い出す。


「俺たちが大体レベル30台の前半から後半だ。まあ、焦らず地道に上げていくこったな!」

「お手柔らかにお願いしますよ。……ミリアさん、明日の朝、正式に依頼を受注しに来ます」

「はい! お待ちしておりますね」

「ああ、その前に鍛冶屋に寄って、親父さんから刀を受け取ってから来ますよ」


明日の朝の約束を交わし、俺たちは夕闇の迫る街を抜けて宿へと戻った。


「ふぅ……」


離れの部屋に戻り、ハイネックチュニックの襟を少し緩める。


「あ〜ら、今日も結構歩いたわね。アタシ、もうクタクタよ……」


ハシ姉がドサリと部屋の隅へ座り込んだ。

長い脚を折りたたみ、甘えるような視線をこちらへ向けてくる。


「ねえツムグ。お魚ちょうだい♡」

「はいはい、ちょっと待ってろ」


俺はアイテムボックスから、昼間の市場で買った極上の川魚を取り出した。

放り投げてやると、ハシ姉は見事な速度で頭から丸呑みにし、満足げに喉を鳴らす。


「そういえば、お前ってそのデカい魚一匹で足りるのか? もっと食うか?」

「ええ、十分よ。アタシたちシュービルは普段じっと動かないから、エネルギーの消費が少ないの。一日に一匹、こうして立派なお魚があれば美しさを保てるわ♡」


(…動か…ない…?…燃費良くて助かるな……)


相棒の食事を終えたところで、俺は自分のミッションに取り掛かった。


(よし、明日の弁当と今日の晩飯作りだ)


暖炉に薪を組み、発火石を打ち合わせる。

カチッ、カチッ。

火花が散り、あっさりと薪に火が燃え移った。


アイテムボックスから、マッドボアの極上肉を取り出す。

分厚くスライスした赤い肉に、市場で買った「岩塩と干しハーブの砕き粉」をたっぷりと擦り込んだ。


ジュウウウウウウゥゥゥ……ッ!!


熱した鉄板に肉を乗せた瞬間、暴力的なまでの音が部屋に響き渡る。

赤身から透明な脂が溢れ出し、ハーブの爽やかな香りと肉の焦げる野性的な匂いが混ざり合って、強烈な食欲を掻き立ててきた。


パン屋で買った白パンを半分にスライスし、洗ってちぎったレタス似の葉野菜を敷き詰める。

焼き上がったばかりの、湯気を立てる極厚のマッドボア肉。それを野菜の上へ豪快に乗せ、もう一枚のパンで挟み込んだ。


肉汁がじゅわりと溢れ、真っ白なパン生地に染み込んでいく。


「いただきます」


両手でしっかりと掴み、大きく口を開けてかぶりつく。


ザクッ、ジュワァァァッ。


「……んんっ!!」


思わず声が出た。

表面をカリッと焼いた白パンの甘み。みずみずしい葉野菜の食感。

そして何より、ハーブ塩で引き立てられたマッドボアの濃厚な旨味が、口の中で渾然一体となって爆発する。


「これ、明日の弁当にも最高だな」


俺は残りの肉とパン、野菜をすべて使い切り、この『ボアサンド』を次々と量産していった。

出来上がったそばから、時間の流れが止まるアイテムボックスの黒い空間へと放り込んでいく。

いつでもこの熱々で新鮮な状態のサンドイッチが食える。アイテムボックス万歳だ。


食後は、新調した香草練りの石鹸でシャワーを浴びる。

豊かな泡立ちとハーブの香りが、一日歩き回った疲労と汗をさっぱりと洗い流してくれた。


寝巻きに着替えて部屋に戻ると、ハシ姉はすでに定位置で深い眠りについていた。


(さて、俺も寝るか)


ふかふかのベッドに潜り込み、目を閉じる。

明日は、異世界に来て初めての単独フィールドワークだ。

この世界の植物は、土は、どんな生態系を築いているのか。


環境屋としての純粋な知的好奇心と、心地よい疲労感に包まれながら。

俺は、静かに意識を手放していった。

第12話、お読みいただきありがとうございます!

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