救われた人達
海兵の方が部屋を出て行くのを見届けると、僕はどっと疲れが押し寄せるのを感じる。
ど、どうにか、上手く誤魔化せた……。
「しかし、オズって実は有名人なのか? サインを受け取った時、あの人泣きそうなくらい感動してたぞ」
「い、いやー、たまに発表会で演奏するくらいで、流石に海軍の人にサインを求められたのは初めてだったよ」
オズは、困ったように笑う。
確かに色紙にサインしている時、オズも相当困惑してたもんな。
「それじゃあ、おにーさん。事情聴取も終わった事だし、お昼まで少し寝てたら?」
「そうだな。お世話になりっぱなしで悪いけど、そうさせてもらうよ」
「うん! 安心して! おにーさんの怪我が治るまで、僕がおにーさんを養ってあげるよ!」
「あ、ありがとう……」
オズの具体的な年齢は知らないが、確実に自分よりも年下の子供に養われるって……。
自分の甲斐性の無さに思わず溜息を吐きながら、僕はベッドに横になる。
「それじゃあ、おやすみ、オズ」
「うん。おやすみ、天条おにーさん」
****************
「さて、これからどうやってサズ子と合流しようかな」
屋敷を抜け出した後、僕は通行人に道を聞きながらひとまず港を目指していた。
『……お前は、たまに驚くほど自然に悪事を働くな』
「悪事なんてしたことねえわ」
『自分を慕う純真無垢な子供を、こうも簡単に裏切っておいてか?』
「それは……しょうがないだろ。僕の目的は天海に行くことだし、遅かれ早かれお別れはしなくちゃいけないんだ。それに何故かは分からないけど、僕は海龍に狙われている。いつまた襲われるかも分からないのに、オズの近くにいる訳にはいかない」
『とか何とか言っておいて、呪いのせいで触れられると痛みが走るから逃げ出したんじゃないのか?』
「そんな訳あるか!」
『どうだかな』
サズウェルは呆れたようにそう言って、それっきり喋らなくなってしまう。
……やっぱり、黙って出てきたのは良くなかったかな?
でも、海龍から助けたからか、オズは僕の怪我に責任を感じているようだったし、強引についてこられても困るしなぁー……。
「うん……? あっ、おい!」
「はい?」
その時、不意に道の脇の方から声をかけられた。
一瞬、また理不尽に殴られるんじゃないかと思い身構えるが……その人は、僕の方に駆け寄ってくると興奮したように自分の顔を指差す。
「アンタ、海岸で海龍と戦ってた奴だろ! 俺のこと覚えてるか?」
「え? えーと……、貴方は確か港にいた……?」
「そうそう! あの時、アンタに声をかけられた漁師だ! おーい、みんなー! 俺達を守ってくれた英雄様が、ここにいるぞーっ!」
「ちょっ⁉︎」
その人が叫ぶと、その人の知り合いと思われる人達が一斉に集まってくる。
ま、不味い!
「アンタが、噂の海龍を追い払ってくれた少年かい? いやー、本当に助かったよ」
「へぇー、この人が」
「本当に、ただの子供にしか見えないな」
「い、いえ、僕は大したことはしてないですよ」
「いやいや、アンタはあの【悪食】に勇敢に立ち向かい、この国を守った! 是非とも、お礼をさせてくれ!」
その声が聞こえたのか、物珍しそうにこちらを見ていた通行人まで興味を引かれたかのように集まってくる。
「あんな子供が……」
「全然強そうじゃないわね」
「噂によると、悪器を持っているらしいぞ」
「それ、大丈夫なの?」
「馬鹿! この国を守ってくれた恩人になんてこと言うんだ!」
……どうしよう、完全に囲まれてしまった。
人に触れられた瞬間に痛みが走る現状、この状況は非常に良くない。
「あの、すみません……僕、行くところがあるので……」
「しかし、このままじゃあ、俺達の気持ちが収まらないよ! ぜひ、お礼をさせてくれ!」
「これ、アンタ! あんまり、子供を困らすんじゃないよ!」
その時、一人の女性が現れると男性の頭をはたく。
どうやら、港にいた漁師の奥さんのようだ。
「悪いねぇ。みんな、君にお礼を言いたくてしょうがないのさ。許してやってくれ」
「そんな、僕はただ夢中だっただけで……」
「そうかい。でも、結果的に私達はアンタに救われたんだよ。ありがとうね。何か困った事があったら、いつでも私達を頼りな」
女性がそう言うと周りにいた人達も一斉に頷いて、口々にお礼を言ってくれる。
……良い人達だ。
本当に、なんで——
「なんで、喧嘩なんて流行ってるんだろう……」
「「「やるか?」」」
やらないです。




