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演奏会


「バシン元帥閣下、報告します!」

「何だ! 私は、今海龍の後始末について考えなくてはならんのだ! くだらない用件なら後にしろ!」

「い、いえ、それが、光海教会から只今伝令がありました! 内容は、この第三海層海軍基地が()()されると!」

「……は?」


 私は読んでいた報告書から顔を上げて、顔を真っ青にしながら報告してきた海兵を見つめる。


「理由はなんだ!」

「は、はい! 数時間後、第一海層から脱走した海賊達が海層渡りをしてこちらにやってくるようです! 教会はそれが原因と睨んでいるようでして、援軍を向かわせるからこちらも直ちに迎撃の準備をしろとのことですが、いかがいたしましょうか」

「無茶な……っ!」


 こっちは海龍の対処に手一杯で、海賊なんぞに割ける戦力なぞないというのに、一体どうしろというのだ!


「仕方ない……おい、今すぐサンビカ支部に繋げ!」

「はっ!」


 こうなったら、手段を選んでいる暇はない。

 嫌でも力を貸してもらうぞ、テンジョウアホ!



****************



「うーん、まだ着いてないみたいだな」


 僕は港に着くと、ロバーツさん達の船がまだ着いてないか確認する。

 しかし、残念ながら船は見当たらない。


「サズウェル、サズ子達は後どのくらいで——?」

「うん? あれは……? テンジョウアホ君!」

「……」


 僕は断じて、そんな屈辱的な名前で生まれた覚えはない。

 なので、本当は返事をしたくはない。したくはないのだが……オズの考えたそのふざけた偽名を知っているのは間違いなく……。


「どうして、こんな所にいるんだい?」

「ファンボさん……」


 遠くから駆け寄ってきたのは、予想通りお昼にオズの屋敷に訪ねてきた海兵の人だった。


「す、少し散歩をしていて」

「散歩? ここからオルフェウス家まで、一体何キロあると思っているんだい?」

「い、一キロくらいですか?」

「本気でそう言っているのだとしたら、私は君を今すぐ病院のベッドに縛りつけなくてはいけなくなるな」


 ファンボさんは、呆れたように首を振る。


「……君、抜け出してきただろ」

「……はい」

「はぁー……、一応理由を聞こうか」

「それは、その……」

「まあ、ここに居る時点で大体予想はつく。海龍がまた襲ってこないか不安で、様子を見に来たという所だろう」


 全然違うが、本当の目的を言うわけにもいかないのでとりあえず頷いておく。


「そんなに、我々が信用出来ないかね?」

「いえ、そういう訳では……」

「なら、大人しくオルフェウス家に戻りなさい。オズ様も、きっと心配している事だろう。羨ましい事だ」


 ……そういえば、この人はオズのファンだったな。

 丁度良いし、少しオズの事を聞いておこう。


「オズって、結構有名人なんですか?」

「有名人なんてものじゃないさ。この国の人なら誰でも知っている名演奏家だよ」

「へぇー、知りませんでした。それじゃあ、オズは良く発表会に出ているんですね」


 オズからはたまにと聞いていたが、この様子からするとは大分控えめに言っていたようだ。


「発表会? はっはっはっ! そんな訳ないだろ。オズ様が出ているのは、演奏会さ。他国の人には、少し違いが分かりづらいかな?」


 あれ、そうなのか?

 でも、確かオズは発表会って言ってたような……? 僕の聞き間違いか?


「えっと、その二つは何か違うんですか?」

「そうだな。簡単に言えば、発表会はその名の通り練習の成果を発表する場さ。そして、演奏会は自分の音楽を表現する場だ」

「……?」

「うーん、もっと分かりやすく言うなら、曲のテーマが決められ、いかに楽譜通り正確に演奏出来るのかを問われるのが発表会だ。ここで審査員に一定以上の実力を認められないと、演奏会には参加する事が出来ない。何故なら、演奏会とは発表会とは逆に自由に決めた曲を、一体どのようにして自分なりに表現するかが問われる場所だからね」

「はぁ……、凄いんですね」

「凄いなんてもんじゃない! 毎年発表会に出場する演奏家は何万人といるが、演奏会に出ることが認められる演奏家なんて、そのうちの一%にも満たないんだぞ! ましてや、演奏家貴族になった者など、この国の歴史を振り返っても百人もいない! 音楽に関しては、オズ様は天才過ぎるほど天才なのだ!」

「そ、そんなにですか」


 恐らく、ファンボさんもかなりの音楽好きなのだろう。

 言葉に相当熱がこもっている。


「ああ、オズ様の奏でる音は、その全てが聴く者を魅了すると謳われているほどだ。私も実際に聞いたことがあるが、あれほど心を揺らされるものを私は他に知らない。それにあの年で当主の座にまでついているというのに、毎月欠かさず演奏会に出席し続けている。あの事件があってから、まだそう年月も経っていないのに……本当に、立派なお方だよ」


「当主……?」

「うん? 何をそんな不思議そうな顔をしているのだ?」

「い、いえ、オズが当主なんて初めて聞きました」

「……君は、オズ様のお父上の知り合いの息子さんではないのかね?」

「そ、そうなんですけど……」

「……何も説明されていないのか」


 僕が本当に混乱していると、どうやら嘘をついている訳ではないと判断してくれたのか、少し怪しげに僕を見ていたファンボさんはひとまず納得してくれた。


「すまない。私が言ったことは忘れてくれ」

「……あの」

「オズ様が伝えていないのに、私の口から勝手に教えるわけにはいかない」


 僕がその話を詳しく聞こうとすると、ファンボさんから先に釘を打たれてしまう。


「……それでも、お願いします。僕はその話を聞かなくちゃいけない気がするんです」

「……かなり悲惨な話だ。オズ様が話さないのは、きっと君に気を使って欲しくないからではないか?」

「だからと言って、知らないままで良いはずがありません。僕はもうすぐ、この国を出ていかなくてはならない。もう時間がないんです!」

「……」


 ファンボさんは、暫く難しそうな顔で考え込む。

 その時、ファンボさんの元に別の海兵が走ってきた。


「ファンボさん。海軍基地から連絡です!」

「……すまないが、少し待っていて貰ってもいいか?」

「はい……」


 ファンボさんは僕に軽く頭を下げると、やって来た海兵に話を聞く。

 すると、ファンボさんの顔はみるみると強張っていった。


「……馬鹿な、彼は一般人だぞ! 国は違えど、我々が守るべき市民だ‼︎」

「で、ですが……」


 その時、海兵さんの視線がチラリと僕に向けられる。

 ……なるほどな。


「ファンボさん、取引をしましょう」

「……なんだと?」

「僕がこの国を襲う海龍をどうにかします。だから、オズに関しての情報を教えてください」

「駄目だ」

「お願いします! 僕はオズが住むこの国を守りたいんです!」


 誠心誠意、頭を下げる。

 ファンボさんは暫く葛藤するかのように頭を抱えると、ボソリと呟いた。


「……どうするつもりだ」

「オズとちゃんと話し合います」

「違う! 海龍の話だ!」

「一発ぶん殴ります」

「君はふざけているのか! 喧嘩じゃないんだぞ⁉︎」


 しかし、ファンボさんは僕が真面目に言っていると察したのか深い溜息を吐いた。


「ああ、もう……それでは、君に任せたくても任せられないじゃないか。分かった。ひとまず、我々の支部に来たまえ。そこで話をしよう」

「海龍の話なら——」

「違う、オズ様の話だ。立ち話でするような内容の話じゃない。勿論、その後しっかりと海龍の対策もするからな。この国を君一人に任せるわけにはいかない。我々も全力でサポートする」

「……っ、はい!」



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