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呪いの効果


「~~~~~~~~っ!」

「お、おい、大丈夫か⁉」

「だ、だい……じょうぶ……」

「顔が真っ青でだらだらと汗が止まらず、そこら辺の老いぼれよりも声がガラガラ枯れているのに! 本当に大丈夫なのか⁉」

「は、はい……」

「嘘つけぇーっ! 素人の目は誤魔化せても、医者の目は誤魔化せんぞ‼」


 ……なら、聞かないでもらえますかと、心の底から叫びたい。


「どこが悪いんだ? 頭か? 顔か?」

「あ、あの、何か聞き方に悪意を感じるんですけど……」

「私は真面目だ!」

「じゃ、じゃあ、頭?」

「そうかそうか、君は頭が悪いのか! それは大変だ! しかし、非常に残念な事にそれを治療する術はない!」

「おい、アンタ! やっぱり、僕のこと馬鹿にしてんだろ⁉」


 ていうか、このやたらテンションの高い医者の爺さんは一体何なんだ?

 さっきから声ばかり大きくて、診察っぽいことを何もしてないぞ。


「……ふむ、【医療指示】」


 すると、急に冷静になった爺さんが僕の頭に触れて魔法を使う。

 その瞬間、身体が嘘のように楽になった。


「よし、これで大体の傷は治っただろう。頭の悪さ以外に違和感のある所はあるかね?」

「え? ……い、いえ、無いです」

「よろしい」


 医者は椅子に座ると、サラサラとカルテのようなものを書き始める。


「あ、あの、今までの質問って意味あったんですか?」

「うん? 特にないが?」

「お前、本当に医者か⁉」

「失礼な。ちゃんと治療してやっただろう?」

「だからぁ! その前までの茶番は、一体何だったんだって聞いてんだよ!」

「何だ知らんのかね? 今この国では、喧嘩が流行っているのだよ。だが、怪我人相手に殴り合ってもしょうがあるまい。だから、私は口喧嘩をしていたのさ」


 爺さんはニヤリと笑うと、まるで勝ち逃げするように荷物をまとめてさっさと部屋から出て行きやがった。


 本当に、この国が嫌いになりそうです。


 すると、あの人を連れてきたオズが気まずそうにフォローする。


「あ、あははー……ちょっと変わってるけど、あれでもかなり腕が良いって世界的に評判の先生なんだよ? 仕事で偶然この国に来てたみたいで、海龍から国を守ったおにーさんの為に、わざわざ駆けつけてくれたみたい」

「確かに、腕は良いみたいだけど……」


 僕は試しに包帯を解いてみると、海龍に喰い千切られた傷口がもうほとんど治りかけている。

 魔法というのは、相変わらずとんでもないな。


「でも、アザは引いてないね……」

「……まあ、これもそのうち治るよ」


 僕は対面にある鏡で、頬に刻まれた赤黒いアザを見る。

 パッと見はかなりグロいが、見た目に反してアザ自体はあまり痛くない。


 ある時を除いて、だが……。


「それはそうと、オズ。もう手を放しても大丈夫だぞ?」

「え? あっ、ごめんなさい……」


 僕がそう言うと、オズは顔を真っ赤にしながらぎゅっと握っていた僕の手を慌てて離す。

 オズは無意識だったようだが、診察中ずっと手を握り締めていてくれたのだ。


 それだけ、僕のことを心配してくれていたのだろう。

 わざわざ指摘するのは、少し意地悪だっただろうか?


「ぼ、僕、何か食べられるもの持ってくるね!」

「あっ、オズ!」


 すると、羞恥の限界を迎えたのか、オズは耐え切れなくなったように部屋から飛び出して行ってしまった。


『お前、最低だな。童からの好意を自分の都合で袖にするとは』

「ここぞとばかりに、出てくるんじゃねえ」

『私と喋りたいと言ったのは、お前の方だろう? やはり、人間は都合が悪くなると簡単に——』

「だぁーっ! 悪かったって!」


 色んな意味で疲れ果てた僕は、思いきりベッドに倒れ込む。


「……バレてると思うか?」

『何がだ?』

「気付いているくせに……」

『さてな。気付いていれば、面白いんじゃないか?』


 サズウェルはニヤニヤと嗤っているのが目に浮かぶほど、意地悪そうな声音でそう答える。


「はぁー……、人に触れられなくなるって意味が良く分かったよ」


 僕は、先程まで焼けるような激痛を放っていた左頬のアザを改めてなぞる。

 こんな風に直接触っても全然痛くないくせに、他人に身体を触れられた瞬間、たちまち激痛が走るんだからタチが悪い。


『ちなみに、あの医者は気が付いていそうだったけどな』

「マジで?」

『ああ、本当に腕は確かなようだ。その証拠に、診察と言いつつも明らかに異常がありそうな頬のアザや露出した肌には一切触れなかっただろ?』


 ……確かに、それはずっと気になっていた。

 あのジジイがいくらふざけていたのだとしても、流石にこれだけ異常がありそうな箇所を一度も触れられていないのはおかしい。


「あれ? でも、それってつまり、僕は見捨てられたってことか?」

『ウケるな』

「あのジジイ、やっぱり最悪じゃねえか」

『いや、分からんぞ? もしかしたら、お前がアザのことを隠しているのすら見抜いて、黙っていたのかも知れん』

「……なるほど」

『まあ、だとしたら、あの子供がずっと手を握っていたせいでお前が悶えてたのを知った上で、無駄な質問を重ね、なおかつお前を馬鹿にしながら診察時間を引き延ばしていたという事になるがな』

「あのクソジジイは、今度見つけたら一発ぶん殴ろう」


 医者のクセに、何とタチの悪いジジイなんだろう。

 下手したら、サズ子と良い勝負だ。


「ちなみに、一応確認なんだけど……このアザが呪いなのか?」

『そうじゃなければ、新種のウィルス。天条菌だな』

「小学生のイジメあるある止めろって」


 確かに、同級生によく天条菌とかやられたけどさー……バリアで防がれるタイプの。


「これ、服の上から触られても駄目なのかな?」

『やってみれば良かろう?』

「ああ、お前がそう言うってことは駄目なのか……」

『私のことを良く分かってきたみたいだな。だが、あまり調子に乗るなよ?』

「へい」


 段々相手にするのが面倒くさくなってきたので、適当に返事を返して目を閉じる。

 疲れてるし、少し寝るか。


『起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ』


「うるせぇぇええええええええええええええええええええええええっ‼」


 僕は布団から跳ね起きると、親指に嵌っている大ぶりの指輪に向かって叫ぶ。


「何だよ⁉」

『ふんっ! お前が私の相手を面倒くさがったからだろう! これは、立派な契約違反だ!』

「なっ⁉ 嘘だろ……お、お前、その性格でかまちょなのかよ。最悪だな」

『誰がかまちょだ! 不愉快だ! 私はもう寝る!』

「不愉快はこっちの台詞だぁーーっ!」


 その時、廊下からバタバタと足音が聞こえる。


「お、おにーさん⁉ 凄い叫び声が聞こえたけど、大丈夫⁉」

「あ、えーっと……、すまん。ちょっと、最悪な夢を見ていた」


 僕はギロリと親指の指輪を睨むが、サズウェルからの反応はない。

 ……本当に、コイツ等は揃いも揃ってタチが最悪だ。


「その指輪って……やっぱり、悪器なの?」

「あれ? オズは、悪器を知っているのか?」

「むしろ、悪器を知らない人なんているのかな⁉︎ いくら何でも、僕のこと子供扱いし過ぎだよ!」


 オズはぷくーっと膨れると、怒ったように僕の腕をポンッと叩く。


 奇しくも、服越しでもしっかりとアザに激痛が走る事が証明された瞬間である。

 優しく触れられた程度なのに、思わず涙が溢れてしまいそうだ。


「……でも、悪器を持っている人には初めて会ったよ」

「そうなのか?」

「そりゃあ、ここは低海層だし武器とは無縁の国だからね。でも、悪器を持ってるのは怖い人ばっかりだと思ってた」

「いや、それは僕も良く知らないけど……」


 僕はともかく、アリスさんも持っていたことを考えると、悪い人しか持っていないとは限らないんじゃないか?


「悪器も、実はそんなに怖くなかったりして?」

「いや、コイツ等は間違いなく最悪だ」


 オズがそっと手を伸ばしてきたので、僕は慌てて指輪を隠す。

 子供の好奇心とは恐ろしい……寝ている間に、触られたりしないだろうか?


「そうなんだ?」

「ああ、本当に……」

「そ、そうなんだ……」


 今までしてきた苦労を思い返したら、自然と言葉に重みが出てしまった。

 それを聞いたオズは、少し引いたような顔をしながら慌てて手を引っ込める。


「それで、おにーさん。今海軍の人から連絡があって、明日のお昼頃に海龍について少し話を聞きたいみたいなんだけど……」

「海軍……」


 僕が思わず難しそうな顔をしてしまうと、オズが慌てたように手を振る。


「だ、大丈夫だよ! おにーさんは、()()()だもんね! 僕も正体がバレたら不味いと思って、ちゃんと偽名を伝えておいたから!」


 僕は目を丸くして、オズを見る。


「オズ、それ……」

「……大丈夫、僕は天条おにーさんを信じてるから」

「……」


 何という事だろう。まさか……。


「……まさか、本当に宇宙人だと思われていたなんて…………」

「いや、違うよ⁉︎」

「ううん、ごめん。そうだった。僕は地球という星から来た、日本人という宇宙人なんだ」

「いや、何その無駄に凝った設定⁉︎ ていうか、僕は別におにーさんが宇宙人だって信じてるわけじゃないからね⁉︎」

「あれ、違うのか?」

「そうだよもぉー……折角、おにーさんのノリに合わせてあげたのに台無しだよ……やっぱり、あの偽名にして正解だった」

「え?」

「なんでもなーい」


 オズは呆れたようにため息を吐くと、ずっと強張っていた顔をくしゃりと崩す。


「あーあっ、何だか心配してたのが馬鹿らしくなっちゃった」

「おい、それはおかしいだろ」

「え、心配して欲しいの?」

「されないよりは、された方が嬉しいな」

「ふーん……」


 オズは、何だか良いことを思いついたかのようにニヤリと笑う。

 ……凄く顔が引き攣ってしまうのは、何故だろう。


「おにーさん! 無事で本当に良かったーっ! 助けてくれて、本当にありがとーっ!」

「ぐふぅっ⁉︎」


 そう言うと、僕の予想通り、オズは僕の胸に向かって思いっきり飛び込んでくる。

 オズに抱き着かれた瞬間、凄まじい電流のようなものが僕の全身に走った。


「あ、あれ……? ちょっ、おにーさん⁉︎ 顔が青を通り越して真っ白になってるけど、大丈夫⁉︎」

「だ、だい……じょう…………」

「お、おにーさん? おにーさーーーーんっ⁉」


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