これ以上ない程の悪い報告
「……っ、痛っ⁉」
突然、頬っぺたに針を突き刺したかのような鋭い激痛が走り、僕は慌てて飛び起きる。
「あ、ごめんなさい……」
すると、隣にいたオズが驚いたように手を引っ込める。
……なるほど。また、イタズラか。
「コラッ、イタズラだとしても針で刺すなんて危ないだろ」
「えっ⁉ そ、そんな事してないよ!」
「本当か~?」
「う、うん! ほら!」
オズは慌てて引っ込めた両手を広げて、僕の目の前に差し出す。
うーん、確かに何も持ってなさそうだな。
まあ、僕も本気でオズがそんな事をするとは思ってないけど。
「で、でも……、頬っぺたにアザが出来ていたから少し触っちゃった……ごめんなさい」
「あー、それでか……ありがとな、心配してくれたんだろ?」
僕は納得すると、詫びるようにシュンとしているオズの頭を撫でる。
「……怒らないの?」
「え、何でだ? むしろ、僕の方こそ疑ってごめん」
すると、オズは驚いたように目を見開く。
「お姉ちゃん……」
「お、お姉ちゃん?」
その瞬間、僕は酷く自分の身体の一部が心配になる。
ま、まさか、喰い千切られたりしてないよな⁉
「ご、ごめんなさい。言い間違えちゃった」
「ああ、良かった……」
「良かった?」
「ナンデモナイヨ」
流石に、子供相手に下ネタは言えない。
僕の場合、相手が子供じゃなくてもあんまり言わないけど。
「というか、さっきから気になってたけど、ここは何処なんだ? 何だか、随分と豪華な部屋みたいだけど?」
現在、僕は漫画に出てくる王様が寝ていそうな天蓋付きの巨大なベッドの上にいる。
ていうか、部屋の中のどこを見渡しても一目で高価そうだと分かる物ばかりだ。
「僕の家だよ?」
「え……? オズって、もしかしてお坊ちゃま?」
「あー、一応そうなるのかな?」
「いやいや、こんな家に住んでたら間違いなくそうだろ!」
「あははっ、そうだよね」
オズはまるで微笑ましいものを見るような目で僕のことを見ると、乗っていたベッドから離れる。
「それより、今先生を呼んでくるからまだ大人しく寝ててね」
「う、うん、分かったよ」
オズは背伸びしながら扉を開けると、僕に手を振って部屋を出て行ってしまった。
僕はオズがいなくなった瞬間、改めて自分の怪我の具合を確かめる。
……良かった。所々包帯が巻かれて良く分からないが、欠損している部位はなさそうだな。
『……自分の下半身を見て喜ぶな、この変態め』
「いや、安心してただけで、別に喜んではないですけど⁉」
とんでもない誤解をしているサズウェルに慌てて訂正を入れながら、コイツが戦闘でもないのに声をかけてくるのは珍しいなと不思議に思う。
「それで、急にどうしたんだ?」
『何だ? 用が無ければ、話しかけてはいけないのか?』
「いや、今の僕にはお前しか頼れる相手がいないし、お前が嫌じゃなければもっと話したいと思ってるくらいだ」
『はぁ??? 全然嫌に決まってるだろうが???』
「じゃあ、何で聞いてきたんですかねぇ⁉」
コイツは一切トーンを変えずに話すので、本気で言っているのか冗談で言っているのか全然分からない。
『ふん、当然だが用はある。良い報告と悪い報告、どちらから聞きたい?』
「良い報告からで」
『お前は、鼠共に呪われた』
「どこが良い報告だ!」
『私はとても嬉しい』
「お前にとっての良い報告かよ⁉」
色々な意味で最悪な気分だ。
何故、急に呪われなければならない?
「の、呪われたって、僕はどうなるんだ?」
『残念ながら、死ぬようなものではない』
「よ、良かった……」
『ああ、このまま放置していると人に触れられなくなる程度の軽い呪いだ』
「最悪だぁ!」
コイツぶっ飛ばしてやろうか⁉
いちいち、上げて落とすのは辞めてくれ!
『なら、呪いの解き方を教えてやろうか?』
「そ、そうそう! そういうの教えてくれ!」
『死ねば解けるぞ』
「お前、本当いい加減にしないとキレるぞ⁉」
そう言いながらも、僕は一旦落ち着くために深呼吸をする。
サズ子と違って、悪意が剝き出しのサズウェルに聞いてもこれ以上まともな答えは返ってこないだろう。
それに幸いなことに死ぬような呪いではないらしいし、海龍が関係しているのなら呪いを解くのは後でどうにでも出来る気がする。
最悪、ディアを頼ろう。
『何だつまらん。意外と冷静じゃないか』
「本当は、お前が教えてくれたら手っ取り早いんだけどな」
『お前みたいな生意気な奴には、もう何も教えん』
「頼むから、子供みたいな拗ね方しないでくれよ……」
僕は、深く溜息を吐く。
ていうか、良く考えてみれば今の報告よりも悪い報告があるのか。
今までの話は全部嘘で、僕は明日死にます。とかだったらどうしよう。
「……よしっ、覚悟が出来たからそろそろ悪い方を教えてくれ」
『……』
「……? サズウェル?」
『……主人格が、もうすぐこの国に来るぞ』




