宇宙からの来訪者?
「……ん」
「……に……ん」
「うん……?」
……何処か遠くから、誰かの声が聞こえてくる。
誰なのかは知らないが、静かにして欲しい。
僕は今久しぶりに、気持ち良く眠れているところなんだ。
「……れ? ま……二度……? ……く、しょうがないなぁー」
しかし、再び眠ろうとしても、徐々に意識が覚醒してきているのか、遠くに聞こえていた声がだんだんハッキリと聞こえてくるようになる。
……これは、子供の声か?
僕は、ようやく瞼を開ける。
すると、僕のすぐ目の前には……巨大な金色の穴が開いていた。
どうやら、ラッパの口の部分が僕の顔に覆い被さるように向けられているみたいだ。
……って、ちょっ⁉
「BooOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOh‼」
「ぎぃゃぁぁああああああああああああああ! 耳がぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ‼」
鼓膜に致命的なダメージを負った僕は、耳を抑えながら何度も地面を転がる。
一体、誰だ⁉ こんな酷い事をしたのは⁉
「あっははははははっははっははははっははははははははははははっ!」
すると、近くからやけに不気味なリズムの笑い声が聞こえてくる。
良かった。どうやら、鼓膜は無事みたいだ。
僕は永遠に鳴りやまない耳鳴りを堪えながら、笑い声の方に視線を向ける。
地面に背中を付けながら腹を抱えて笑っていたのは、輝く金髪にディアよりも幾分か明るい太陽のような色の瞳をした紅顔の美少年だった。
「おにーさん、やっと起きたね! おはよう!」
「いや、全然おはようって気分じゃないけど⁉ 何で君はさも何事も無かったかのように挨拶出来るのかな⁉」
「目を覚ました人には、おはようって言うんだよ? お母さんに習わなかったの?」
「ついでに、寝ている人の耳元で思いっきりラッパを吹くなって、お母さんに習わなかったのかなぁ⁉」
「うん! 習わなかった!」
「そうだよねぇ! だって、普通やらないもんねぇ!」
「あはは! 当たり前じゃん! おにーさん何言ってるのー?」
男の子はそう言って、悪意なんて一欠けらも持ってなさそうな明るい笑顔を僕に向ける。
「……じゃあ、今度からはしないって約束出来るかな?」
「はーい!」
「はぁ……、ならもういいよ」
「やったー! それより、おにーさん! なんで、浜辺でなんか寝てたの?」
僕はふと周りを見渡す。
そういえば、ここは一体何処なんだろう?
海龍に攫われた後、いつの間にか意識を失っていたせいで記憶が全くない。
「……ねえ、君。ここって、何処なのかな?」
「え、なんで?」
「実は僕乗っていた船から落ちちゃって、そのまま流されたみたいなんだよね」
「えっ⁉ じゃあ、ここまで漂流してきたってこと⁉」
「そうみたい」
「すごいすごい! おにーさん、良く生きてたねぇーっ!」
男の子は興奮したようにそう叫びながら、ぴょんぴょん飛び跳ねる。
いちいち反応が大きい子だな。まあ、でも、このくらいの子供なら普通か。
「あっ、ここがどこかだったよね? えっとね、ここは第三海層アーベル海! 音楽国家【サンビカ】だよ!」
「第三海層……本当に、そうなのか」
「え?」
「ああ、ごめんね? 最近海層渡りをしてきたばかりだから、ここが何海層なのかすらちょっと曖昧で……」
「えーっ! いいなぁー! おにーさん、海層渡りしたんだぁー! 僕、海層渡りした事ないから一回してみたいんだよ!」
少年はそう言って、キラキラとした目で僕を見つめてくる。
まるで、ジェットコースターに乗ったことない子供みたいな反応だが、アレそんなに良いモノなのか?
「しかし、困ったな……」
「どうしたのー?」
「いや、仲間とどうやって合流しようかなって」
「その人達って、まだ生きてるの?」
「生きているとは思う。たぶん……」
サズ子はよっぽどの事がないと死ぬ気がしないし、サズ子が生きているなら……きっと、ロバーツさん達の事も守ってくれているはずだ。
「……よし、行くか」
「いや、ちょっ、おにーさん⁉」
「うん?」
僕が海に向かって歩き出すと、男の子は慌てたように僕の足に抱き着いてくる。
「急に海に向かって、どうするつもりさ⁉」
「え、元の場所まで泳ごうかなって」
「おにーさんは、馬鹿なのかな⁉」
「やかましい」
僕が少年に軽くチョップをすると、あうっと声を出して少年は足を離す。
ただ、確かに漂流してきたばかりで再び海に戻ろうとしたら、自暴自棄にでもなったんじゃないかと心配されるのは当然だ。
僕は少し考え込むと、額を抑えて恨めしそうにこちらをみている少年と視線を合わせる。
……見た目からして、恐らく小学校低学年くらいだろう。
僕は安心させるように優しく笑うと、諭すように男の子に向かって説明する。
「実は、僕は宇宙から来た宇宙人なんだ。だから、どれだけ海の中にいても溺れることはないから心配しないで」
「うわぁー……、おにーさん漂流している間に頭でも打ったんじゃない? 悪いことは言わないから、僕と一緒に病院行こ?」
男の子は思いっきり顔をしかめると、逆に僕を優しく諭そうとしてくる。
ははっ、子供は正直だなぁ……ぶっ飛ばしてやりたい。
「おかしいな。このくらいの年齢なら、これでいけるかと思ったんだけど……」
「ねえ、おもいっきり心の声漏れてるよ⁉ 大体、子供だからってあんまり馬鹿にしてると痛い目に会うんだからね!」
「ああ、うん。ごめんごめん、そうだよね。僕が悪かったよ」
「もーっ! おにーさん、絶対分かってないでしょーっ!」
両手を上にあげて分かりやすいくらい怒ってますという顔をした少年を見ていると、微笑ましい気分になる。
第一印象は最悪だったが、こうして見ると本当にただの子供だ。
僕は謝る代わりに少年の頭を撫でてあげると、海の方へ。
「それじゃあ、君。元気でね。僕はそろそろ、自分の星に帰る事にするよ」
「その設定まだ続ける気なんだ⁉ ていうか、おにーさんははぐれたお友達の場所分かってるの⁉ もしかしたら、おにーさんと同じでこの国に流れ着いてるかも知れないんだよ!」
ピタッ。
僕の足が止まる。
確かにもしあの状況を切り抜けたとしたら、まず目指すのはこの国になるんじゃないか?
ロバーツさんも、黒海から一番近い国はここだと言っていたような気がする。
それに良く考えたら、どうやってこの広い海でサズ子達と合流するのはかなり困難ではないだろうか。
どうしよう、少年の言う通り、本当に頭でも打っていたかもしれない。
「分かった。君がそこまで言うなら、暫くこの街で仲間を探してみることにするよ。それにここにいれば、宇宙船で僕の仲間が迎えに来てくれるかも知れないしね」
「……おにーさん、分かったよ。そこまでしてその設定を守りたいなら、僕からはもうこれ以上何も言わないけど……でも、辛くなったらいつでも言っていいからね?」
「……」
むしろ、その優しさのせいで致命的なまでにこの設定を止めるタイミングを見失った気がするのは、僕の気のせいだろうか?




