悪器との正しい接し方
「ほっ」
「ぎにゃぁぁああああああああっ⁉︎」
パシャッ!
僕が手摺に立て掛けておいた釣竿を引き上げると、キラキラと眩しく輝く魚が釣り上げられる。
ピチピチと元気良く跳ねている魚を手前に引き寄せて、魚の口の中にある釣り針を外してやると、サズ子が驚いたように目を丸くした。
まあ、当然だろう。
何故なら、魚の口から出てきたのは黒十字の長い部分を千変万化でフックに変えた、なんちゃってルアーのドゥルジだったからだ。
「蒼、これ……」
「ああ、お前と同じでコイツも気難しい奴みたいだけど、でも、これから一緒に旅をするんなら、少しくらい心を開いて欲しくてさ……だから、ドゥルジもサズ子みたいに雑に扱えば、心を開いてくれるんじゃないかなって」
「凄く良いと思う。感動した」
「ぶち殺すぞ⁉︎」
その時、はぁ……はぁ……っと辛そうに息をしていたドゥルジが弾かれたようにそう叫ぶ。
「うーん、まだ駄目か」
「ちょっ、みゃーーっ⁉︎」
僕は釣れた魚を船にあるトロ箱に放り込むと、大きく振りかぶって再びルアーを海に投げ込む。
すると、すぐに魚が食らいつく感触が釣り竿から伝わってきた。
ふむ。こんな適当なルアーでも、案外釣れるものだな。
僕は釣り竿を引き上げ、再び元気よく跳ねている魚をルアーから外してやる。
「ぷはぁっ⁉︎ おまっ、本当にやめろ⁉︎ こんなか細い糸を繋げた程度の命綱で、私を海に放り投げるんじゃない! 今の私のサイズが見えないのか⁉︎ 魚にパクリとイカれたまま、糸を食い千切られたらどうするんだ⁉︎ そんな事になったら、本当に次いつ陸に戻れるか分からないんだぞ⁉︎」
「おっ、こんなに長文で話すドゥルジは初めて見た。どうやら、作戦通り順調に好感度が上がってきたみたいだな」
「お前、正気か⁉︎ 控えめに言って、今の状況は誰がどう見てもとても友好的になろうとしてる奴から出てくる発想じゃない!」
「うん。僕もそう思う」
「やっぱ、お前喧嘩売ってんだろ⁉︎ 上等だ! 誰でもいいから魂を寄越せ! 今すぐお前を燃やし尽くしてやる! 本来の力の半分も出せてなかった私に勝ったからって、あんま調子に乗るなよ⁉︎」
ギャーギャーっと文句を言うドゥルジを見て、僕はやれやれと肩をすくめる。
「違うって、分かってないなぁー。お前もサズ子も、善の感情なんて一欠片もない悪なんだろ?」
「あん?」
「——だったら、悪いことをしたら喜ぶかなって」
「お前は、本物の馬鹿か⁉︎ そもそも、私達は何をされても喜ばないって言ってんだよ!」
「初めは、みんなそう言うんだよ。でも、大丈夫。サズ子も一回海龍でぶっ飛ばしたら、素直になったからさ」
「どうしよう、蒼が若干サイコパスになっちゃった……でも、私はそんな蒼が好き」
「ほらな?」
「サズウェルぅ‼︎ お前は、絶対にこの状況を楽しんでいるだけだろ⁉︎ いいから、遊んでないで早く私を助けろ! コイツの背中を押すんじゃない! 全力で海に蹴り飛ばせ! さもないと、この人間はこれが私達に対する正しい対応だと思い続けるぞ⁉︎」
「楽しむ……? 何それ? 私は悪だから、そんな感情知らない」
「お前等マジで死ねよぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ‼︎」
トプンッ。
軽い音を立てて、ドゥルジは再び海の中に消えていく。
やれやれ、彼女は一体あと何匹釣れば素直になってくれるのだろうか。
「おーい、釣れてるか少年」
「ええ、何故か爆釣です」
「そいつは凄い。餌も無しによくやるもんだ。釣りの経験が豊富なのかね?」
「いえ、父とたまに釣りをしてただけで、豊富とまではいかないですね」
「なるほど。ならば、きっと才能があるのだろう。お嬢ちゃんもやるかね?」
「私はいい。見てる方が楽しいから」
「そうか。では、海層渡りをする時はまた声をかける。それまでは楽しんでいてくれ」
ロバーツさんはそう言うと、船の中に戻っていった。
「さて、サズ子。ドゥルジの様子はこんな感じだ。約束通り、海層渡りについて教えてくれ」
僕はまたもやルアーにかかった魚を外しながら、くそぅ……っと諦めたように半泣きで呟いているドゥルジをサズ子に見せる。
すると、サズ子は満足そうに頷きながら上黒海の方を指差した。
「あそこには——」




