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船上の攻防戦


「……ふわっ」


 船内がわずかに騒がしくなってきた気配を感じ、私は意識を覚醒させる。


 まだ、身体がだるい……人間の身体とは、何と不便なんだろう。

 あの程度の力を行使しただけで、ここまで体調が崩れるとは……どうやら、蒼は気が付いていなかったようだが……ドゥルジは読めないな。


 どちらにしても、これからは力の使い方を考えなければ、アイツが裏切ってきた時に対応出来ない。


「……本当に、面倒くさいわ」


 折角、私と蒼の二人旅だったのに……。


「……はぁ、最悪」

「おっ、起きたか、サズ子。ちょうど、海層渡りをするところらしいぞ」

「知ってる。船の中が騒がしいもの」

「え、そうか? 確かに外はちょっとバタバタしてるけど、部屋の中まで聞こえてくるほどではないだろ?」

「耳には聞こえなくても、音は振動となってここまで伝わってきている。眠るにはうるさいくらいにね」

「ふーん、何だかイルカみたいだな」

「そこまでではないけど……でも、意識すれば私のように、人間の身体でも目には見えない振動を感じることは出来るはずだよ」

「あーっ、確かに昔テレビで舌打ちをして、返ってくる振動で物の位置が分かる人を見たことがあるな。正直、テレビで見た時はあまり信じていなかったけど、同じようなことをサズ子も出来るのか?」

「まあ、たぶん出来るけど、実際に目で見た方が早いからそんな面倒くさいことはやらない」

「そりゃそうか」


 蒼は肩をすくめると、自然な動作で私がまだ横たわっているベッドの上に座ってくる。

 ……ふむ。


「……蒼、私まだ眠い。だから、このまま一緒に次の国に着くまで寝てよ?」

「お前、今起きたばっかだろ。それにお前と寝ると色々な意味で危険を感じるから嫌だ」

「チッ」


 つまらない。これだから、童貞は困る。

 何故、これほどの美少女が隣で寝ているというのに、蒼は邪な気持ちにならないのだろう。


「それより、いい加減に教えてくれよ」

「何を?」

「海層渡りの方法」

「何かを得るには、代償が必要」

「よし、分かった。それじゃあ、受け取ってくれ……僕の最大限の感謝を込めた、アイアンクローを」

「邪な気配!」


 ゴキゴキッ! という、あり得ないくらい大きい関節が鳴る音を聞いた瞬間、私は気だるかった身体を無理矢理叩き起こすと、すぐさま後頭部を守りながらベッドから飛びのく。


「蒼、私が求めているのは、別の方の邪な気持ち」

「何訳わかんないこと言ってんだ」

「……ちなみに、私は蒼のせいで重傷を負っていることを忘れない方がいい。さもないと……」

「さもないと?」

「……蒼が引くほど、本気で泣く」

「お前の涙は、いつもいつも安っぽいんだよ! 大体、お前は涙を人を脅す道具にしか使えないのか⁉」

「泣けば大抵何とかなると思っている。女ってそういうもの」

「ってことは、お前やっぱり全然反省してねえな⁉︎ ていうか、そろそろ本気で全世界の女性に謝れ! その後、お説教だ!」

「お説教と言うなら、その手はなに⁉︎ 鉄拳制裁は、蒼の世界で禁止されていたはず!」

「知るか! ここは異世界だ! それに、お前はガルバンディアで散々アランさん達の事をディスってたけど、そもそも一番痛い目を見ないと反省しないタチが最悪な奴はお前だろーが!」

「だからと言って、暴力は良くない! 蒼の世界のモラルは、一体どこに投げ捨ててきたの⁉︎ そうやって、すぐに意見を変えて! これだから、人間は困る! 私との契約も、今みたいに簡単に破り捨てるつもりなんでしょ⁉︎」

「お前と一緒にするんじゃねえ⁉︎ お前がドゥルジとの契約を簡単に破り捨てたって話、僕はまだ忘れてないからな!」

「……あれは、ドゥルジの真っ赤な嘘」

「嘘つけ!」


 私達は激しく口論を繰り広げながらも、達人の間合いでお互いの距離を測る。


 まっ、不味い⁉︎ あの性悪女に鍛えられているだけあって、蒼は間合いの取り方が無駄に上手い!


 ジリジリと確実に間合いを詰めてきている蒼に対して、私が冷や汗を垂らしていると……ふと、やけにドゥルジが静かなことに気が付く。

 まあ、そもそもドゥルジに静かにしていろと命令したのは、この私だが……アイツはその程度で素直に大人しくなるような奴じゃない。


「……これは、別に話を逸らすわけじゃないんだけど……ドゥルジはどうしたの?」

「とか言いながら、僕の一挙手一投足から一切目を離さないのは、何故なんだ?」

「…………蒼のいじわる」

「……はぁ、分かった交換条件だ」

「なに?」

「ドゥルジの居場所を教えるから、お前も嫌がらせとかしないで、素直に僕の質問に答えろ」

「分かった。交渉成立」

「はっや」


 蒼はそれはもう深――く溜息を吐きながら、渋々と構えを解く。


「……本当に、反省してるんだろうな?」

「勿論、私は話の分かる女」


 蒼が構えを解いたのを確認した後、私も蒼にバレないようにこっそり息を吐きながら、ゆっくり構えを解いた。


 今なら簡単に逃げることも出来たけど……流石に、蒼が本気でキレそうだから止めて置くことにする。

 まったく……、蒼の我儘に付き合ってあげるなんて、私はなんて良い女なんだろうか。


「……お前、やっぱり全然反省してないだろ?」

「全然してるけど?」

「はぁーーっ、お前は本当に最悪だ」


 失礼な。


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