海層渡り
甲板に出ると、ちょうどロバーツさんが海を見つめながらパイプ煙草をふかしているところだった。
「こんにちは」
「うん? おおっ、何だ少年。部屋の居心地はイマイチだったかな?」
「いえ、とても快適でした。サズ子なんてすぐ寝ちゃいましたし」
「サズ子とは、お連れさんの名前かね?」
「あっ、はい。すみません、自己紹介がまだでしたね。僕は、天条蒼って言います。もう一人の奴が、サズ子です」
「これは、ご丁寧にどうも。ところで、天条君は何故旅をしているのかね?」
「それは、えっと……」
「おお、すまんすまん。そういえば、君達は訳ありだったな。歳を食うと物忘れが激しくていかん」
「ははっ、すみません……」
「なに、気にすることはない。長い間船に乗っていると、君達みたいな人達にはたくさん出会う」
「ロバーツさんは、いつから船に乗っているんですか?」
「私か? 私はそうだな。君くらいの歳の頃には、もうこの船に乗っていた気がする。時が経つのは、本当に早いものだ」
「えっ! そんなに、この船に乗っているんですか?」
「そうだな。私は、随分と長くコイツと過ごした。もしかしたら、取り憑かれているのかも知れんな」
「それは大変ですね」
僕はそう冗談めかしながらも、感慨深そうに船を見ているロバーツさんを見て、改めて凄い人だなと思った。
僕が今からロバーツさんの年になるまでずっとこの船と共に過ごすなんて、とても想像がつかない。
きっと、本当にロバーツさんはこの船が好きなんだろう。
「まったくだ。さて、そろそろ上黒海が近い。甲板にいると吹き飛ばされるぞ」
「吹き飛ばされる……?」
「うん? なんだ、海層渡りは初めてか?」
「ええ、まあ……」
「だったら、覚悟しておくんだな。海層渡りは、そこらの海賊よりもずっと凶悪だぞ。天条君?」




